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2026.07.23 16:00

OpenAIの内情を知り尽くす元CTOのムラティ、新AIが明かした「中国製への傾倒」

OpenAIの元最高技術責任者(CTO)、ミラ・ムラティ(Photo by Tayfun Coskun/Anadolu via Getty Images)

OpenAIの元最高技術責任者(CTO)、ミラ・ムラティ(Photo by Tayfun Coskun/Anadolu via Getty Images)

Thinking Machines Lab(シンキング・マシンズ・ラボ)が今週、初のモデルを公開した。同社は2025年2月、OpenAIの最高技術責任者(CTO)だったミラ・ムラティが、OpenAIの上級研究者たちとともに設立した企業だ。製品を1つも出さないうちに、120億ドル(約1.95兆円。1ドル=163円換算)の評価額で20億ドル(約3260億円)という記録的なシード資金を調達した。出資者にはエヌビディア、AMD、シスコ、ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツ、トレーディング会社のジェーン・ストリートが名を連ねる。期待は極めて大きい。

公開されたモデルの名は「Inkling(インクリング)」。総パラメーター数9750億、トークンあたりのアクティブパラメーター410億のMoE(ミクスチャー・オブ・エキスパーツ、入力に応じて必要な部分だけを働かせる省計算型の設計)を採用したトランスフォーマーモデルだ。テキスト・画像・音声・動画にまたがる45兆トークンで事前学習され、100万トークンのコンテキストウィンドウ(1度に読み込める文章量)に対応する。数字だけ見れば非常に立派だ。

ところが、他モデルと比べた性能はそれほどでもない。名誉のためにいえば、この点はThinking Machines自身が認めている。同社自身の言葉を借りれば、Inklingはオープン・クローズドを問わず、現時点で最強のモデルではない。Humanity's Last Exam、Terminal Bench、SWE-Bench Verifiedといったベンチマーク(AIの性能を測る標準テスト)では、Zhipu AI(智譜AI)のGLM 5.2やMoonshot AIのKimi K2.6など、中国の主要オープンモデルに後れを取っている。

ChatGPTを作った人材を擁する評価額120億ドル(約1.95兆円)の米国ラボが、無料で使える中国製モデルに劣るモデルを出した──これはかなり注目に値する事態だ。掘り下げる価値があるし、実際に掘り下げてみると、その中身は実に示唆に富む。

「蒸留」をめぐる争い

この18カ月、ワシントンは「中国のラボは、盗んだ米国の知的成果の上にモデルを築いている」と非難し続けてきた。2025年初頭にDeepSeekがAI業界を驚かせたとき、OpenAIと米政府当局者がまず示した反応は「DeepSeekはOpenAIのモデルを蒸留した」というものだった。蒸留とは、より強力なモデルの出力を使って自分のモデルを訓練する手法を指す。連邦議会の調査担当者はその後、中国のAI企業が米国のフロンティアモデル(最先端モデル)に対して組織的な蒸留作戦を展開したと主張してきた。ワシントンで使われている言葉は「窃盗」だ。

その経緯を頭に置いたうえで、Inklingを見てみよう。そのMoE設計は、おおむねDeepSeek-V3を踏襲している。これは筆者の決めつけではない。公開されたアーキテクチャから明白に見て取れることで、リリースから数時間のうちに技術アナリストたちも指摘している。しかもThinking Machines自身が認めているとおり、Inklingのポストトレーニング(事後学習)は、ムーンショットAIの中国製モデルKimi K2.5を含むオープンウェイトモデル(重みデータが公開され誰でも使えるモデル)が生成した合成データを使い、教師ありファインチューニング(微調整)によって立ち上げられた。

中国ラボが米国モデルから学べば「窃盗」、米国ラボが中国モデルから学べば「エンジニアリング」

つまり、米国のラボが中国のアーキテクチャを採用し、中国のモデルを蒸留して、旗艦モデルを訓練したのである。誰もこれを窃盗とは呼んでいない。そして率直に言って、呼ぶべきでもない。問題の中国モデルはオープンウェイトであり、寛容なライセンスの下で公開されている。公開された研究成果から学ぶことは、科学が前進するための当たり前の営みだ。だが、そうなるとレトリックの非対称性は、もはや無視できない。中国のラボが米国モデルから学べば「窃盗」と非難し、米国のラボが中国モデルから学べば「エンジニアリング」と称える。そんなご都合主義の上に、まともな技術政策は成り立たない。

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翻訳=酒匂寛

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