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教育

2026.08.04 15:30

美術こそイノベーションの鍵となる理由。観察から始まる社会実装への挑戦

山岡佳代|芝浦工業大学附属中学高等学校 美術科教諭

山岡佳代|芝浦工業大学附属中学高等学校 美術科教諭

なぜ、美術科教諭がアントレプレナーシップ教育に向き合うのか。山岡が描いているのは「観察から始めるアイデアとその社会実装」だ。


臨海副都心を見晴るかす東京・豊洲。山岡佳代の仕事場である「美術室」に向かうと、巨大なウサギの油彩画が出迎えてくれた。「わたしが長年飼っていた『たま』です」(山岡)。美術科教諭の山岡は、「美術こそ、イノベーションとの親和性が高い」ととらえている。「この絵ひとつ描くにしても、どんな毛並みにするか、どう描けばよいか、思考回路が鍛えられていく」。100号の巨大なキャンバスに描かれた数々の絵が、理工系のスペシャリストを目指す生徒を見守っている。

美術とアントレプレナーシップを結び付けるうえで、山岡は「観察」という観点を大事にしている。例えば、利き腕でない手を使って描く。一筆書きで描く。目をつぶって描く。そのためには、じっと見て、観察してから描く。大切にしているのは、成果物だけでなく、制作過程にこそ目を向けること。展覧会やコンペで落選しても、この間にどんな「非認知能力」が身についたかが重要だ。「楽しかった」「悔しかった」から育まれる、意欲、忍耐力、協調性、自己肯定感、やり抜く力。「美術科はそんな非認知能力を醸成しやすい。だからこそ大事にしたいんです」。

イノベーションを生み出すチームワークに、教育の神髄があると感じてきた。学会をかけもち学びを深めるなか、「i.school」の堀井秀之・東京大学名誉教授に出会った。「『チームワークの可視化』という先生の概念にビビビときた。『めっちゃ面白い。こういうのできたらいいな!』」。

さらに、系列の芝浦工業大学との連携カリキュラム「Arts and Tech」が始まったことも山岡の背中を強く押した。大学から多彩な教授陣がやってきて、専門的な研究や実践を重ねていく。「“ものことづくり”の最先端に触れられる。私自身が役得すぎます!」。複数の先生からの助言を受け、中高生もビジネスコンテストに挑戦するようになり、最優秀賞に輝いたことも。事業の全体像をつかむビジネスモデルキャンバス(BMC)の書き方、心に刺さる発表方法──。コンペ1回の評価で満足して終わり、ではなく、チームは分かれ、さらにそれぞれ新たな挑戦に取り組んでいる。

東京圏スタートアップ・エコシステム形成のため大学と企業、地方公共団体などが結集して活動する「GTIE(グレーター・トウキョウ・イノベーション・エコシステム)』に、同大も加盟。横のつながりがさらに飛躍的に広がった。こうした場で出会う人々は皆、最新トピックを教え合い、協働する。「現場の雰囲気が良く、いろんな人に助けられていると実感します」。校内でも、学科をまたいだ教育を柱に掲げており、その授業内容は絶えずアップデートされていく。

「子どもたちはアイデアを出し、プロトタイプをつくるのは得意。でも、実装化がまだ難しい。お金、組織づくり、アフターケア。将来、それを支えるシステムを全国でつくりたい。株式会社もつくりたいですね」(山岡)。アントレプレナーシップとは「日本を元気にすること」。そう言い切る山岡は、理工系教育と美術をつなぎ、さらにその先へとつながりをつくり続ける先駆者だ。

文=加賀直樹 写真=若原瑞昌

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