公教育のアントレプレナーシップ教育のひとつのあり方と言える教育モデルは教員たちのボトムアップによる挑戦で構築された。
「私たちが掲げている探究のキャッチフレーズは『みんなの「なぜ」が社会につながる みんなの「なぜ」が未来につながる』。生徒一人ひとりの興味・関心を尊重したマイテーマ追求型の探究は、アントレプレナーシップ教育の根幹である『社会に良い変化を生み出す力やスキルを育てること』と価値観が重なります」
名古屋市立菊里高等学校教諭の久賀史恵はそのように話す。1学年360人の伝統ある大規模公立校が「探究」という新たな魅力で知られるようになった。その中心となって制度設計や運営改善にかかわってきたのが久賀であり、5年間伴走してきた若林かおり(名古屋市キャリアサポート事業により配置されているキャリアナビゲーター)だ。2021年から本格的に開始した同校の探究は「大規模校において、生徒一人ひとりの『内発的動機』を起点とした教育を仕組み化した事例」と評価する声がある。久賀ら同校が重視したのは「持続可能性」と「ボトムアップ」だ。教員の異動がある公立校だからこそ属人的にならず人が変わってもできることを大切に、広く教員の声を聞きながら、みんなで考えてみんなで取り組むことを大事にしてきた。
「特定の先生がいるからできるというのではなく、個々の先生の裁量によらず、年次ごとの流れや若林さんなどの外部アドバイザーの位置付け、最終発表の機会などを固定化した『制度としての設計』になっています。探究の価値観も教員間で共有し、卒業生など外部人材の力も借りて学校のなかだけで完結しない構造です」(久賀)
探究プログラムを専門的に企画・運営する探究部を設け、去年まで主任だった久賀らが集中的に、継続的に指導計画の見直しや改善、教員への情報共有、全学年の授業準備・運営を担ってきた。当初から探究の授業は特定の教員に限定せず、担任・副担任が担当する体制とし、数年のうちにほぼ全教員が授業を経験し、探究の趣旨や教育的効果への理解が校内全体に広がる仕組みとした。卒業生に呼びかけ、外部アドバイザーとして支援もしてもらっている。
「教科書通りのオーソドックスな探究なんですが、実際には、なかなか教科書通りには進まないことのほうが多いです。開始2年目から『学校の外に出てこそ探究』と校外調査を推しました。とはいえ、準備期間を含めれば8年間、思いをつなぎ、対話と試行錯誤を重ねてつくり上げてきたことが学校の誇りです。今後は、ボトムアップだからこそ、かかわる教員一人ひとりが主体者となり、それぞれが感じる課題を共有して、継続的な改善につなげられたらと思っています」
最後に久賀に公立校でアントレプレナーシップ教育を行う醍醐味について聞くと、こう話をしてくれた。「さまざまな制約があるから燃えるというのもあります(笑)。また、公立校は生徒がバランスよくいろいろなことに取り組むようにするのが前提。全員が探究を行い、全員が好きなテーマを選べる。もっとやりたいと思えば探究心が深い学びにつながる。全員にその機会を届けようとする、その挑戦が醍醐味ですかね」。



