中央銀行の金利決定、インフレと購買力、政治的不安、停戦合意、次の景気後退の始まり……
最近では、予測市場で数回リンクをクリックするだけで、ほぼあらゆるものに賭けることができる。しかし、「既知の未知」に賭け、「未知の未知」に対しては最善を期待するだけでは、未来に備える道筋として成り立たない。だからこそ、先見の明のあるCFOは、企業戦略の策定を支援し、複数のあり得る未来を乗り切る能力を構築するシナリオプランニングを推進しているのだ。
成熟したシナリオプランニング能力を持つ組織は、その能力が何であり、何でないかを明確に理解している。シナリオプランニングは一回限りの演習ではなく、事業運営に付け足されるものでもない。単なる定期的な予測更新でもない。むしろこのプロセスは、戦略策定、事業計画、リスク管理を改善するための付加価値あるインプットを提供する。事象を起点とした複数の起こり得るシナリオを策定し、それぞれの結果が主要なビジネスドライバーに及ぼし得る影響を評価し、それに対応して検討すべき戦略的・戦術的意思決定を明確にすることを含む。
適切な問いを立てることは、シナリオプランニングの重要な構成要素である。熟慮された的を絞った問いは、経営幹部の意識を、組織にとって最も重要な潜在的未来へ向けさせる。同様に、起こり得るシナリオだけでなく極端な将来シナリオを特定するために、徹底した分析を行うことも不可欠だ。その点では、部門横断的な協働、人工知能(AI)ツール、精緻なデータ収集の組み合わせが役立つ。CFOがこのプロセスの中心に位置するのは、FP&A(財務計画・分析)チームが常に先行きをモデル化しているからであり、また財務部門が、組織の最も重大なリスクと機会を財務的な言葉に置き換え、特定のシナリオが進展して現実になった場合に意味ある行動計画の基盤とすることができるからである。
賭けを減らし、アジリティを高める
シナリオプランニングは、先を見据えるCFOが導入する早期警戒能力の重要な構成要素である。これは、財務計画を支える暗黙の前提をストレステストし、先行指標を監視し、それらのシグナルが黄色または赤色に点灯した場合にエスカレーションするためのものだ。シナリオプランニングは、将来の混乱に向けた訓練またはリハーサルとして機能する。混乱が現実化し始めた際に、組織のリーダーがリスクを最小化し、機会を最大化するための次善の行動を発動できるようにする準備である。
財務リーダーがシナリオプランニングを差別化につながるスキルへ高める機会を評価する際には、以下を考慮すべきだ。
- CFOは、断続的ではなく継続的であるべき能力を推進する:財務部門は、こうした演習が生み出す財務・業務シナリオ、および各シナリオが必要とする対応に対して、財務KPIを設定できる。地域紛争、海上交通路のチョークポイントをはじめとするサプライチェーンの混乱、新たな競合、医療面のブレークスルー、AIの転換点、その他の経済的、技術的、規制上、地政学的、社会的な混乱は年次サイクルで動くわけではない。したがって、シナリオプランニングも年次サイクルで行うべきではない。
- シナリオを重要なビジネスドライバーに結び付けることで、分析まひを減らす:プランニング演習の中には、私が「TMS(Too Many Scenarios:シナリオ過多)」と呼ぶ状態に陥り、頓挫してしまうものもある。考え得るすべてのシナリオを検討するのではなく、業績に重大な影響を与え得る事象を特定する環境スキャンを行うべきだ。組織によっては、まず低・中・高のビジネスドライバーへの影響を検討し、その上に混乱要因を重ねることから始める。起こり得るトレンドを分析すること(原油価格がXに達したら、YとZを行う)は、大規模な原油流出や自然災害のような予測不能な一回限りの極端な事象に焦点を当てるよりも、多くの場合、生産的である。
- 部門横断的な協働は必須である:シナリオプランニングは、分析の幅を広げ、バイアスを打ち破るのに役立つ洞察を持つ多様なステークホルダーの視点を取り入れることで、より強固になる。業務部門のリーダーは、サプライチェーンの混乱について包括的な知見を持つ。税務の専門家は、関税やその他の地経学的リスク、対応に向けた代替的な道筋について独自の見方をもたらす。ディールチームはM&Aと資本市場の力学を理解している。製品開発チームは、長期にわたるパイプラインを把握している。
- 質が高く包括的なデータが基盤となる:次世代のシナリオプランニングは、社内データと外部データ(関連する経済・競争指標、商品価格、地政学リスク、世界貿易リスク、消費者シグナル、人口動態の変化など)を包括的に組み合わせたデータレイクに問い合わせるAIツールを活用する。既存のエンタープライズ・パフォーマンス・マネジメント(EPM)やその他のプランニングシステムで利用可能なものを含むAIツールは、パターンを特定し、データを用いてシミュレーションを実行する。
緊急時に開くプレーブック
優れたシナリオプランニング能力は、シナリオがリアルタイムで展開する中で組織が実行できる、あらかじめ定義された「緊急時に開く」行動を含む、活用可能なプレーブックに基づいて運用される。このプレーブックの構築は組織のアジリティを促進し、部門横断チームが以下の領域と問いを検討していくことを必要とする。
目的と目標の明確化:
- われわれは、戦略策定、リスク管理、またはイノベーションを支えるためにシナリオを策定しているのか。
- われわれは、どの具体的な課題、不確実性、または機会に対処しようとしているのか。
- どの時間軸を用いるべきか。
主要ドライバーの特定:
- シナリオに影響を与える最も重要な外部要因(例えば、経済、技術、規制、環境、社会)は何か。
- 潜在的な結果に影響を与え得る内部要因(例えば、組織能力、文化、資源)は何か。
不確実性と潜在的リスクの検討:
- 結果に重大な影響を及ぼし得る、最も予測不能な変数は何か。
- 1つの変数が大きく変化した場合、どのような連鎖的影響が起こり得るか。
- 最悪、最善、最も可能性の高いシナリオは何か。そして、それぞれを引き起こすトリガーは何か。
- 地政学的な考慮事項を織り込んでいるか(例えば、中国が台湾に対して動きを見せた場合、またはホルムズ海峡が不確定な期間にわたって閉鎖されたままとなった場合はどうか)。
- 盲点や環境の予期せぬ変化から、どのようなリスクが生じ得るか。
- 顧客、従業員、規制当局などの異なるステークホルダーは、各シナリオにどう反応するか。
意思決定と行動の特定:
- 各シナリオにおいて、どの対応戦略または行動が最も効果的か。
- 複数の潜在的未来に適応するための柔軟性とレジリエンスを、どのように構築できるか。どのシナリオが進行しているかを把握するために、どの早期警戒指標を監視すべきか。
前提のストレステスト、バイアスへの挑戦、適応:
- われわれはどのような前提を置いており、それらはどのように変化し得るか。
- われわれは自らの前提に異議を唱え、別の視点を検討しているか。
- どのようなバイアスがわれわれの思考に影響を与えている可能性があり、それをどのように軽減できるか。
- われわれが選定したシナリオをストレステストした際、現在の能力はどこまで耐えられるか。極端な条件下でも耐えられるか。
- これらのシナリオの策定と分析から得た知見を、戦略、意思決定プロセス、その他の能力の改善、および不測の事態への計画にどのように活用できるか。
- 新たな情報が入手可能になった際、これらのシナリオをどのように更新するか。
「未知の未知」に備える
上記の問いは例示ではあるが、シナリオプランニングのプロセスに求められる厳密さを理解するには十分に包括的である。要点はこうだ。これらの問いに取り組んだ後、経営チームは、重大な意思決定をリアルタイムで下す能力を試すロールプレイ型シナリオを定期的に実施できる。そして、これこそがわれわれの活動する世界である。
対立するチーム同士を競わせ、主要な前提に挑む机上演習も、適切な問いを立てることを促す。私は2019年の映画『ミッドウェイ』の一場面を思い出す。日本海軍の南雲忠一提督が、侵攻前の作戦計画演習で部下の源田実が交戦規則を破り続けることに苛立つ場面だ。源田は、米空母が日本艦隊を撃破できる位置にあるという設定を繰り返した。南雲は、米空母はそこにいるはずがないと主張した。源田がしたことはただ、「もしそこにいたらどうするのか」と問うことだけだった。そしてもちろん、その後の展開は歴史が示す通りである。
われわれは「未知の未知」の事象を予測することはできないかもしれない。だが、重要なビジネスドライバーと戦略的前提に結び付いたシナリオを策定し、検証することで、そうした事象がどれほど損害や恩恵をもたらし得るかを理解できる。洞察に富むシナリオプランニングが実行可能な対応計画を生み出すとき、リーダーは「未知の未知」を含むさまざまな潜在的未来を前に、組織が方向転換できるよう、よりよく備えることができる。



