AIエージェントが資金を使うためのインフラは、ほとんど誰も予想しなかったほどの速さで整った。数週間のうちに、VisaとMastercardはいずれも自社の決済レールを正式にAIへ開放し、大手暗号資産取引所は、人間を介さずにエージェント同士が雇用し合い、支払いを行うマーケットプレイスを立ち上げた。そして米国最大の銀行は、消費者がそのいずれにも備えられているのかを公に疑問視した。モルガン・スタンレーは、2030年までにエージェント型ショッパーが米国eコマースの1900億〜3850億ドル(約62兆5000億円)を占める可能性があると推計している。この1カ月は、業界がその予測に向けて構築を急ぐ一方で、なお最も基本的な前提を議論していることを示した。
VisaとMastercardが同日に決済レールを開放
先月、VisaはOpenAI(オープンAI)との提携を発表し、自社の決済ネットワークをChatGPT(チャットGPT)に直接統合すると明らかにした。これにより、AIエージェントは単に商品を推奨するだけでなく、ユーザーに代わって購入を完了できるようになる。この統合はVisaのトークン化インフラ上で動作し、取引は利用限度額や必要な承認など、ユーザーが定義した権限のもとで実行される。
同じ日の遅い時間に、Mastercardは、AIエージェント同士が実行する取引(1セント未満のマイクロペイメントを含む)向けに設計されたサービス「Agent Pay for Machines」を発表した。人間がエージェントに付与する権限は、Polygon、Solana、Baseを含むパブリックブロックチェーンに記録され、決済はカード、銀行口座、規制下のステーブルコインをまたいで行われる。ローンチ時には、従来型の決済処理事業者から暗号資産インフラ提供企業まで、30社超が参加した(Fortune)。Mastercardの発表は、このサービスが「AIビジネスモデルの大開花」に向けた条件を生み出すものだと説明している。
世界のカード取引の過半を処理する2つのネットワークが、調整なしに同じ日に動いた。そしてそれだけで、エージェント決済は実証実験からインフラへと格上げされた。
OKXはエージェントによるエージェントへの支払いを可能に
ネットワークがエージェントによる加盟店からの購入を可能にしているのだとすれば、暗号資産業界はそれをさらに一歩進めている。先月末、暗号資産取引所のOKXは、AIエージェントが互いを雇用し、自律的に支払いを精算し、持ち運び可能なオンチェーン上の評判を構築できるマーケットプレイスを立ち上げた。同社は、次世代の顧客は人間ではない可能性に賭けている。
OKXが模索しているのは、取引のどちらの側にも人間がいないコマースである。このモデルでは、あるエージェントが別のエージェントを雇い、市場レポートの作成、データセットのクリーニング、広告バリエーションの設計、疑わしい活動がないかウォレットを監視することなどを依頼するかもしれない。支払いはステーブルコインで行われ、より複雑な仕事にはエスクローを利用でき、成功した取引はそれぞれオンチェーン上の評判記録に追加される。OKXの立ち上げが重要なのは、それが主流化の根拠を示しているからではなく、ソフトウェアが買い手にも売り手にもなる場合、エージェントネイティブなマーケットプレイスがどのような姿になり得るかを示しているからである。
JPモルガンは消費者がまだそこまで到達していないと指摘
投資家向けカンファレンスで、JPモルガン・チェースのコンシューマー&コミュニティ・バンキング部門CEOであるマリアンヌ・レイクは、オンラインショッピングにおける検索や発見ではAIの導入が急速に進んでいる一方、その導入は取引そのものには及んでいないと指摘した。「人々が今すぐ購入をエージェントに委任するようになるとは思わない」とレイクは述べ、人々が資金を動かす際には、信頼と安全性が一段と重要になると付け加えた。
レイクの指摘は、技術が機能しないということではない。消費者がAIによる検索、比較、推奨の利用に慣れることと、AIに資金を動かさせることに安心感を持つことの間には、大きな時間差があるだろうということだ。
その隔たりは、実務的に見れば理解しやすい。多くの人は、3つの休暇プランを提案してくれるAIアシスタントを好むかもしれない。しかし、自分が会議に出席している間に、そのアシスタントに航空券やホテル代として2000ドル(約32万円)を使わせる用意ができている人は極めて少ないはずだ。いくら安全策が講じられていても、エージェントの役割が「助言」から「実行」に移った瞬間に、心理的なハードルは一変する。
エージェントが誤った旅行を予約したり、偽造品を購入したり、間違ったサブスクリプションを更新したり、詐欺的なサービス提供者に送金したりした場合、決定的な問いとなるのは「システムが設計通りに動作したか」ではない。それは「誰がその損失を被るのか」ということだ。
レイクは、業界がなお確立する必要がある条件として、重要な意思決定における人間の関与(ヒューマン・イン・ザ・ループ)、エージェントの行動に関する透明性、そしてエージェントが過ちを犯した際にも機能する責任の枠組み(ライアビリティ・フレームワーク)を挙げた。
なぜ重要なのか
決済レールは今や、利用者よりも先を行っている。決済ネットワーク、暗号資産取引所、銀行はいずれも、エージェントが直接取引する未来に向けて布石を打っている。しかし消費者、加盟店、規制当局は、信頼のルールについてまだ合意していない。
だからこそ、来月よりも今後1年のほうが重要になる。業界が、エージェント決済は明確な権限、容易な監査証跡、信頼できる紛争解決、明白な責任の枠組みによって制限されていることを証明できれば、導入は急速に進む可能性がある。できなければ、この技術は印象的ではあるものの十分に使われないままとなり、エージェントはショッピングカートの段階で支援する一方、最後のボタンは依然として人間がクリックすることになる。
インフラは容易な部分だった。エージェント型コマースの勝者となるのは、AIに支払い方を教える企業ではない。AIに支出を任せても安全だと人々に納得させる企業である。
免責事項:筆者はPayPal Inc.の従業員である。本記事で表明された見解および意見は筆者のものであり、PayPal Inc.またはその関連会社の見解および立場を代表するものではない。



