イリーカフェ(Illy Caffè)は、100%アラビカ種の看板ブレンドで名を築いてきた。140カ国以上で販売され、1日に推定1000万杯が提供されている。1933年にイタリア・トリエステで創業し、いまなお家族経営を続ける同社は、第2のブレンドを発売したことも一度たりともなく、産地をローテーションするという業界の潮流にも従ってこなかった。この揺るぎない一点集中こそ、気候変動によって今後最も試されるものだと、会長のアンドレア・イリーは語る。
イリーが真剣に取り組んでいるのはコーヒーだけではない。同社は数十年にわたり、企業の中でも異色のアートコレクションを築き上げてきた。多くのコーヒーブランドがバリスタと協業するように、同社は現代アーティストたちと組んできたのだ。最高品質のコーヒーで世界的信頼を得ているという事実の裏には、多くの取り組みがある。
先ごろイリーに話を聞き、畑からアートの世界まで、コーヒーが次にどこへ向かうのかを語ってもらった。以下がその内容である。
AIはコーヒー農家の適応をどう助けるか
人工知能(AI)の話題を振ると、イリーはいつも以上に生き生きとした表情になる。AIは数カ月先の天候を予測できるのか。まだできない、と彼は指摘する。「AIは天気予報には非常に有用だが、せいぜい10日先まで。中長期の予測には向かない」
そのギャップが埋まれば、畑への応用は一直線に進むと彼は見る。「予測が可能になった日には、私たちはそれに応じて、生産者に行動や実践を推奨できるようになる。剪定を始める、マルチングを行う、水を確保する、施肥するなど、気候変動、特に干ばつや熱波の影響を和らげるための多種多様な実践である」
再生型農業は、AIが体系化を支援できる分野の一つだと彼は考えている。その多くがいまなお経験則に基づいているからだ。彼が挙げる例は、土壌に至るまで特定の生態系に即したものだ。「特定の土壌を持つ特定の生態系では、ある特定の被覆作物を植えるのがよい場合がある。微生物や昆虫との相乗効果を生むからだ」
予測の先には自動化がある。イリーはそれをエージェント型AIと呼ぶ。システムが助言するだけでなく、自ら動くという意味だ。「灌漑はAIで直接管理できる。気象データを受け取ったAIは、灌漑の要否・時期・方法、より正確に言えば水と肥料の組み合わせを自動的に判断できる。これは有望であり、私たちも取り組んでいる」
妥協なきひとつのブレンド
イリーカフェは1種類のブレンドのみを販売し、それが成功している。「私たちの夢は、世界に最高のコーヒーを届けることだ」とイリーは言う。「私たちの使命は、自然が提供し得る最高のコーヒーである、たった一つのブレンドだけを提供することだ」。これは市場ではなく、自然によって定められた基準である。彼によれば、コーヒー生産者たちの間では、イリーのコーヒーは公式基準をはるかに上回るため「存在しない」と冗談を言われるほどだという。「最高であるということは、製品は一つしかあり得ないということだ」と彼は語る。
コーヒーをワインのように捉えるべき
ワインとコーヒーについて人々の語り方がいかに違うかを考えれば、そこに商機がある、とイリーは見る。「私たちはコーヒー文化を革新し、ワインと同じくらい洗練された文化を築く必要がある」と彼は言う。「ワインでは、1本1本のボトルが違う。クリュがあり、ヴィンテージがあり、エステートがあり、実に多くの物語と選択肢があり、それを識別することで愛好家になれる」。イリーカフェは、バリスタ向けの機器、研修、ブランディング支援を通じてこの変革を後押ししている。
「品質への旅の最初の分岐点は、100%アラビカを選ぶことだ」と彼は語る。「砂糖もミルクもいらない。アロマのプロファイルを完全に覆い隠すのはナンセンスだ。コーヒーは私たちが口にするなかで最も香味豊かな産物なのだから。ワインと同様、コーヒーには1000種類以上のアロマがあり、それは唯一無二だ。それほど豊かなのに、なぜミルクのような余分な香りを加える必要があろうか。最高のものを選び、コーヒーの純粋さを味わってほしい」
サステナビリティとアート
イリーカフェは、再生型農業、再生可能資源、リサイクル可能な包装をひとつのシステムとして投資している。より良い土壌と低環境負荷が、コスト増ではなく、より良いコーヒーへと結実する仕組みだ。
同社の活動範囲はアートにも及ぶ。世界で最も重要な現代美術展といっても過言ではないヴェネチア・ビエンナーレへの参画は長年にわたる。「発想は、良質さに美しさを加え、それを高め、味覚だけでなく視覚という追加の感覚で消費者体験を昇華させることだ」とイリーは言う。既存のイリー・アートコレクションのカップやマグは、彼によれば同種のものとしては世界最大規模だという。
総じてイリーは、コーヒーの未来を、小規模農家、データ、そして立ち止まって自分が飲んでいるものをじっくりと味わう意思を持つ人々に賭けている。



