筆者を含め、非常に多くの人々がTCSロンドン・マラソンを走りたいと願っている。「非常に多く」と言っても半端な数ではない。来年の大会のオンライン抽選に申し込んだランナー志望者の数は、過去最多の133万8544人(200カ国以上から)に上る。分かりやすく言えば、これはダラスの人口(2025年米国国勢調査)よりも多く、もし彼らが一堂に移り住めば、全米で9番目に大きな都市になる規模だ。それほど多くの人々が、たった1つのレースに殺到している。いや、正確には2つのレースだ。急増する需要と数年連続の記録更新を受け、主催者は週末の2日間にわたって2つのレースを開催するという、これまでにない新たな試みに踏み切った。これにより受け入れ人数は2倍の10万人以上に拡大する。これは世界のどの主要マラソン大会よりも多いが、それでも出場を希望する人の7%未満しか受け入れられない計算だ。この急増する需要とロンドン・マラソンにおける大きな変化は、世界的な現象である「デスティネーション・マラソン」の爆発的な人気を物語っている。これは最近、旅行業界で「ランケーション」や「レース休暇」と呼ばれるようになったものだ。
マラソン休暇がこれほど人気を集める理由
26マイル(約42キロメートル)を駆け抜け、都市の魅力を全身で体験する
結局のところ、何カ月もかけてトレーニングを積むレースも、大半の人にとっては約4時間、つまり一般的な労働時間の半分程度で終わる。そのため、走っていない時間がたっぷりと残ることになる。伝統的に、ランナーは前夜にパスタやピザで「カーボローディング」を行い、レース後の祝杯は、自らの努力に対する正当な褒美として何日も続くことがある。レース後のスパトリートメントで贅沢な時間を過ごすのも理にかなっている。そして、こうしたすべての体験は、地元の街よりも、パリや東京、ローマ、ロンドンで行う方が、より特別で楽しく、心に残るものになる。さらに、走る際にも、気が紛れるものがあれば4時間ほどの時間はあっという間に過ぎ去る。古代の遺跡やエッフェル塔、歴史的な記念碑の脇を通り抜けたり、めったに閉鎖されないラスベガス・ストリップの車道を走ったりしながら、26マイル(約42キロメートル)の舗装路を駆け抜ける方が、いつもの近所の周回コースを走るよりも、はるかに気が紛れて楽しいはずだ。
20〜30年前、筆者がマラソンを走っていた頃、知り合いの多くの友人やランナーは、自宅の近くで開催されるレースから始め、車で出かけて走り、そのまま帰宅していた。しかし、その距離を走るだけの十分なトレーニングを積んだとき、筆者は最初のフルマラソンをホノルルにしようと決めた。多くの時間と労力、そしてトレーニングを費やすのだから、その成果に対するご褒美があってしかるべきだと考えたからだ。そのため、レース後はワイキキのカラカウア通りで、ヤシの木や砂浜、太平洋の白波を眺めながらランチとビールを楽しみ、その後の数日間は楽園でのゴルフに興じた。これは「ランケーション」や「デスティネーション・マラソン」の初期の好例であり、今振り返っても最高の選択だったと思っている。
筆者は少し時代を先取りしていたのかもしれないが、パンデミック以降、このコンセプトは爆発的な人気を博している。愛好家向けのウェブサイト「Marathons.com」に掲載されたジャーナリスト、ドリアン・ヴイエ氏による最近の記事のヘッドラインは、「レーシング・ツーリズム:レースを中心に休暇を選ぶランナーたち」だった。ヴイエ氏は、「これは一時的な流行ではなく、ひとつのムーブメントだ。目的、日常からの脱却、そして思い出に残る体験が融合しているからこそ、この現象は人々を惹きつけている。コロナ禍を経て、体を動かし、探索し、挑戦したいという欲求が高まった。多くの人々が優先順位を見直し、モノではなく体験に投資することを選んでいる」と指摘している。
筆者は最近、ここForbesで「アクティブ・トラベル」が今これほど注目されている理由について書いた。「体験型旅行」が現在の旅行業界における主要なトレンドの1つであることは広く実証されており、人々は休暇中に「思い出作り」をしたいと考えている。そしてマラソン(またはハーフマラソン)は、それに完璧に合致する。ヴイエ氏はさらに、旅先でのレースに申し込むことが「モチベーションになる。地元のマラソン大会を走るのもいいが、東京で走るとなれば新たな発見が約束され、1年全体を活気づける目標になる」と指摘している。
「スピードが重視され、画一化された旅の時代において、マラソンはより主体的な形の探索をもたらしてくれる。ただ都市の上空を飛び越えるのではなく、その地を横断するのだ。ホテルの客室に閉じこもるのではなく、その場の雰囲気を体感し、歓声を耳にし、地元の人々のエネルギーを肌で感じるのだ」というヴイエ氏の言葉の意味が、筆者には痛いほどよく分かる。
ロンドン・マラソンが「一生に一度は走りたいレース」である理由
何年も前、筆者は別の取材でたまたまロンドンに滞在しており、マラソンが開催される週末にフィニッシュラインの近くに宿泊していた。音楽や拍手、指示や歓声が聞こえてきたため、バッキンガム宮殿近くのザ・マルへと足を運んだ。そこでは、バンドが演奏し、観客が声援を送る中、出場ランナーの国籍を示す国旗がホームストレートにずらりと並んでいた。その華やかさとエネルギー、そして感動に心を打たれ、筆者はその場で、次のマラソンはロンドンにしようと決めた(ホノルル以降、筆者はシカゴやフィラデルフィア、さらに距離の長いウルトラマラソンにも出場していた)。歴史的な背景を加えれば、それまで流動的で変化していたマラソンの距離が、現在誰もが当然だと思っている26マイル385ヤード(約42.195キロメートル)に固定されたのは、1908年のロンドン五輪でのことだった。
しかしその後、筆者は膝の手術を受けることになり、スキー、サイクリング、ゴルフ、ハイキングなどに専念するため、走るのをやめてしまった。それから20年のブランクを経て、筆者は長距離ランニングを再開し、憧れの目標である2027年のロンドン・マラソンを視野に入れている。ヴイエ氏が「それぞれのマラソンは都市の魂を覗く窓であり、多くの参加者が『走るために旅をする』と言っている。それこそがすべてを物語っている。都市を発見するための新しい方法なのだ。一歩一歩が思い出になり、すべての道のりが異文化に浸る瞬間になる」と結論づけている通りだ。
では、この人気はどの程度高まっているのだろうか。ロンドン大会の申込者数は、前年から約20万人も急増した。これは驚異的な数字だ。2026年のロンドン大会は、わずか1日の開催であったにもかかわらず、完走者数でニューヨークを上回り、6万人弱という世界最多の完走者数でギネス世界記録のタイトルを獲得し、ビッグアップル(ニューヨーク)の5万9226人を僅差で追い抜いた。ニューヨーク大会は長年にわたり出場権の獲得が非常に難しいことで知られており、ベルリンやシカゴなど、ほかの大規模で人気の高いマラソン大会の多くも、ここ数年で何度も最多記録を更新している。2026年のアシックス・ロサンゼルス・マラソンは、定員2万6000人と規模は小さいものの、先ごろ、定員に達するまでの最短記録を更新したばかりだ。
世界最古のレースであるボストン・マラソンへの需要も極めて高く、出場権の獲得が極めて難しいことで知られているが、こちらは事情が異なる。主要大会の中で唯一、別のマラソン大会で非常に厳しい基準タイムをクリアして予選を通過しなければならないからだ。この要件は、理論上は「平均的な」ランナーからの需要を排除することになる。理論上はそうだが、実際はそうではない。その理由を説明しよう。
昨日、ロンドン・マラソンの抽選結果が発表される大一番を迎えたが、残念ながら、多くの人々が落胆することになった。主催者からの当選メールを受け取ることができた幸運な申込者は、12人に1人未満だったからだ。しかし、落選した他の人々はどうすればいいのだろうか。
チャリティ枠でロンドン・マラソンや他のレースに出場する
多くのランナーにとって、ロンドン大会は「一生に一度は走りたい」憧れのイベントであり、多くの人が毎年抽選に申し込み続け、チャンスを待っている。しかし、その必要はないかもしれない。これらのレースのほぼすべてにチャリティ枠が設けられており、通常の抽選や申し込み、あるいは資格審査プロセスを経ずに、出場権を獲得する方法があるからだ。大規模なマラソン大会において、資金集めは一大ビジネスだ。BBCによると、ロンドン大会は年一回開催される単一の募金イベントとしては世界最大規模だという。BBCは、新たに2日間の開催フォーマットになることで、チャリティによる募金額が2億ドル(約325億円)を超える可能性があると予測している。この秋に1日のみ開催される2026年TCSニューヨーク・マラソンは、1億ドル(約162億円)という高い目標を掲げている。ニューヨーク大会はかなり典型的で、その公式チャリティ・パートナー・プログラムでは、多くの異なる団体に出場枠が提供され、それぞれの団体が独自の募金要件を設定している。ただし、大会側は最低でも3000ドル(約48万円)という基準を設けている(より条件の厳しい団体は、少なくとも5000〜8000ドル(約130万円)を要求する)。
歴史的には、人々は周囲から少額の寄付を集めて実際に資金を調達していたが、最近では、富裕層のランナーが通常の出場料の代わりに、単にチャリティ費用を自己負担するケースが増えている。飛行機の搭乗や空港のセキュリティチェック、あるいはコンサートやスポーツイベントへの参加と同様に、「持てる者」と「持たざる者」の格差は広がっており、十分な資金力のあるランナーは、単にお金を払うことでレースに出場できる。もっとも、チャリティ枠でさえも競争が激化し、獲得が難しくなりつつある。
これはボストン大会において特に顕著で、チャリティ枠の獲得に1万〜1万5000ドル(約244万円)かかることも珍しくない。その意味では、凄まじい需要と過剰な申し込みがあるにもかかわらず、ロンドン大会は格安だ。もしチャリティ枠を獲得できれば、2027年のロンドン大会に出場するために必要な募金額は約2500ポンド(3300ドル(約53万円))であり、200以上の公式チャリティ団体が存在する。ただし、このプロセス自体も非常に競争が激しい。ほとんどの大会は、公式ウェブサイト上にチャリティ情報へのリンクを掲載している。
旅行パッケージを利用してロンドン・マラソンや他のレースに出場する
あるいは、出走権が保証された旅行パッケージを販売する、ランニング専門のツアー会社を利用する手もある。例えば、アボット・ワールドマラソンメジャーズ(AbbottWMM)シリーズ(ロンドン、ニューヨーク、ベルリン、シカゴ、シドニー、東京、ボストン、ケープタウンという、極めて人気の高い8つのレース)の公認国際ツアーオペレーターであるマラソン・ツアーズ(Marathon Tours)などがこれに当たる。これは、抽選を回避するためのシンプルで手軽な方法であり、チャリティ募金よりも費用を抑えられる場合がある。そもそも、ほとんどの参加者にはホテルが必要だ。現在、米国居住者向けに用意されている4日間のロンドン・マラソン特別パッケージは、出走権、ホテル宿泊、毎日の朝食、レース前のパスタディナー、レース後の祝賀会、半日の市内観光、そしてレース会場への往復送迎が含まれ、インターコンチネンタル・ロンドン・パークレーンに宿泊するプランで、2人1室利用の場合、1人あたり3675ドル(約59万円)から(出走しない同伴者には割引あり)、1人1室利用の場合は4765ドル(約77万円)からとなっている。筆者は同社を利用した経験はなく、これはあくまで一例にすぎない。ほかにも多くの専門的なレース旅行代理店が存在する。



