起業家

2026.07.21 16:33

AIによる失業の陰で起きている「スモールビジネスの爆発的増加」

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昨年の春、テルアビブの午前2時。データ企業の元CEOであるマオール・シュロモは、スマートフォンのアラームで目を覚まし、ノートPCに向かってサーバーが稼働し続けていることを確認した。数カ月間、彼はこの作業を2〜3時間おきに繰り返した。彼にチームはなかった。AIコーディングツールを活用し、わずか4カ月で「Base44」というソフトウェア企業を1人で立ち上げたのだ。アラームだけが、プラットフォームの6時間に及ぶダウンを防ぐ唯一の手立てだった。アクセス急増によりサイトがダウンしたある夜、シュロモは10分でその事態を察知したとFortune誌が報じている。2025年6月、Wix(ウィックス)が彼の会社を8000万ドル(約130億円)で買収した。

この話は例外ではない。筆者のネットワークにいるすべての創業者が、似たようなエピソードを持っている。先月、サンフランシスコで開かれたこぢんまりとしたディナーの席で、2018年からの知り合いである、ある創業者が自分の会社についてこう語った。「私と愛犬、そして約40のAIエージェントだけよ」。彼女は冗談を言っていたわけではない。前のスタートアップを売却(エグジット)し、6カ月間の休暇を取った後、彼女は静かにコンプライアンス分野のソフトウェア製品を構築した。今や約300の顧客を抱えている。給与を支払っているのは1人だけ。実質的な彼女のチームは、Claude(クロード)、ChatGPT、Replit(レプリット)、そして筆者が聞いたこともないような多くのエージェント型ツールへのサブスクリプションの数々だ。

同席していた創業者たちは皆、同じようなことをしている知人がいると言わんばかりに頷いた。実際、その半数は自分自身がそうだった。

世間の主要な報道は、今もAIを「人員削減」の文脈で捉えている。Metaでの人員整理、オラクルでのレイオフ、エンジニアリング、マーケティング、そして中間管理職にわたる削減。そのストーリーは現実のものだ。しかし、見落とされているのは、帳簿の反対側で起きていることである。

米国国勢調査局の起業統計(Business Formation Statistics)によると、2025年11月から2026年1月までの間に米国で行われた新規の事業設立申請数は156万件に達した。これは2004年の統計開始以来、3カ月間のデータとして過去最高となる。1月単体だけでも、前年同月比36.8%増となる53万2319件の申請があった。月間のスモールビジネス設立数は現在、平均で47万8000件を超えており、2004年当時の月約9万件というペースから435%以上も急増している。また、LinkedIn(リンクドイン)のプロフィールに「創業者(founder)」と記載している人数は、前年比で69%増加している。

AIと雇用のストーリーは、単なる失業のストーリーではない。それは雇用の「再分配」のストーリーであり、その勝者は、多くのヘッドラインが焦点を当てる既存の大企業とはまったく異なる姿をしている。

この「創業者ブーム」の実際の姿とは?

このトレンドを最も明確に読み解いたのが、7月6日のナサニエル・ウィットモアによるポッドキャスト番組「The AI Daily Brief」だ。彼はこの現象を「1人による100万ドル(約1億6200万円)規模の企業の台頭」と呼んだ。彼の見解は明快だ。AIは単に仕事を変化させているだけでなく、起業におけるリスクとリターンの計算そのものを変えている。AIエージェントを備えた1人のオペレーターが、かつてはシリーズAの資金調達を行ったチームが必要だった仕事をこなせるようになれば、起業志望者が行う算段は一変する。レイオフされたシニアマネージャーが、再び部長職を追い求めるか、それとも自身の製品を自力でリリースするかを天秤にかける際の決断も同様だ。

AIは単に仕事を変化させているだけではない。起業におけるリスクとリターンの計算そのものを変えている。

――「The AI Daily Brief」のホスト、ナサニエル・ウィットモア

Fortune誌のベアトリス・ノーランは、5月18日付の特集記事でそのメカニズムを追っている。彼女は前述のシュロモと共に、非営利団体(NPO)向けコンサルタントのダナ・スナイダーを紹介した。スナイダーはReplitのAIコーディングツールを使用し、小規模なNPOが毎月の寄付プログラムを構築する手順をガイドするソフトウェアプラットフォームを開発した。このツールがターゲットにしているのは、人間のコンサルタントを雇う余裕のない、米国全体の約93%に上る小規模なNPOだ。スナイダーは、今でも自身の会社の唯一のフルタイム従業員である。

「手作業で繰り返されるタスクにAIを活用できれば、その分、アイデア出しに頭脳を割くことができます。それこそが、人間として本当に時間を使うべき唯一の仕事です」とスナイダーはFortune誌のインタビューで語っている。

データもこうした逸話を裏付けている。ニューヨーク大学(NYU)スターン経営大学院で起業家精神を教えるJ・P・エガーズ教授がFortune誌に語ったところによると、設立1年の企業の平均従業員数はこの20年間、減少傾向にあるという。20年前、設立1年の企業には平均7〜9人の従業員がいた。それが2〜3年前には3〜4人になり、現在はAIによってその数字が「1人」へと収縮しつつある。

失業者数の見方を変えるべき理由

世界経済フォーラム(WEF)の「仕事の未来レポート 2025」では、2030年までに世界全体で9200万件の雇用が失われる一方で、1億7000万件の新しい雇用が創出され、差し引きで7800万件の純増になると予測している。こうした予測は広く報じられているものの、同等に疑問視されてもいる。レイオフが具体的な現実であるのに対し、新たな雇用はいまだ理論上の話にすぎないからだ。

しかし、起業に関するデータは、それらの新たな雇用がすでに早期に現れ始めていることを示している。レイオフされたプロダクトマーケターが、AIリサーチツール一式と1人の業務委託者を雇ってコンサルティング会社を立ち上げたとしても、その雇用は大企業の採用レポートには現れない。現れるのは、国勢調査局の雇用主識別番号(EIN)申請書においてだ。これは単なる肩書の掛け替えではない。労働市場の構造改革が、リアルタイムで進行している証拠なのだ。

ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、このトレンドの極端なケースとして、10代の創業者たちに関するレポートを発信している。彼らは「バイブ・コーディング(vibe-coding)」とSNSを活用し、ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達も従業員もなしに、本物の会社を立ち上げている。本質は「15歳にもそれができるようになった」ということではなく、「まったく同じツールが、米国のすべてのレイオフされたナレッジワーカーのデスクの上にある」ということだ。

今、本当に重要とされるスキルとは?

勝ち組キャリアの形が「従業員」から「オペレーター(経営・実行者)」へ、そして「大企業のスペシャリスト」から「小規模チームのジェネラリスト」へと移行しつつあるならば、報われるスキルもそれに伴って変化する。なかでも、以下の3つのスキルが他よりも重要になってくる。

第1に「創造性」だ。具体的には、誰も考えつかなかったような問いをプロンプトとして投げかける能力である。生成モデルは、一般的な人々が求めるであろう平均的な回答を返す。一歩先を行く創業者は、制約条件や、特定の顧客の悩み、あるいは2つの異なる分野の予期せぬ組み合わせをプロンプトに盛り込んでいる。退屈な質問を投げかければ、退屈な会社しか生まれない。世界経済フォーラムの労働調査でも、AIが定型業務を吸収するにつれて、創造性は価値が下がるどころか、ますます高まるスキルとして挙げられている。

第2に「懐疑心(スケプティシズム)」だ。AIユーザーが陥りがちな、最も大きな代償を伴う悪癖は、最初の回答をそのまま信じ込むことである。大規模言語モデル(LLM)は、最も「正しい」言葉ではなく、最も「もっともらしい」次の言葉を予測しているにすぎない。スタンフォード大学のAIインデックスによると、モデルがスケールアップしてもハルシネーション(嘘の出力)の発生率は高止まりしており、消失していない。AIのあらゆる出力を「最終回答」ではなく「たたき台」として扱うこと。この思考の習慣こそが、単なる「ボットのオペレーター」と「創業者」を分かつ境界線となる。

第3に「好奇心」だ。PwCの「グローバルAIジョブバロメーター2026」にまとめられた労働調査によると、技術的スキルの半減期は現在、2.5年未満となっている。これからの10年で成長を重ねていく創業者は、特定のツールをマスターした人ではない。現在使っているすべてのツールが18カ月後には時代遅れになると想定し、次のツールを学ぶこと自体を「本業」と捉える人たちだ。

AI経済は、仕事がどこに存在し、誰がそれを所有し、1つの仕事を生み出すために何が必要なのかを、静かに描き直している。起業を目指す人々は、レイオフを報じるニュースを悲報として捉えるのをやめ、国勢調査局の申請データを、次の10年における雇用のあり方を示すロードマップとして読み解くべきだ。創造性を持って問いかけ、懐疑心を持って疑い、2年のサイクルで学び続ける力を身につけた創業者たちは、この経済を生き抜くだけでなく、その担い手となるだろう。

forbes.com 原文

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