11. 『TENET テネット』
『TENET テネット』は、「時間の逆行」という概念を扱い、スパイ映画のジャンルを根底から覆したノーランの野心作だ。ジョン・デヴィッド・ワシントンとロバート・パティンソンが主演を務め、時間が順方向と逆方向に流れる世界で、極秘のミッションに挑む。同作の複雑な物語構造とかつてないアクションシーンは、ストーリーテリングと映画制作における革新に対するノーランの妥協なき探求の姿勢を示している。息をのむような映像と脈打つサウンドトラックが詰め込まれた同作は、観客に対して時間と因果関係の理解を改めるよう促す。
最初のキャスティングからポストプロダクションの完了まで、『TENET テネット』の制作期間は1年以上に及んだ。これは、スパイ映画の限界を押し広げ、視覚的に美しくコンセプト的にも難解な作品を創り上げようとしたノーランの強い意志の表れだ。
ストーリーを成立させるために多くの「観客側の劇中設定の受け入れ」を求めることに不満を漏らす声も多かったが、それこそが映画監督としてのノーランの真骨頂であると筆者は主張したい。設定の「仕組み」ばかりを気にすることは、ノーランが創り出す贅沢な世界の「本質」を見失うことにつながる。『TENET テネット』の登場人物たちと同様に、私たちは人生で起きる出来事をすべて説明できるわけではない。私たちがコントロールできるのは、自分の反応と、その経験からどう成長するかだけだ。その意味で、同作はノーランの作品の中で最も哲学的に豊かな作品であり、スクリーン上で表現可能な限界に挑む彼の恐れ知らずのアプローチを象徴している。
12. 『オッペンハイマー』
『オッペンハイマー』は第二次世界大戦末期を舞台に、ナチス・ドイツよりも早く原子爆弾を開発するという緊急の任務を課されたマンハッタン計画の指導者、J・ロバート・オッペンハイマーがさらされた激しいプレッシャーを描き出す。連合国軍の焦燥感が高まる中、ロスアラモス国立研究所のオッペンハイマー率いるチームは、理論上の知識をすべての戦争を終結させるための兵器へと変えるべく、おそらく人類史上最も重大な科学的取り組みに乗り出す。
脚本からスクリーンへの道のりは2021年9月に始まり、2022年1月にプリプロダクション(準備・企画)が始動。主要撮影は57日間に及んだ。映画は2023年7月11日、パリのル・グラン・レックスでプレミア上映された。
『オッペンハイマー』は、大量破壊兵器の創造をめぐる道徳的・倫理的なジレンマを緻密に探求しており、キリアン・マーフィーとロバート・ダウニー・Jr.によるアカデミー賞受賞の好演がその物語の説得力をさらに高めている。ノーランの演出はアカデミー賞監督賞を獲得し、映画自体も作品賞に選ばれるなど、計7部門を制覇した。興行収入でも大成功を収め、世界興行収入9億5000万ドル(約1540億円)を突破した。同作は、天才の背負う重荷と、技術革新がもたらす結末を見つめた偉業である。


