2025年12月、ロシア政府が支援するハッカー集団が、ポーランドの送電網に対して破壊的な「ワイパー(データ消去型)」マルウェアを実行した。標的となったのは、風力・太陽光発電所と送配電事業者をつなぐデジタル接続、および約50万世帯に電力を供給する2箇所の熱電併給発電所だった。この攻撃は、抽象的な軍事作戦ではなかった。冬の寒波が押し寄せるなか、ポーランドの市民を暗闇に突き落とそうとする計算された試みだった。
国家による悪意あるソフトウェアを使った、集中型電力システムを標的とする機能停止攻撃が増加するにつれ、国際紛争というマクロな現実が、一般の家庭に直接的な影響を及ぼすようになっている。公共の送電網(グリッド)が実際の戦場と化すとき、個人の脆弱性はシンクタンクの討論会で語られる遠い概念ではなくなり、目の前にある家庭の現実となる。
50年もの間、クリーンエネルギー運動は、人々の共感と支持を得ることが不可欠であるという前提のもとで進められてきた。しかし、屋根上太陽光パネルや蓄電池を主軸とするエネルギー分散化が広く普及する真の引き金は、国際紛争と送電網の脆弱性であることが明らかになりつつある。サイバー戦争、敵対的な外国勢力、そして国内の政治的変化によってエネルギー安全保障が脅かされる世界に直面し、個人が自ら対策を講じ始めているのだ。
地政学的緊張とインフラを標的とした戦争は、環境保護主義を完全に新たな領域へと押し上げた。屋根上太陽光パネルや家庭用蓄電池は、道徳的な主張や単純な節約策という出自を超えた。不安定さを増す世界において、分散型クリーンエネルギーは自己防衛の戦略となった。それは、外部の力が基本的な生活の安定を脅かすときに、個人が確実性と自己決定権を取り戻すための手段なのだ。
「私の前提として、多くの人々は太陽光発電と蓄電池の組み合わせがクリーンであるかどうかには全く関心がなく、気候変動についても全く心配していません。彼らにとって重要なのは、主体的なコントロールを手に入れ、自分自身と家族を守ることなのです」と、コロンビア大学気候大学院(Climate School)の学部長を務めるアレクシス・アブラムソンは、筆者とのインタビューで語った。
この変化の大きさを理解するには、この運動の構造的な歴史がどのように進化してきたかを振り返る必要がある。
重要なのは「自己防衛」
アブラムソンは米誌「Time」に寄稿したエッセイのなかで、環境運動の発展の歴史を記録している。1970年から2010年にかけての「第1の時代」は、ほぼ完全に価値観や道徳的義務によって定義されていた。熱心な一部の層が環境保護を支持するきっかけにはなったものの、40年が経過した時点でも、米国の総発電量に占める太陽光エネルギーの割合は0.1%未満にとどまっていた。
「第2の時代」は、純粋に市場経済によって牽引された。2006年の投資税額控除(ITC)によって幕を開け、2022年のインフレ抑制法(IRA)によって一気に加速したこの時期は、商業的な大量普及を可能にするレベルまで設備コストを引き下げることに焦点が当てられた。連邦エネルギー規制当局によると、2024年までに、送電網に追加されたすべての新規発電容量の80%以上を太陽光が占めるようになった。
そして今日、私たちは「第3の時代」に入っている。それは、老朽化する送電インフラと不安定な国際情勢を背景とした、コントロール(主導権)を握りたいという深い心理的欲求に支配された時代だ。消費者の行動はこの不安を反映している。ソーラーテック(SolarTech)のレポート「The State of Solar in 2025(2025年の太陽光発電の現状)」によると、米国の住宅所有者の約78%が送電網の信頼性に懸念を示しており、64%が相次ぐ停電を理由に、5年以内に太陽光発電を導入する可能性が高まると明確に回答している。アブラムソンによれば、こうした懸念は、今年に入って再び激化したイランとの敵対関係のなかでさらに深まっているという。
脅威はもはや、海の向こうのデジタル戦場だけに限定されてはいない。米国内でも現実のものとなっている。連邦捜査局(FBI)、環境保護庁(EPA)、サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)などの連邦機関は、「サイバー・アベンジャーズ(Cyber Av3ngers)」といったイラン政府とつながりのある脅威グループが、米国の重要インフラを積極的に標的にしているとして、緊急の警告を発している。
一般的な住宅所有者にとってのリスクとは、遠く離れた発電所で大規模な爆発が起きることではない。生活に不可欠な基本サービスが、突然、不条理にも失われることだ。ハッカーが地域のライフライン企業のデジタルバルブや制御装置を妨害すれば、その直接的な結果として、水道の蛇口から突然水が出なくなったり、トイレが流れなくなったり、電気が消えたりする。
国家の支援を受けたこれらの攻撃は、単なるウェブサイトの改ざんから、水道やエネルギー部門におけるインターネット接続された制御技術(OT)への積極的な悪用へと進化している。2023年には、ペンシルベニア州の地方自治体の水道局などで、不正アクセスを受けた施設の職員がデジタルダッシュボードから突如切断され、重要な物理ポンプを手動で操作することを余儀なくされた。米国の自治体が地域の基盤インフラを外国のデジタル侵入から完全に守りきれないとき、消費者は自らコントロールできる安全対策(フェイルセーフ)を探し始める。
持続可能性だけでなく「レジリエンス」を売る
こうした脆さに対する危機感は、エネルギー業界が自社サービスをアピールする方法を変えつつある。大規模な集中型電力会社やクリーンエネルギーの開発企業は、環境に対する理想論に訴えかけるよりも、レジリエンス(回復力・強靭性)を約束する方が、顧客にとって大きな響きを持つことに気づき始めているのだ。
「私たちの目標は100%クリーンエネルギー、それに尽きます。しかし、今私たちが語っているのはそのことではありません。電気料金は上昇しています。その上昇率はインフレ率を上回っており、共和党支持(レッドステート)と民主党支持(ブルーステート)のどちらの州指導者もプレッシャーを感じています」と、アドバンスト・エナジー・ユナイテッド(Advanced Energy United)のCEOであるヘザー・オニールは、筆者が執筆した過去のコラムのなかで語っている。言い換えれば、経済的な合理性は再生可能エネルギーに味方しており、そこに気候変動対策としてのメリットと高いエネルギー安全保障が上乗せされているのだ。
確かに、クリーンエネルギーを取り巻く環境は厳しさを増している。住宅用太陽光発電の税額控除は2025年末に正式に終了し、住宅所有者が負担する初期費用は急増した。同時に、トランプ政権は国家エネルギーの優先枠組みのもとで化石燃料の増産を強力に推進しており、クリーンエネルギーに関する規制や税制優遇措置を撤廃する一方で、石炭や天然ガスの発電容量確保を最優先に掲げている。
それにもかかわらず、消費者は依然として導入を進めている。シンクタンク「エネルギー・イノベーション(Energy Innovation)」が今月発表した報告書では、クリーンエネルギー規制の撤廃により、米国の家庭は2040年までに光熱費の上昇という形で、総額5000億ドル(約81兆2000億円)という天文学的な追加コストを強いられる可能性があると警告されているが、財務的な合理性は依然として失われていない。屋根上の太陽光発電システムは3年から12年で投資回収が可能であり、その後は数十年にわたり実質無料で電力を得ることができる。
さらに、先進的な州は連邦政府との摩擦を回避しつつ独自の動きを見せている。カリフォルニア州やメリーランド州では現在、屋根上太陽光発電の自動化されたほぼ即時の許可発行を義務付けており、フロリダ州では提携する郡において承認をスピードアップさせる民間バーチャル検査を導入している。これらはすべて、かつて完了までに数週間を要していた設置のハードルを取り除くことを目的としている。
現実として、個人(ミクロ)の動向は、マクロレベルの事象によって支配されている。「人々は、自分たちにはどうすることもできないグローバルな問題に対する不安を和らげるために、自らのエネルギーをコントロールしたいと考えています」とアブラムソンは指摘する。「世界の不安定さが、個人の意思決定に影響を与えているのです」
アブラムソンは、自身が掲げる広範な使命の核心は公平性(エクイティ)にあると述べる。「私たちができる最も重要なことは、それを必要としている人々にエネルギー資源を提供し、より良い生活を送れるよう支援することだと考えています。もちろん、気候問題から目を背けているわけではありませんが、私にとって、これは何よりもエネルギーを通じた繁栄に関連しているのです」
突き詰めれば、分散型クリーンエネルギーの大量導入は、情緒的で理想主義的な装いを失いつつある。国際的なサイバー戦争や国内の政治的変動が送電網の信頼性を脅かすなか、屋根上太陽光発電や蓄電池の導入への急ぎ足は、極めて実利的な行為へと変化した。それは、この混迷の1世紀において、個人の独立と自己防衛の究極の表現となっているのだ。



