人によって耳垢のタイプが異なる理由
人間の耳垢には、2つの明確に異なるタイプがある。
1. 粘り気があって茶色い「湿性」タイプ。ヨーロッパやアフリカで一般的にみられる。
2. 乾いていて薄片状の、色が薄いタイプ。東アジアや南北アメリカ大陸に住む先住民のあいだで多数を占めている。
このタイプの違いは、「ABCC11」という単一の遺伝子によってほぼ完全に決まっていることが、2006年に『Nature Genetics』に掲載された研究論文によって特定された。この遺伝子は、耳垢腺が、油性で脂質が多く含まれた物質を分泌する量を決めるものだ。
DNAが変化した、特定タイプのABCC11遺伝子を2個持つ人の場合は、この油性の物質の分泌量が非常に少なく、耳垢はまったくネバネバしない。そのため、外耳道の壁にへばりつくことなく、もろく崩れてしまうほど乾いている。これはつまり、欧米人の多くが「普通」と考えている湿性タイプの耳垢を「作ることができない」人がいるということだ。
この論文では、前述のDNAの変化は、東アジアに住む人々のあいだではかなりの多数派であるのに対し、アフリカではごくまれにしか発現していないことも明らかにしている。これは、太古の人類がアフリカを起点に、アジア東北部へと移り住んでいった道をおおむねなぞる結果だ。
さらに、2011年に『Molecular Biology and Evolution』に掲載された研究では、このパターンが維持されている理由をさらに追求し、東アジアに住む人々のあいだでは、このDNAの変化に自然選択が影響を及ぼしたことを示すエビデンスを発見した。ただし、この変化が、真の意味で生き残りに優位な形質をもたらしたかどうかについては、いまだに議論されている状況だ。
耳垢からわかる病気も
耳垢は、分泌物と、そこに取り込まれた物質によって、ゆっくりと形成される。そのため、大半の人が持つイメージとは違うと思われるが、実は多くの医学的情報を備えている。その最も明確な例が、「メープルシロップ尿症」と呼ばれる極めてまれな遺伝性疾患だ。これは体が、特定のアミノ酸を分解できなくなることから生じる難病だ。
この疾患を抱える新生児では、尿や汗に加えて、耳垢に、特徴的な甘いにおいが認められる。これは、1999年に『Journal of Inherited Metabolic Disease』に掲載された論文で特定された、ある化学物質に由来するにおいで、臨床医はかねてからこのにおいを、この疾患を特定する初期の兆候として使用してきた。それは、検査結果で確定するはるか前、早い時には出生から1~2日で、このにおいが明確に認識されるからだ。これは、においによって疾患の存在がわかる珍しいケースと言えるだろう。


