キャリア

2026.07.22 12:00

AI時代、働き手が会社に依存せず「キャリアのインフラ」を築く方法

stock.adobe.com

ここで、「役職ではなく、人に投資する」という政策構築の原則を示しており、手本にする価値があるのがシンガポールだ。同国の「スキルズ・フューチャー・クレジット(SkillsFuture Credit)」制度は、25歳以上の全国民に、雇用主主導ではなく、その人が身につけるべきスキル習得の資金を支給するというものだ。

advertisement

この資金は、企業に雇用されているか、自営業者か、求職中かを問わず、個々人に提供される。個人が、雇用されている企業からの承認を待つことなく、自らに属するスキルを持つための制度と言えるだろう。

資金と同じくらい大事なのは、時間の確保だ。丸一日働き、家庭での務めも果たし、疲れ切った状態で、なけなしの残り時間でキャリアを再構築することなど、誰にもできないからだ。

社会が個人に「継続的な適応」を期待するのなら、適応そのものが、社会インフラの一部にならなければならない。これは、以前の世代が、市場原理に任せるだけでは、チャンスが平等に行き渡ることはないことを悟るやいなや、教育や医療、退職や有給休暇に関する制度が社会インフラへと変革していったことと同じ歩みと言える。

advertisement

こうした考えから生まれる可能性があるのは、求職中の人が使える一時的なアカウントや、公的援助によるキャリア再構築資金、再教育休暇といった制度だろう。再教育休暇は、現行の出産・育児休暇や有給休暇と同様の仕組みであり、労働者が一時的に仕事を離れて、社会が支援する価値があると判断した目的に専念する時間を設けるものだ。

個々人の変化のペースは企業よりも速く、企業の変化のペースは政策を上回る。このペースの差が重要な意味を持つことになる。社会インフラや投資モデル、個人にひも付けされた社会保障、刷新されたセーフティーネットといった政策ベースの制度が、個々人がすでに取り組んでいることに追いつくのには、今後数年を要するだろう。

個人の視点から見れば、自身のAIリテラシーや人脈、目に見える形で能力を示す実績、生計を維持する資金の確保といった取り組みに着手する際に、政策が立ち上がるのを待っている余裕はない。しかし、今挙げたような個人インフラが、広く多くの人にアクセス可能なものになるか、あるいは、「自らのキャリアを再構築する時間や資金、自信をすでに持っている人だけの特権的なもの」になるかを決めるのは、政策の役割だ。

ここで、冒頭で触れた、すんでのところで会社を辞めかけた企業幹部の話に戻ろう。彼のストーリーはハッピーエンドで終わったが、理解のあるCEOと会話をするという幸運がなければ、このような結末を迎えられないなどというのは、本来あってはならないことだ。

AIによって働き手は、従来の労働契約の範囲を超えた経済的主体性の姿を垣間見ている。一度その姿を見た者にとって、仕事をめぐる議論は、与えられる任務から「自分が持つ能力」へ、雇用される立場から「自ら稼ぐ立場」へ、受け身の学習から「キャリアの再構築」へ、肩書きに従属する身分の保障から「その人自身をベースとする保障」へと変わっていく。

未来の働き方には、従来型の雇用主を持つか持たないかにかかわらず、働き手が経済的に自立することを助ける仕組みが不可欠だ。キャリアの構築に際して、誰かの許可や、「適切な人と適切なタイミングで適切な会話ができる強運」が必要となるのは、望ましい姿ではない。

これは、「雇用される能力」という問題よりも、はるかに大きな問いかけだ。政策をめぐる大半の議論が出してくる答えよりも、はるかに大きな答えが与えられるべき問題なのだ。

forbes.com 原文

翻訳=長谷睦/ガリレオ

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事