時価総額1760億円 大型上場へ導く
八木は自らもタイミーのアプリを利用して、暇を見つけては「スキマバイト」を実践する異色のCFOだ。物流倉庫から飲食店、介護施設、ホテルに至るまで、タイミーに求人を掲載しているほとんどの業界で働いている。「執務室にいるだけでは、机上の空論で、地に足がついていないと感じていました。現場に行くことで、どんなオペレーションやコミュニケーションがあるのか、業界によって業務の難易度はどうなのかなどが肌感覚でわかり、より納得感のある意思決定ができるようになったのです」。
特にタイミーの強みを実感したのは、少年サッカーのコーチのバイトだった。雇用主に腕を買われた八木は、「(タイミーを介さず)普通にアルバイトとして働かないか?」と誘われ、これを受けてみた。「ところが、雇用主と1対1の関係になった途端に煩わしくなってしまいました。まず、月の半ばには翌月1カ月分のシフトを出さなければいけない。せっかくシフトを提出しても『変えてくれないか』と言われ、希望日に入れなくなってしまったのです。いつでも好きなときに働ける『N対N』のマッチングこそ、タイミーの強みなのだと気づきました」
24年の時価総額約1760億円(初値ベース)という大型上場の裏でも、このスキマバイトの経験が生きた。タイミーは上場後の安定的な成長を鑑み、新しいビジネスに対する許容度が高い海外への販売比率を75%まで引き上げた。一方で、タイミーのようなサービスは前例が少なく、海外機関投資家にとって半信半疑だったのは「働き手は、なぜ通常のアルバイト契約ではなく、タイミーを選ぶのか」という点だった。八木は自らの現場での経験を交えて解像度高くこの疑問に答え、投資家からの信用を得たのだ。
八木はCFOとして、一回りほど年下の代表・小川嶺とどのような関係性を築いているのだろうか。曰く、小川の事業サイドのチャレンジや企業文化の醸成を尊重しつつ、時にはブレーキをかける存在だという。「実は2年前、一緒に海外の投資家回りをしている最中に大げんかになったこともあります。そのころ、他社の新規参入があり、競争環境が厳しくなるなかでわが社がどう対応すべきか意見が割れたのです。激論の末、『手数料を下げず、いちばん人が集まるプラットフォームを確立させよう』という、両者が納得する着地点を見いだすことができました」。会社の未来を考え、本音で反対意見をぶつけてくれるCFOは、若き起業家にとって羅針盤のような存在だろう。
やぎ・ともあき◎2008年、三菱UFJ銀行に新卒入行し、法人営業に6年超従事。その後、三菱UFJモルガン・スタンレー証券で、テクノロジー領域などのIPO、M&A、Debt Financeを担当。20年、タイミーに参画。取締役CFOとして複数の資金調達、24年7月のIPOを主導。本業と並行し、国内外のNPOを通じた国際支援、環境保全、教育支援にも取り組む。


