経営・戦略

2026.07.28 08:30

時価総額1760億円の上場を支えた徹底的な現場主義 タイミーCFO八木智昭

八木智昭|タイミー 取締役CFO

八木智昭|タイミー 取締役CFO

Forbes JAPAN 2026年9月号の第2特集は、「新時代のCFO」。「金庫番」から、企業価値を未来へ導く「先導役」へ。今、CFO の役割は劇的な進化を遂げている。無形資産への投資とリターンの可視化、革新的な資金調達、規律あるM&Aなど、日本経済の変革を牽引する「新時代のCFO 」の挑戦に迫る。

物流倉庫、飲食店、介護施設……。自らタイミーアプリでスキマバイトを実践する異色CFO。大型デットファイナンスとIPOの立役者となった八木智昭の泥くさく緻密な財務戦略とは。


八木智昭がCFOとして入社したころ、タイミーは崖っぷちに立たされていた。コロナ禍真っただなかの2021年1月、2回目の緊急事態宣言が発令され、同社が主戦場としていた飲食業界は人手不足から一気に人手余剰に反転した。タイミングは最悪だった。タイミーはコロナ禍以前の勢いに乗って社員を増やし、渋谷から池袋の新築で広いオフィスビルに引っ越したばかりだった。業績が伸び悩むなか、増加した固定費が重くのしかかった。「あと半年ほどでお金が尽きるという状況でした。すぐにでもファイナンスをしなければならないのに、業績は落ちている。『これはやばい』と思いました」

そこで八木が足を運んだのは「現場」だった。タイミーに求人情報を掲載している顧客企業を一社一社回って、タイミーを使う理由についてインタビューし、実際の店舗などのオペレーションを確認した。そのうえで、それぞれの顧客のポテンシャルとコロナ後の利用増加の予測をスプレッドシートに落とし込んでいった。対象は現在の顧客だけでなく、今後利用してくれそうな「未来の顧客」にも及んだ。現場の実態から導いた予測を積み重ね、投資家を納得させられるだけのデータを揃えた。「中長期的に見たら、人手不足は絶対になくなりません。構造的に伸びるビジネスであることをアピールし、かつIPOやその後の時価総額の上昇まで見据えてくれる人たちに投資を呼びかけました」。結果、海外機関投資家を中心に、当初の想定の2倍となる40億円を調達。タイミーは危機を脱した。

八木はさらにアクセルを踏んだ。当時、日本のスタートアップでは異例の100億円を超える大型デットファイナンスだ。「日本では、黒字化もしていないスタートアップに融資なんてありえないというのが常識でした」。三菱UFJ銀行にいた八木がそれをいちばんよく知っていた。だが、エクイティだけに依存していると、市場環境が悪化したときに命取りになることをコロナ禍で思い知らされた。まず相談した相手は、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーなど外資系投資銀行だ。日本の銀行が決算書などの「過去の数字」で判断するのに対し、外資系は「未来の数字」を基にリターンをはじき出せればリスクを取ってくれる。結局、外資系からは100億円規模の融資を受けられることがわかった。

しかし、足で稼ぐファイナンスはここで終わらない。「外資系の金利は高すぎました。そこで今度は融資を受けられるというファクトをもとに、日本の銀行を回りました」。メガバンクに限らず地銀も含めて10行以上、事業内容から計画まで、良いニュースも悪いニュースもすべて、毎月のように報告した。すると、過去の数字しか見ていなかった銀行が、タイミーの事業計画を信用するようになった。そしてついに、22年に183億円、23年に130億円という大型の融資を受けることに成功した。無担保、無保証、金利年1%未満という破格の条件だった。

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文=中居広起 写真=阿部高之

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