自分のためだけに生み出されたものほど、愛着を抱かせるものはないだろう。
国内外で活躍する建築家の谷尻誠は、自分だけのスーツを手に入れるこのうえない喜びを、ポール・スミスのオーダーサービスを通じて堪能したようだ。
オフィスと休息の場をワンフロアに同居させた「第一生命日比谷ファーストLOFFT」。ホテルと別荘の要素を併せもつこれまでにない宿泊体験を提案する「NOT A HOTEL」など、近年革新的な空間デザインが話題となっている建築家・谷尻誠。
ファッションにも造詣が深い谷尻に、今回はポール・スミスが誇るオーダーサービス「メイド トゥ メジャー」を体験してもらった。果たして気鋭の建築家は、どんなスーツを誂えたのだろうか。
「すごく大胆ではないけど、普通とは違う気の利いた服が揃っているというのが、僕のポール・スミスのイメージです。今回も日常的に着られつつ、普通とは少し違ったスーツがつくれればいいなと思っています。普段の装いはカジュアルなんですが、公共の施設の仕事などはきちんとスーツを着る必要があるので、そういったシーンでも着られるようにしたいです」
オーダーするスーツについて、このように語る谷尻。建築家といえば、立ち襟のマオカラースーツなど、デザインコンシャスなスーツを着るイメージがある。
だが、谷尻が選んだオーダースーツのベースモデルは、ポール・スミスが用意する3つのモデルのなかで最もクラシックな「リッチモンド」。そこにドレープが美しいエルメネジルド ゼニア社の漆黒のウール生地「ディープブラック」を載せ、AMFステッチと呼ばれるラペルの飾りステッチやボタンホールにのみ、さりげなくコントラストカラーを効かせた。
まさにポール・スミスが標榜する哲学“Classic with a twist(ひねりのあるクラシック)”に通じるチョイスだが、そこには“日常的に着られるスーツ”というヴィジョンと、次のような谷尻の思想が込められている。
人々が決める空間と服の意味
「僕は建築について、“人々の行為が空間に名前を付ける”と言ってきました。つまり、人々が食事をしたらそこは食堂であり、仕事をしたらオフィスであり、写真を飾ったらギャラリーであり、本を並べたらライブラリーなのです。それらしい空間をつくらなくても、人々の行為によって空間は意味を為し、自ずと名前が付くということです。
例えば、スターバックスは、いまやカフェではなくオフィスともいえます。なぜなら、多くの人が仕事をしているからです。みんなオフィスを抜け出してカフェで仕事をするならば、オフィスらしいオフィスをつくる必要はない。目的はどうあれ、それらしい空間をつくる必要はないというのが、僕の考え方なのです」
人々に空間を強要するのではなく、人々の行為に空間を委ねるーー。こうした“人ありき”の思想こそが、谷尻の生み出す空間に人々を惹きつける美しさと居心地の良さをもたらしているに違いない。そんな人ありきのクリエイションは、ポール・スミスのスーツにも見て取れる。
デザイナーの主張を強く押し付けることなく、幅広い人々に寄り添う。そして普段のオフィスワークから取引先での重要な交渉といった格式が求められる席まで、多様なシーンに対応する。そんなポール・スミスのスーツにも、“人ありき”の思想は共鳴するのである。
「自分だけの一点モノがつくれるポール・スミスのオーダーサービスを体験させていただき、格別な喜びを感じました。僕は既製品を自分だけのオリジナルにカスタムしていくのが好きで、買った服のシルエットを変えるなど、普段からよくしているのですが、今回はそれに近い感覚で楽しめました。ポール・スミスの洗練されたスーツに自分らしさを加えていくプロセスは、とても魅力的でしたね」

谷尻誠(たにじり・まこと)◎1974年広島県生まれ。2000年に建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICEを設立。公共の施設から個人宅まで幅広い建築設計を手掛け、「インターナショナル アーキテクチャー アワード」(米国)や「住まいの環境デザインアワード」など、国内外の権威ある建築アワードを数多く受賞している。また建築家として活動しながら、「絶景不動産」、空間デザイン情報検索サービス「tecture」、ネイチャーディベロップメント「DAICHI」、ライフスタイルを提案する住宅ブランド「yado」、CGパースで不動産選びサポートする「Mietell」など多分野で開業し、事業と設計をブリッジさせて活動している。
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