大規模言語モデル(LLM)の構築に取りつかれ、これこそが知能競争に勝つ方法だと考える企業のCEOを思い浮かべてほしい。月曜の朝になると、彼女はベンチマークスコア、トークンコスト、ハルシネーション率といった変数についてチームを問い詰める。苦労して勝ち取ったわずかな改善の一つひとつが勝利のように感じられる。「私たちは本当に特別なものをつくっている」と、彼女はスタッフを鼓舞する。
しかしその間、AI時代にこのCEOに真の優位性をもたらすかもしれない、ある一つの問いは一度も問われない。それは「ペンを拾うことを、どう学ぶのか」という問いである。
私たちはフィジカルAIの覚醒を目の当たりにしているのか
米国企業の多くの幹部はいまも、この架空のCEOと同じように考えている。近視眼的に、ブラウザーやスマートフォン、タブレット上で動くデジタルAIにばかり目を向けているのだ。身体性AI(EAI)企業であるFaraday Future(ファラデー・フューチャー)の共同CEO、クリス・チェンは、それは急速に現実化しつつある未来に備える方法として誤っていると考えている。
「世界全体がフィジカルAIの到来目前にある」と、同氏はロサンゼルスで行われた同社のEAIロボティクス教育エコシステムの正式発表会でのインタビューで語った。この場で同社は、Faraday Futureが総称して「EAIロボット」と呼ぶロボット製品群の各種モデルを披露した。その中には、第2世代のフラッグシップとなる実物大ヒューマノイドロボットや、家庭および学校でのAI教育向けの小型四足歩行EAIロボット「FX Navi」が含まれる。イベントでは、正式投入を控える2つのヒューマノイドモデルのプレビューも行われた。若者向け教育とスポーツ競技用に開発された「Master Mini」と、子ども向けの小型コンパニオンロボット「Nova」である。
チェンの指摘はこうだ。IBM.comによれば、デジタルAIは「書籍、記事、ウェブサイト、コード、その他のテキストソースから得られる数十億、あるいは数兆語に及ぶ膨大なデータ」で訓練されてきた。時間の経過とともに、モデルは予測、推論、パターン検出を学び、人工知能、とりわけホワイトカラー部門を揺るがしてきた生成AIで大きな進歩をもたらした。その結果、Anthropic(アンソロピック)のCEOダリオ・アモデイは、Fortuneによれば、「AIは新卒レベルのホワイトカラー職の約50%を消滅させる可能性がある」と示唆するに至った。
しかし、そうしたデータの取り込みが主に強化してきたのは、身体を持たないAIである。それ自体は印象的であり、驚くべき偉業であることは間違いない。だが、2次元のデジタル画面と、3次元の世界で行動し移動できるAIとの間には、天地ほどの差がある。
より具体的に言えば、卵が割れる音をフォークナー風の言葉で描写できるAIは有用である。一方、AIの頭脳を持つロボットがその卵を割り、あなたの婚約者のためにスフレを作れるとすれば、それは経営者が無視すれば危険を招きかねない大転換を意味する。
身体性AIの訓練はなぜこれほど厄介なのか
奇妙に聞こえるかもしれないが、身体性AIに求められる要件と比べれば、デジタルAIの学習はほとんど容易だとさえ言える。「ロボットは、現実世界の無数のシナリオに直面しなければならない」とチェンは言う。「それははるかに困難なことだ。特に重力、バランス、摩擦、そして不確実性といった力に対処する場合、身体性AIは物理法則を理解しなければならないからだ」
これを踏まえ、チェンは、これからのボトルネックは、AIが実用化されつつあった21世紀の大半を通じてそうだったような「知能」ではないと指摘する。むしろ、十分な現実世界のデータを獲得することこそが課題になる。結局のところ、四足歩行の身体性AIロボットが消費者に受け入れられるほど十分に機能するためには、その移動や行動を裏付ける十分なデータが不可欠なのだ。
繰り返すが、ChatGPT(チャットGPT)、Claude(クロード)、Gemini、Grokなどのフロンティアモデルは、膨大な量のテキストと画像で訓練された。筆者が過去のForbesの記事で予告したロボット革命が本格化するには、企業が身体性AIを、赤ん坊や幼児のように成長過程の人間が当たり前に行う無数の身体活動、すなわち触れる、歩く、運ぶ、失敗する、そしてもちろん立ち直るといった活動で訓練しなければならない。
「シミュレーションから現実へ」という課題の現実
なるほど、分かった、と思うかもしれない。ならば、シミュレーションを使ってロボットを訓練すればいいのではないか。人間のパイロットもそうやって訓練している、と。
しかし、そう単純ではない。
訓練データを提供するClaru.aiによれば、この「シム・トゥ・リアル・ギャップ(シミュレーションと現実のギャップ)」は厳然と存在し、非常に厄介だという。「シミュレーターと現実世界との間にある、視覚的レンダリング、接触の物理学、センサーのノイズ、およびアクチュエーターのダイナミクスの違いにより、制御ポリシーはトレーニング中には遭遇しなかった条件に直面することになる。その結果、精度の低下からタスクの完全な崩壊に至るまでの失敗が引き起こされる」
同ソースは、仮想環境で90%の成功率を誇るロボットであっても、現実世界では30〜60%のパフォーマンスしか達成できない可能性があると指摘している。
物理データの収集こそが真のゲームチェンジャーである
「本物のユーザーにいち早くロボットを届けることが重要なのは、ユーザーが将来のロボットを向上させるデータを生成してくれるからだ」とチェンは言う。この自明の理は、自動運転車の例を見ればよく分かる。自宅のガレージで充電している電気自動車(EV)について大まかな理解しか持たない消費者が、ガソリン代を払わなくて済むようになったことだけに感謝しているとしても、無理はない。
彼らが気づいていないかもしれないのは、そうした車両が映画『トランスフォーマー』のセリフを借りれば「見かけ以上の存在(more than meets the eye)」だということだ。それらは事実上、データコレクターなのである。ハーバード・ビジネス・スクールの「Digital Innovation and Transformation」の解説によれば、「テスラは、AIや機械学習に加えて、さまざまなソースからデータを取得・集約する驚異的なシステムを組み合わせることで、自動運転機能を実現している。すべてのテスラ車にはセンサー、カメラ、レーダーのセットが搭載されており、各車両の外部の微細な環境データや、車内のドライバーや同乗者のジェスチャーを常に収集している」という。
では、これほど重要な物理データの収集は、将来どこからもたらされるのだろうか。それは若者たちだ。この目的を達成するため、Faraday Futureは教育機関であるTriple Iとの戦略的な双方向パートナーシップに投資した。若者たちが未来の労働力として必要な、実践的なロボティクススキルを学ぶサマーキャンプを推進すると同時に、生徒たちが身体性AIの現実世界に対する物理的理解に貢献できる仕組みを整えている。
避けては通れない、労働力への影響についての議論
こうした訓練には現実世界での利点がある一方で、この技術的破壊に経済的リスクがないと示唆するのは不誠実だろう。アモデイが認めたように、デジタルAIがホワイトカラー労働力を揺るがしてきたのと同じく、一部のブルーカラー労働者がすでに自分たちに取って代わるロボットを訓練していることは、懸念すべき事実である。Dissent Magazineによれば、「Amazonで起きている最新の激変は、ロボットを備えた先進的な倉庫の導入によるものだ。同社は労働者数を減らすため、旧式の施設を刷新している」という。
自動化がAmazonだけでなく世界中の工場で働く人間に最終的にどのような影響を及ぼすのかは、まだわからない。現時点で、あらゆる場所の経営者にとって重要な洞察は、デジタルAIの訓練に注力するだけでなく、身体性AIが飛躍する日に備えることでもある。
ほかならぬNvidiaのCEO、ジェンスン・フアンは、自分がいま20歳なら、次の大きな機会として物理科学に注力すると公の場で述べている。フアンはCNBCに対し、「次の波では、物理法則、摩擦、慣性、因果関係といったものを理解することが求められる」と語った。
次に来るもの
フアンの発言はチェンの発言と相まって、どのCEOも軽視すべきではない、より広範な思考の転換を浮き彫りにしている。ここ数年が私たちに何かを教えてくれたとすれば、それはAIがインターネット、そしてその前の電気のように、不可欠な技術へと急速になりつつあるということだ。急速な変化のペースに追いつくために、あらゆる場所の経営者は、デジタルからフィジカルへと飛躍し、AIが画面の中に限定されるのではなく、息づく日常の現実の一部となる世界を見据える必要がある。



