サイエンス

2026.07.29 18:00

耳垢でストレス度や難病発見の可能性も 人間に耳垢がある理由と意外なその機能

stock.adobe.com

stock.adobe.com

耳垢(医学用語では「じこう」)は、人の体が排出しようとする単なる老廃物ではない。耳垢は、れっきとした目的を持つ、人体の生成物だ。

耳の穴と鼓膜を結ぶ外耳道のうち、外に開いている側の3分の1の部分には、2種類の腺が存在する。一つは、皮脂と呼ばれる油性の物質を分泌する皮脂腺、もう一つは、耳垢腺(耳道腺)と呼ばれる特殊なタイプの汗腺だ。

これら2つの腺から出る分泌物が、剥がれ落ちた皮膚細胞や、抜けた毛を取り込んで、いわゆる耳垢が形成される。厄介者と思われがちだが、生物学者たちは一般的に耳垢を、外耳道の奥にある鼓膜を守るためのコーティングだと見ている。鼓膜は、人体のなかでも屈指のデリケートな構造なのだが、耳垢以外には、さしたる防御が備わっていない。

知っているようで知らない耳垢の役割

耳垢には、耳の保護に役立つ複数の機能がある。弱酸性であることに加えて、抗菌作用を持つ成分が含まれている。これにより、温かくて暗く、湿度が高いという、まさに微生物が好む条件が揃った外耳道を、細菌やカビ類の繁殖から守るのに一役買っている。

耳垢には粘着力があり、これにより、ほこりや花粉、小さなゴミが鼓膜に到達する前に封じ込める。また、多少なりとも水をはじく能力もあるので、シャワーや水泳の後に、外耳道がいつまでも濡れた状態でいるのを防ぐのにも役立っている。

また、ほとんど知られていないが、耳垢には自然に排出される自浄メカニズムも備わっている。ものを噛んだり話をしたりする時に生じる、毎日の顎(あご)の動きが、物理的に古くなった耳垢や、そこに含まれている皮膚細胞を、耳の外に近い部分へと押し出している。その場所で耳垢は乾き、薄片状になって、何もしなくても耳から排出されていく。

耳鼻咽喉科の専門医が、定期的な耳掃除を控えた方がいいと主張するのは、これが主な理由だ。耳には、自動的に掃除をする仕組みがあるからだ。

耳掃除に関しては、生物学の常識と、誰もが慣れ親しんでいる習慣が真っ向から対立している。綿棒を耳の穴に突っ込んでも、耳垢はほとんど除去できない。耳垢の位置が変わるだけで、むしろその一部をさらに外耳道の奥に押し込んでしまう。こうなると、前述の自浄メカニズムで再び排出することは不可能になる。

これが何カ月、あるいは何年も繰り返されると、鼓膜に耳垢がこびりついて耳をふさぐ、耳垢栓塞と呼ばれる状態になりかねない。こうなってしまうと、耳の聞こえが悪くなったり、不快感や耳鳴りといった症状が生じるおそれがある。

このように、耳を「きれい」に保ちたいという本能的な行動が、医師が目にしがちな耳垢にまつわる問題の大半を作り出しているというのは、生物学者もよく指摘する皮肉な話だ。

次ページ > 人によって耳垢のタイプが異なる理由

翻訳=長谷睦/ガリレオ

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事