目標、戦略、戦術を混同しているように見える経営幹部がいかに多いかに、筆者は驚かされてきた。チームや組織を率いる際には、整合性を確保するために、この3つの違いを理解することが重要である。
整合性の確保が極めて重要なのは、それが組織の方向性のズレを防ぎ、日々の業務が確実に高次の成功へと結びつくようにするからだ。この3つの層が対立すると、企業は資本を浪費し、内部摩擦に苦しみ、ビジョンを実行に移せなくなる可能性がある。
違いを理解し、整合性を育む
先日、ある大手米国企業のバイスプレジデントと話す機会があった。彼はフォーミュラ1(F1)のレースについて、戦略とは明らかに「レースに勝つこと」なのだから、実際にはそれほど多くの戦略は存在しないと述べた。筆者はその主張に驚いたが、同時に、F1は目標、戦略、戦術の違いを説明するたとえとして使えるのではないかと考えるきっかけにもなった。
目標
目標とは、自社を最終的に到達させたい地点である。たとえば「市場シェアを15%取り戻す」といったものだ。F1の場合であれば、目標はレースに勝つこと、あるいはより具体的には「世界選手権で優勝すること」だろう。目標は長期的で、志の高いものであり、シーズン中に変わるものではない。
ビジネスリーダーにとって、目標は野心的でありながら達成可能なものであるべきで、市場の現実と社内の能力とのバランスを取る必要がある。また、目標は独立した状態で設定してはならない。
筆者の経験では、目標設定は比較的容易な部分である。多くの企業がつまずくのは、その目標を達成するために採用する戦略との整合性が取れていない場合だ。
戦略
戦略とは、企業がどのように目標を達成するかを指す。たとえばF1チームが、競合相手のエンジンは自分たちより速いが、タイヤの摩耗が激しいと分析したとしよう。それでもチャンピオンシップ優勝という目標を達成するために、戦略は次のようなものになり得る。「コーナリング速度を最大化しつつタイヤの寿命を延ばす高ダウンフォースのシャシーを設計し、レース中のピットストップ回数を減らす」
組織においてプロジェクトや取り組みの開始時に意見の不一致が生じた場合、その原因が目標にあることは少なく、多くの場合は戦略にある、というのが筆者の実感だ。組織の目標については、ほとんどの人が同意する。ずれが生じるのは、それをどう達成するかという部分だ。採用可能な戦略は複数あり、組織内のグループごとに立場が異なるため、見えている強みと弱みも異なるのだ。
だからこそ筆者は、組織全体の複数の主要ステークホルダーから戦略について意見を得ることが最も有効だと考えている。これは整合性を育み、目標達成の可能性が最も高い堅固な戦略をつくる助けになる。チームや組織内の異なるグループは、それぞれの視点から物事を見ており、誰もが事業の異なる部分について、視野を遮るものと洞察の両方を持っている。また、いかなる戦略の背後にある事実と前提を理解し、検証することも重要である。
戦術
戦略について合意した後、その戦略を実行するために取られる具体的な行動が戦術である。戦術は非常に適応性が高く、状況に反応するものであり、多くの場合リアルタイムで展開される。戦術は「いま何をする必要があるのか」という問いに答えるものだ。
F1の例を続けると、戦略が目標達成に必要な計画を定める一方で、戦術は天候の変化、クラッシュ、ライバルの動きといった要因に直接対応する。レース中に雨が降り始め、マシンがコーナーを曲がり、コース上にとどまる能力に影響が出る可能性がある場合、レースエンジニアは路面状況を生かすためにインターミディエイトタイヤへ交換するよう、ドライバーにピットインを指示するかもしれない。これは運用上の、かつ適応的な戦術であり、いま何をすべきかという問いに答えている。
戦略について合意ができれば、通常、戦術は上記の例のように戦略から比較的容易に導き出される。
多くの戦略計画が失敗する主な理由は、特定の戦略を達成するために必要なすべての戦術を考慮していないことにある。戦術は能動的に評価し、モニタリングされる必要がある。組織として多大な時間と労力を費やして戦略を策定しても、組織のあらゆる側面に対して明確で実行可能な戦術がなければ意味がない。いかなる企業戦略も、戦略にひもづく部門横断の戦術的マイルストーンと取り組みを含むべきである。
たとえば、次年度にデジタル収益を30%増やすという目標があり、戦略がモバイルコマースアプリケーションの立ち上げによって顧客基盤を拡大することだとしよう。戦術的イニシアチブとマイルストーンは、次のようなものになり得る。
戦術的イニシアチブ(行動):これは戦略を実行するために設計された構造化されたプロジェクトまたはプログラムである。たとえば「ロイヤルティ報酬プログラムを統合したクロスプラットフォームのモバイルショッピングアプリケーションを開発・導入する」といったものだ。これは強力な戦術的イニシアチブである。ソフトウェアエンジニア、ユーザーエクスペリエンス(UX)デザイナー、プロダクトマネジャーが、戦略上の要請に向けて取り組む、継続的でリソースに裏打ちされたプロジェクトだからである。
戦術的マイルストーン(指標): これは、進捗が生じていることを示す、戦術的イニシアチブ内の具体的かつ測定可能なチェックポイントであるべきだ。たとえば「第3四半期までに、アクティブユーザー1000人によるベータテスト段階を完了し、すべての重大なソフトウェアバグを解消する」といったものだ。これは、戦術的イニシアチブがより広範な戦略を支える軌道に乗っていることを確認する「実行可否」の判断点を伴う、明確なイベントである。
要点
究極的に、F1は組織のリーダーシップを映し出す鏡のようなものであり、目標、戦略、戦術の整合性を保つことがなぜそれほど重要なのかを示す助けになると筆者は考えている。
企業は、明確な戦略(たとえば自動化されたサプライチェーンを採用して競合を価格で下回る)がなければ、目標(たとえば市場シェアを15%拡大する)を達成できない。同様に、その戦略も、明確な戦術(たとえば今週中に特定の製造ソフトウェアを購入する)がなければ失敗する。
人生と同じように、自社をどこに到達させたいのかについて明確さを持つことが重要である。そうでなければ、どこへ向かっているのかわからないなら、どの道を選んでも同じということになる。



