当時、加藤先生から「宮田さん、ここは絶対に投資しなきゃダメだ。ここが勝負所だ」と言われ、当時のうちの規模としては大金だった500万〜600万円のスポンサー費用を出す決断をしました。サミットにはアボットという超大手ステントメーカーとうちの2社だけがビッグスポンサーとして食い込みました。
サミットでは、日本の「5人の侍」が集結し、アメリカ人の患者さんのCTO病変をカテーテルで治療する院内ライブが行われました。普段は決して一枚岩ではない先生方が、この時ばかりは「オールジャパン」として団結した。ここで失敗したら日本のCTO治療の未来はないという凄まじいプレッシャーの中、5人の先生全員が見事に手術を成功させたのです。欧米のドクターたちは度肝を抜かれていましたね。
その日の夜のディナーパーティーでのことです。私は当時、英語も大して喋れませんでしたが、同行していた社員の二人に「白と赤のワインボトルを持ってくれ。俺が全部のテーブルを回ってワインを注ぎにいくので、キミらはワインを持ってきてくれ」と指示しました。
欧米の習慣では、ゲストであるメーカーの人間がウェイターのようにワインを注いで回るなんてあり得ないことです。しかし、その必死な姿と、昼間の圧倒的な手術の成功が相まって、世界のトップドクターたちに「アサヒインテック」という名前が強烈に刻み込まれました。この瞬間から、世界中で爆発的にアサヒのワイヤーが売れ始めたのです。まさにこれが、私たちの最大のブレイクスルーでした。
―― その後、アボット社と欧米での独占販売契約を結ばれたのですか。
宮田: はい。アボットの上層部がその熱狂を見ていて、欧米での独占販売権を結びたいと言ってきました。販路のない私たちにとってはありがたい話でしたが、条件交渉では徹底的に戦いました。パテント訴訟のリスクはすべてアボットがもつこと。そして何より、製品名に必ず「ASAHI」の名前を残すこと。
彼らは自社ブランドとして売りたかったわけですが、私は「販売は任せるが、製造販売元はあくまでうちだ。アサヒのブランディングでなければ契約しない」と最後の最後までこだわり抜きました。結果として『ASAHI PTCA Guidewire』という名前で世界に広まり、のちにアボットと契約を解消して直接販売体制(直販)に切り替えた時にも、市場にはしっかりと「アサヒ」の名前がブランドとして残った。あのこだわりが、今のグローバルシェアの基盤になっています。
医師の「イメージを具現化する」プロデュース力
―― 今のお話に対して、大きな疑問があります。国内外のトップクラスの名医たちとの協業は、通常は無理です。患者の命を預かる医者は厳しい人が多く、大手企業だからといっても「ついていけない」という話をよく聞きます。
宮田:通常、医療機器メーカーは、マーケティング部門や営業の人間など「文系の人」がお医者さんのニーズを聞きに行き、それを社内の「開発部門」に伝えます。しかし、その伝言ゲームの段階で必ずロスが生まれ、ドクターの細かなニュアンスが正確に伝わりません。また、お医者さんは理系ですから、本質的には理系のエンジニアと直接喋りたがっているのです。
だから、うちは最初から「エンジニア」が、直接先生の要望を聞きます。当社の主要な開発エンジニアは、ドクターと対等に議論ができるように、医師と同じレベルの臨床知識を猛勉強して身につけています。
ドクターの言うアイデアや「ここをもう少し硬く」といった曖昧なフィーリング(感覚)を、その場で「医者語」として理解し、数日のうちに試作品として目に見える形にする。この自社一貫生産体制によって可能となる圧倒的なスピード感と具現化の能力があるからこそ、お医者様は「アサヒと組むと面白い」と言ってくださるのです。
―― なるほど、医師の思いを速攻で顕在化できることが差別化に繋がっている、と。
宮田: 自分で言うのもなんですが、「プロデュース力」が一番の得意分野だと思っています。お医者さんというのは皆さん一匹狼です。プライドもある。自分から他の先生にアプローチすることは滅多にありません。
私は世界中の学会に顔を出し、トップドクターたちの性格ややりたいことを見極めて、「この先生とあの先生のアイデアを結びつけたら、すごい化学反応が起きるんじゃないか」とマッチングさせるのです。
時には坂本龍馬のように私自身が仲介役になり、ドクター同士の信頼関係をプロデュースする。だからこそ、国内外のKOL(キーオピニオンリーダー)ドクターたちが、朝日インテックの味方になってくれるのです。
当社の営業スタイルは独特で、製品をただ売りに行くのではなく、血管モデルを病院に持参して、若い先生方にワイヤーの操作技術を「トレーニングしにいく」という文化があります。ドクターとメーカーという「主従関係」ではなく、医療を共によくしていく「対等なパートナー」として付き合う文化が組織の隅々まで行き渡っています。
なぜアサヒインテックの技術は真似できないのか
――トルク技術のノウハウは特許を出していないとお聞きしました。それはなぜですか?
宮田: 特許に関しては少し誤解されやすいのですが、製品の「形状」や「デザイン」に関する特許は世界中で大量に出しています。しかし、「なぜこのワイヤーがこれほど滑らかに回るのか」という根源的な製造ノウハウ、コア技術の特許は一切出していません。完全にブラックボックス(企業秘密)化しています。
なぜなら、もし製造特許を出してしまえば、そのノウハウが公開されてしまいます。だからこそ、根っこのノウハウは社内のごく限られた人間にしか教えず、徹底的に秘匿しています。これが他社がどれだけお金をかけてもアサヒのトルク技術をコピーできない理由です。


