私は四つばいの姿勢で、巨大な段ボールの「体」の中に入っている。あちこちにある隙間から光が差し込み、意外な方向の隅に、影ができている。私の周りには、トンネル、空間、そして隙間が、まるで空想上の都市のように広がり、それは親しみを感じるようでもあり、当惑するようでもある──。
イギリスの現代彫刻家、アントニー・ゴームリーがイタリア・トスカーナ州のサン・ジミニャーノにあるガレリア・コンティニュアで開催中の個展、「What Holds Us」で展示されている「Innercity」(都心部の過密地区)は、ゴームリーが初めて段ボールを使用した大型インスタレーションだ。これまでに手掛けた作品の中で、最も没入感を味わえるもののひとつでもある。
イングランド北部ゲーツヘッドに設置され、ランドマークとなっているインスタレーションの「エンジェル・オブ・ザ・ノース」、ニューヨークにある「イベント・ホライズン」などで知られ、ロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ、フィレンツェのウフィツィ美術館、パリのロダン美術館、ペンシルベニア州のフィラデルフィア美術館、ナショナル・ギャラリー・シンガポール、上海の龍美術館など、世界の名だたる美術館で大規模な展覧会を開いてきたゴームリーは、同世代の彫刻家のなかでも、特に大きな影響力を持つアーティストのひとりだ。
これらのことを考えれば、サン・ジミニャーノという中世のたたずまいを感じる場所でゴームリーの作品に出会えることは、なおさら驚きだといえる。だが、古代から残る石畳の路地や「塔の家」、ロマネスク様式とゴシック様式の建造物はゴームリーの最新の取り組みの背景として、意外な共鳴を生み出している。
「人体」を通じた探求
ゴームリーは(人間の象徴としての)人体、建築、そして人間の存在について、追求してきた。50年以上にわたり、彫刻を通じて「この世界で人体に生息するということの意味」を探求し続けている。人体は表現すべき対象ではなく、(私たちが何かを)体験し、意識し、知覚する「場」として扱う。
ますます多くのものがスクリーンやバーチャルな交流によって形作られるようになる時代において、ゴームリーが支持するのは、直接的、身体的な体験だ。彫刻はデジタル抽象芸術の拮抗勢力であり、私たちと人体、環境、その時々の瞬間とのつながりを取り戻すことを可能にするものだと捉えている。
鉛や鉄、コンクリート、石、粘土でも、あるいは段ボールでも、彼が作る人体は私たちに、自らの存在、私たちが占有する空間との関係にもっと意識を向けて欲しいと訴えかけている。



