彼の名前はダニエル。売上高9000万ドル(約146億円)の製造会社でCOO(最高執行責任者)を務めていた。彼は自分を信頼してくれるリーダーシップチームと共に1日14時間働き、自分を高く評価してくれる取締役会に導かれていた。目に見えるあらゆる指標において、彼は順風満帆だった。
初めて彼と話したとき、彼は「大丈夫だ」と言った。忙しいが、大丈夫。ストレスはあるが、大丈夫。誰かが「大丈夫」とこれほど何度も口にするとき、それは本心ではないということを、私は長年の経験から知っている。3カ月後、プレッシャーにさらされたダニエルは、会社に100万ドル(約1億6200万円)以上の損失をもたらし、優秀な部下2人を失う原因となる決断を下した。彼は再び私のところにやってきたが、ビジネス上の相談ではなく、自身のパフォーマンスに起因するこの破綻について、ただ一言こう言った。「リック、まさかこんなことになるとは思わなかった」
このような言葉を耳にしたのは、数え切れないほどある。そして痛烈な真実は、その言葉が正しいことはほとんどないということだ。私生活であれ仕事であれ、崩壊の前には、ほぼ確実に何らかの予兆がある。しかし多くの場合、リーダーたちはその予兆を理解するための「言葉」を持ち合わせていないのだ。
リーダーが苦しんでいることを示す4つのサイン
リーダーシップ開発という業界は、戦略、コミュニケーション、実行力、アカウンタビリティ(説明責任)といった、外的な要素に固執しがちだ。つまり、重要業績評価指標(KPI)である。こうした要素の重要性を否定するつもりはない。しかし、30年にわたりCEOや上級役員、優れた実績を上げるリーダーたちと関わってきた経験から、燃え尽きてしまったり、壊滅的な意思決定を下したり、チームからの信頼を静かに失ってしまったりするプロフェッショナルたちに、スキルの欠如があるケースは極めてまれであると私は気づいた。彼らが失敗するのは、外向きのパフォーマンスに追われる一方で、内面で起きている問題に原因があるからだ。
崩壊へと向かいつつあるリーダーに共通して見られる、4つの危険信号を紹介する。
1. 意思決定のペースが変化する
多くの人は、窮地に立たされたリーダーが誤った判断を下し始めると考えがちだが、それは正確ではない。実際に起こるのは、意思決定の「ペース(リズム)」の変化だ。半年前ならためらうことなく下していたはずの決定を疑い始めたり、あるいは普段の自律心を失って衝動的な行動に走ったりするようになる。
どちらのパターンも、シグナルとしては同じだ。リーダーの内面的な「オペレーティングシステム」が、処理能力を超えるストレスにさらされていることを示している。この問題の解決策は、判断材料となるデータをさらに提供することではない。エネルギーを消耗させている原因を特定し、そこに直接対処することだ。
2. 好奇心を失い、防御的になる
困難や課題に対してリーダーがどのような態度を取るかは、その内面状態をほぼ正確に物語っている。地に足の着いたリーダーは、好奇心が旺盛だ。あえて反対意見を求め、自身の立場を脅かすような事態に直面しても、前向きに取り組む。しかし、その状態に変化が生じると、周囲もそれを肌で感じるようになる。質問を最後まで聞く前に自己防衛に走ったり、自らの周囲を賛同意見だけで固めたりするようになる。建設的なフィードバックでさえ、有用なものではなく、脅威と感じられるようになってしまうからだ。
リーダー層におけるこうした防御的な姿勢は、未処理の「恐怖」の兆候であることがほとんどだ。主導権を失う恐怖、実力不足が露呈することへの恐怖、あるいは、まだ言葉で説明できないような未知の状況に対する恐怖である。経営幹部たちを支援してきた経験から言えば、この姿勢の変化は、内面のより深い部分に対処が必要であることを見極める、最も初期で信頼性の高い指標の一つだ。
3. 孤立しているにもかかわらず、それを「集中」と呼ぶ
このサインは最も危険である。なぜなら、周囲からは「自己管理(自律)」が行き届いているように見えることが多いからだ。該当するリーダーは特定の会議に出席しなくなり、連絡が取りづらくなり、一人で過ごす時間が増える。そして「重要なことに集中しているのだ」と主張して、その行動を正当化しようとする。しかし、孤立が固定化したパターンになると、それは長期にわたるストレスの兆候であり、外部からの刺激(インプット)を減らそうとする防衛反応である可能性がある。
問題は、この遮断行為が、まさに防ごうとしている「崩壊」を加速させてしまう点にある。最も価値ある情報を持つ人々が同じ場にいなくなると、組織は日常の現場で実際に起きている真実を把握できなくなってしまうのだ。
4. 感情の「仮面」が私生活に影響を及ぼし始める
真実を知りたいとき、私はいつもこの点に注目する。睡眠障害、家庭内でのいさかいの増加、かつては自分を癒やしてくれていた人々や物事からの引きこもり。原因不明の身体的症状。これらは偶然ではない。すべて重要なデータなのだ。
リーダーは感情を「心の引き出し」にしまい込むことが非常に得意だが、それは問題を解決したことと同義ではない。処理されないまま蓄積された心の重荷はどこかへ行き着く必要があり、私の経験上、それは私生活において表面化する。私生活の場は防壁が低く、鎧も薄いからだ。かつて自分を癒やしてくれたものが、もはや回復をもたらしてくれないのだとすれば、それはライフスタイルの問題ではない。リーダーシップの問題なのだ。
実際に取るべき対策
組織は、私が「真の対話責任(アカウンタビリティ)構造」と呼ぶものを構築する必要がある。単なる業績評価や、戦略にのみ異を唱えるコーチを配するのではなく、リーダーが実際に直面している困難について、ありのままを打ち明けられる信頼関係を築くべきだ。その上で、真摯な自己評価や、心理的・感情的な健康への主体的な投資を通じて、ビジネスに向き合うのと同じ真剣さで自らの内面とも向き合うよう、リーダーたちを促すことが重要となる。
ダニエルは最終的に、自らの崩壊の原因を理解するための取り組みを行った。2年後、彼は私に「これまでのキャリアで最高のリーダーシップ開発だった」と語った。それは、失ったものの大きさゆえではなく、自らが立ち向かわざるを得なかった課題のおかげだったという。
偉大な組織を築き、永続的なレガシー(遺産)を残すリーダーとは、決して挫折を味わわなかった人たちのことではない。「ヒビ」が決定的な「崩壊」に至る前に、その兆候を早期に察知して対処することを学んだ人たちだ。兆候は、ほぼ間違いなくそこに存在する。問題は、それを聞き取るための「言葉」を持ち合わせているかどうかなのだ。



