サイエンス

2026.07.23 18:00

史上最凶の牙を持つスミロドン、噛む力はイエネコ並みだったと判明

スミロドン(stock.adobe.com)

これは、獲物の骨を噛み砕いて命を奪うライオンとは、根本的に異なる狩りの戦略だ。そしてこれこそが、大きな犬歯を持ちながら噛む力が弱いという、前述したパラドックスの解答となる──つまり、そもそも長さ18cmもあるスミロドンの犬歯は、戦いで勝利を収めるための武器というよりはむしろ、正確な一撃を可能にする道具だったのだ。

advertisement

噛む力が弱くあごの構造に制限があったことこそが、実は自身の安全を確保する構造だった。牙への負担があまりかからないため、のたうち回る500kgはある獲物を相手にした時に、巨大な犬歯が割れるリスクが少なくなるからだ。

スミロドンでは、前脚が力仕事を担い、大きな牙が正確に獲物を仕留めるのに使われていた。こうした役割分担に関して、生物学者が「収斂進化」と呼ぶ現象の好例がある。つまり、異なる系統の動物が同じ問題を解決するために、それぞれ別々に「サーベルのような歯」を持つ体の構造に行き着いたということだ。

実際、スミロドンの系統は、現生種のネコ科の動物とはかなり離れていて、近縁とは呼べないほどだ。一方で、かつて南米大陸に棲んでいた砕歯目に属する肉食動物ティラコスミルス(Thylacosmilus)は、哺乳類のなかでまったく異なる系統に属していながら、スミロドンと同様の巨大な犬歯と、噛む力の弱いあごを持つ構造を、進化のなかで独自に発達させていた。

advertisement

2013年に『PLOS ONE』に掲載された研究では、スミロドンとティラコスミルスを同じ生体力学のモデリングで分析したところ、双方に同じ構造のパターンが認められた。ということは、生息していた時期が数百万年離れ、まったく異なる系統に属する種が、収斂進化の結果、この奇妙な解決法にたどり着いたことになる。

2000体以上のスミロドンが見つかった「ラ・ブレア・タールピット」

今のわれわれがスミロドンに関して持っている知識のうちかなりの部分は、ある驚くべき化石の宝庫から得られたものだ。それが、カリフォルニア州ロサンゼルスにある天然アスファルトの池「ラ・ブレア・タールピット」だ。

ねばねばしたアスファルトが湧き出るこのタールピットから引き上げられたスミロドンの数は、実に2000体以上に及ぶ。さらにこれだけでなく、ラ・ブレア・タールピットおよび付属する博物館の発掘記録によると、数万年にわたって生息していた生物の化石が数百万個、ここに保存されているという。

天然アスファルトの池「ラ・ブレア・タールピット」で見つかったスミロドンの化石(stock.adobe.com)
天然アスファルトの池「ラ・ブレア・タールピット」で見つかったスミロドンの化石(stock.adobe.com)

ここまで高い密度で化石が見つかったことで、研究者たちも、推察のレベルを超えた分析が可能になった。そもそも先史時代に生きていた大型ネコ科動物の検証可能な生体力学モデルを作成できたのも、このタールピットで発見された数十個の頭蓋骨や四肢の骨を比較できたからだ。

次ページ > 他の動物を殺傷するための武器は、最大あるいは最強の部位である必要はない

翻訳=長谷睦/ガリレオ

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事