「知識を教える」から「願いを起こす」へと先生の役割を変えていきたい。池田巧は教壇に立ちながら「アントレ教員ラボ」を立ち上げ全国の同志と連携を図る。
池田巧にはふたつの顔がある。ひとつ目は、約1300人の生徒たちと向き合う社会科教諭としての「教育者」の顔だ。「アントレプレナーシップ教育」という言葉が一般的ではなかった2013年からずっと、池田は起業家教育、金融経済教育に取り組み、これまでに20社以上との協働実績を重ね、アントレプレナーシップ教育の先駆的存在として、全国から注目を浴びている。
ふたつ目の顔は、一般社団法人アントレ教員ラボ・代表理事としての顔だ。アントレ教育に孤軍奮闘する全国の教員たちと連携を取り合い、まだ見ぬ課題を発見し、新しい価値を生み出す力を子どもたちの中に育む方策を練り続けている。
教育実習の時の違和感を、彼は忘れない。知識を詰め込み、覚えさせようとばかりする自分。「これでは、空っぽのコップに水をひたすら注ぐだけの教員になってしまう」。子どもたちは本来、自ら課題を発見し、行動できる力をもち合わせているはず──。この時、池田の教員としての理念が定まった。「『知っている人を育てる』だけでなく、『行動できる人を育てたい』」。
09年に着任した同校は、理系教育に強く、ものづくりや好きなことに打ち込む子どもたちが、のびのび学べる雰囲気が魅力だ。ここで池田の奮闘が始まった。「起業セミナーやビジネスコンテスト参加を促しながら、私も生徒と一緒に走っていました」。数年前には、学校の地元・東小金井の地域おこしフリーペーパーの企画に奔走。生徒たちは100軒以上の店舗を回るも広告出稿に賛同してくれたところは、ごくわずか。「何を社会に還元したいのか、『願い』が明確にないと見向きもしてくれない。実体験で学びました」。ほかにも「乾電池の残量表示」など、生徒の好きを起点に自ら社会に還元できる価値に変えようとする模索が続いていった。
23年には、経済産業省・JETROが主催する「始動 Next Innovator」に参加。実績を重ねていく生徒たちに伴走するうち、池田自身に葛藤が生まれる。「ところで自分自身は何を社会に還元できるのか」。早稲田大学大学院でMBAを取得し、教育実践を社会価値へと接続する実践知を磨いた。
そして24年、教員のキャリアを重ねながら池田は一般社団法人「アントレ教員ラボ」を設立。現役の教員で構成されたメンバーで法人を立て、ほかの学校の先生たちと連携するしくみをつくった。「アントレプレナーシップ教育を通じて生徒に触発され、私自身も、自分の願いをかたちにして届けたくなった」。これまでに全国約500人の教員と学びをともにし、ワークショップや研修を行っている。
アントレプレナーシップは「授ける」「教え込む」ものではなく、「気づくもの」「引き出すもの」。願いを起こすとは、自分の内にある思いに気づくこと。そして願いを興すとは、その思いを社会に向けて形にすることだ。繰り返しそう語る彼が目指す学びは、自分の「好き」や「願い」をカタチにし、社会に還元していく「プロダクトアウト型」だ。先生も、「教える人」から「願いを起こし、興す人」へ。それが池田の描く未来の教師像だ。



