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2026.07.23 12:02

AIが駆逐したスタートアップの動画スター なぜ今「人間によるストーリー」が必要なのか

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かつて、スタートアップ企業が質の高い紹介動画を制作するには、莫大な費用がかかった。

だが、いまや生成AIの時代である。誰もが洗練された見た目のコンテンツを発信できるようになったことで、注目を集めたい起業家にとって、動画でのデビューはほぼ当然のものとなった。この現象は、1990年代にミュージシャンがMTVでミュージックビデオをリリースすることが当たり前とされていた状況によく似ている。

それが当たり前だった。そうでなければ、存在しないも同然だった。

MTVが文化的象徴として台頭し衰退してから何年も経った現在、皮肉な状況が生まれている。OpenAIの「Sora」やGoogle DeepMindの「Veo」といった高度な生成AIツールを使えば、かつてのわずかな費用と時間で、洗練された映画のような映像を量産できるようになった。それにもかかわらず、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)が報じているように、スタートアップ企業は従来通りの人間が制作する動画に大金を投じているのだ。

誰もが素晴らしい動画を作れるようになると、何が起きるのか

舞台裏を覗き、なぜ今もコンテンツが主役なのかを問いかけてみると、その答えはシンプルでありながら驚くべきものだ。「AIによってコンテンツが安価になった一方で、信頼を得ることが極めて難しくなる時代に入りつつあります」と、クリストファー・ルーイはインタビューで語った。ルーイがそう言うのも無理はない。彼は、AIスタートアップの立ち上げキャンペーンを支援するストーリーテリング・スタジオ、Brndmkrsの創業者だからだ。

Netflixの映画『XOXO』の脚本・製作・監督を務めて映画製作者としてのキャリアを築いた後、彼は人々の心に響くスタートアップ動画の監督へと方向転換した。

Cue Healthはその好例だ。彼がこの自宅向け診断技術企業のために監督した短い動画は、シードラウンドの資金調達を成功に導いた。その後、製品の説明、提携企業のストーリー、投資家用資料などが作られ、それらが統合されてロードショー(投資家向け説明会)用動画となり、2021年に同社が評価額約23億ドル(約3750億円)でナスダック市場にデビューするのを後押しした。(Cue Healthはその後失速し、パンデミック期の検査市場の崩壊に伴い2024年に事業を停止した。これは、優れたストーリーは扉を開くことはできても、持続可能なビジネスの代わりにはならないという教訓を示している)

「Cue Healthの成長過程で、私は動画が、どんな新機能にもできないことを成し遂げられると学びました」とルーイは言う。「動画は、その会社を信じやすくする。だから資金調達もしやすくなり、採用もしやすくなり、スケールもしやすくなり、世界を変えやすくなるのです」

プロダクトマーケットフィットからストーリーマーケットフィットへ

わずか数年で世界は一変した。特に2022年のChatGPTの登場は、人工知能の急速な普及の引き金となった。生成AIツールを持つ誰もが高品質な動画を制作できるようになる前は、プロダクト・マーケット・フィット(製品市場適合)が何よりも重視されていた。(この言葉は、製品が顧客の課題を十分に解決し、実際の需要を生み出す最適な状態を指す)

この観点から、2022年以前に制作されたスタートアップの動画は、主に実用性を示すことに主眼を置き、自社が最適なソリューション提供者であることを証明しようとしていた。しかし今や、AIが必要に応じて無限に動画を作成できるようになったため、焦点はコモディティからストーリーテリングへとシフトしている。

これと似たような変化は、銀行員、保険代理店、住宅ローンブローカーなど、ホワイトカラーの世界でもすでに起きている。すべての専門家が同じツールやサービスを利用できるとき、特定の提供者をより魅力的に見せるのは、相手に抱かせる信頼だ。警戒心の強い見込み客の心を掴む弁護士を例に考えてみよう。彼女は、自分が卒業したロースクールの名前を挙げるよりも、自分が顧客のために全力で戦うことを信じさせるストーリーを語ることで、相手を惹きつけるのだ。

ルーイはこの後者のアプローチをストーリー・マーケット・フィット(ストーリー市場適合)と呼んでいる。

これは、投資家の記憶に残り、信じてもらえるほど説得力のあるナラティブ(物語)を構築する戦略だ。「これは、事実上誰でも作成できる単なる『ローンチ動画』を作るのではなく、観客の感情を揺さぶるストーリーを練り上げることで実現します」とルーイは言う。「事実は、信じてもらう権利を得るためのものです。しかし、それだけでは取引は決まりません。機能リストを見て確信に突き動かされる人はいません。けれど、事実を正しい順序で並べ、人間の物語の中に置き、美しい映像、完璧なタイミング、畏敬を呼ぶ音楽、緊張感、そして望みたくなる未来像を加えれば、信念はついてきます」

なぜ今、人間によるストーリーテリングがかつてないほど求められているのか

アンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)が運営する主力スタートアップ・アクセラレーター「a16z Speedrun」でクリエイター・リードを務めるレスター・チェンも、同様のダイナミクスが働いていると考えている。彼はYouTubeでゲーム部門を率いる前、初のYouTube発のスタジオの一つである「マシニマ(Machinima)」で自らクリエイターとして活動していた。

彼はインタビューでこう語った。「この1年、AIスタートアップの急増とともに、動画やビジュアルストーリーテリングがどのように進化してきたかを目の当たりにして、本当に驚くばかりです。もはやローンチ動画が制作コストに対して極めて高い成果を上げられるかどうかという段階ではありません。現在の課題は、製品の発売や資金調達の発表からずっと後になっても、さまざまな動画フォーマットを通じてこのストーリーをいかに維持し、発展させていくかです。そこで創業者たちは競合に差をつけることができ、クリエイターやストーリーテラーが最も求められる役割の一つとなっているのです」

チェンが指摘する「引く手あまたな資質」は、しばしばセンス(美意識・目利き)に行き着く。これはマーケティング・テクノロジーにおいて重要性を増しているテーマであり、デジタルマーケティングのパイオニアであるニール・パテルへのForbesのインタビューでも示唆されている。パテルが主張するのは、多くのマーケターが同じインテリジェントなツールを利用できるようになるにつれ、本当の競争優位性は、AIには模倣できない人間の能力である批判的思考や見極める力を持つ人にもたらされるということだ。

動画が飽和状態にあるなかで際立とうとするスタートアップにとって、ストーリー・マーケット・フィットが極めて重要であることを踏まえ、ルーイは動画コンテンツで突破口を開くための4つのヒントを提案している。

ヒント1:動画から始めるな。信じてほしいことから始めよ

自分に一つ問いかけてほしい。観客に何を信じてもらいたいのか。自分たちが何を伝えたいかではなく、どの機能を見せる必要があるかでもない。

ヒント2:感情の中心を見つけよ

これは映画制作の基本であり、ブランドづくりの基本にも通じる。核心、空気感、痛み、約束を探すことだ。そうした目に見えない要素が、その後のあらゆるクリエイティブ上の判断基準になる。

ヒント3:映像制作の技術を使って、信頼を感じさせよ

台本作成ソフト「Final Draft」のドキュメントの中に閉じ込められたストーリーは、生命力を持たない。Webサイトの優れたコピーとして再利用することはできるかもしれないが、それだけでは信頼を拡大させることはできない。ストーリーを物理的な形にし、目に見えるものにする必要があるのだ。人々が最初に何を目にし、次に何を感じ、どこで緊張感が高まり、どこで証明がなされ、どのような未来を期待して終わるのかを決めなければならない。

ヒント4:ローンチだけでなく、「システム」を構築せよ

正しく実行されれば、ローンチ(発表)は翌年のストーリーテリングの素材源となる。創業者のインタビューはSNSコンテンツになり、事業計画は投資家向けのナラティブになる。製品の見せ場はWebサイトの素材になり、顧客の痛みはセールスメッセージになる。最も説得力のあるシーンは、広告、事例紹介、製品説明、採用向けクリップへと生まれ変わる。これこそが、単なる一本の動画とストーリーシステムとの違いだ。

自分の判断を手放すな

最後のヒントは、自らの思考を人工知能に丸投げしないことだ。テレビドラマ『Hacks』や『The Comeback』などの最近のストーリー展開が示しているように、ハリウッドではAIが脚本家の仕事だけでなく、ショーランナー(制作総責任者)の仕事まで奪うのではないかという懸念が渦巻いている。これは、パテルが強調する「センス」の重要性に立ち返るものだ。AIが価値ある生成ツールだからといって、クリエイターがその判断をAIに委ねてしまってはならない。

動画がコモディティ化したいま、本当の優位性はストーリー・マーケット・フィットを取り入れるスタートアップにある。なぜなら、観客は単に一つの製品が他より優れている理由を知りたいわけではないからだ。彼らはブランドとつながりたいのだ。ハリウッド誕生から1世紀以上が過ぎ、MTVの全盛期から年月がたったいま、ツールは変わったが、人間の衝動は変わっていない。

私たちは皆、ただ何かを感じたいのだ。

forbes.com 原文

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