東アフリカでフィールド研究を行う生物学者たちは、昔から多少の違いこそあれ、とある一つの光景を記録してきた。ゾウの群れが、ほかのゾウの死体や骨に遭遇すると、それまでの採食や行進をやめて、ゆっくりと死体に近づく。鼻で頭骨や牙に触れ、骨の匂いを嗅ぐ。時には長いあいだ、いつもとは違う静かな様子で、じっと死体のそばにたたずむ。
死体の分解が進み白骨化したあとで、ゾウが同じ場所に戻ってくるところも目撃されている。岩や倒木といった、同じくらいの大きさの物体に対して、野生のゾウがこうした行動を示すことはない。2006年に学術誌『Biology Letters』に掲載された論文によれば、彼らは同種他個体の頭骨と牙に対して特有の探るような行動をとるのに対し、ほかの大型動物の死体や、ありふれた物体にはこのような関心を示さない。
ゾウの脳には「愛着」が組み込まれている
ゾウがこのような行動をとる理由を理解するには、まずゾウの脳が、何に最適化されているかを考えるのがいいだろう。ゾウは、緊密な母系社会のなかで暮らす。ゾウの群れは、年長のメスが率いる家族集団であり、群れのなかでの協力は数十年にわたって続く。複数の母親たちが共同で子ゾウを育て、年老いたメスは、集団に蓄積された知識(水源や脅威、個体関係などに関するもの)を備えている。
ゾウの認知能力を研究する生物学者たちは、ゾウの脳が、絶対値において陸生動物最大であることを指摘する。特に、記憶と情動処理をつかさどる脳部位である海馬は、ほかの大型哺乳類と比べて突出して大きく、複雑な構造をしていることが、2005年に学術誌『The Anatomical Record』に掲載された論文から明らかになっている。長期にわたる社会的記憶と、生涯続く群れの絆という組み合わせは、目撃者に「悲嘆」を連想させるような行動の素地をなしている。
死に対する動物の反応に関する研究は現在、「比較死生学(comparative thanatology)」と呼ばれている。この呼称は、2018年に学術誌『Philosophical Transactions of the Royal Society B』に掲載された総説論文で提唱されたものだ。この分野は、ヒト以外の動物が、瀕死の個体や死体のそばで示す行動を扱う。
ゾウは、チンパンジーやカラス科の鳥類と並び、比較死生学の重要なケーススタディの一つだ。チンパンジーでは、群れのメンバーの死体を見守るような行動が観察されている。カラスについても、2015年に学術誌『Animal Behaviour』に掲載された論文で、同種他個体の死体のそばに集まることが報告されている。ただし同論文では、カラスの行動は「弔い」というよりも、周囲の危険について学習する「脅威の評価」の意味があるようだと論じられている。



