若くしてiPhoneのプロダクトマネージャーに抜擢された工業デザイナー、カーク・フェルプスは、ものづくりのプロセスに不満を募らせていた。
「例えば車のエンジンをデザインしようとしても、最初にやるのはデザインでなく、ガスケット(配管の部品)の注文や在庫確認だ。時間がもったいない」
「ものづくりのプロセスを変えたい」という思いに突き動かされたフェルプスは今、3Dプリンター業界で最も注目されているスタートアップ企業、Carbon3Dで製品開発責任者を務めている。
デジタル3Dデータを即座に造形できる3Dプリンターは、エンジニアにとって“夢のマシン”だが、実際には現行の3Dプリンターの大半は、造形に時間がかかるだけでなく、小型のプロトタイプしか作れない。最初のブームから2年、今はストラタシス(Stratasys)と3D Systemsの2社が80%のシェアを占めている。
Carbon3Dはこの分野に再びエネルギーを注入しようと試みる。同社CEOのジョゼフ・デシモンは、3Dデータを従来の20倍以上のスピードで、正確に造形するテクノロジーを生み出した。
同社はグーグルベンチャーズから8月に1億ドル(約123億円)の出資を受けるなど、既に1億4,000万ドル以上の資金を調達した。まだ試作品しかリリースしていないにも関わらず、Carbon3D社の評価額は10億ドルを超えた。
3Dプリンターの大半は、熱に溶ける樹脂を押し出してプラスチックを一層ずつ積み重ね固形物を作る熱溶解積層法(FDM)技術を使う。一方Carbon3Dのマシンはプラスチック液の小さな容器の中で固形化し、引っ張り出す。この技術は、液状樹脂に紫外線を当てて固める光造形法(SLA)を応用しているが、容器の底を空気透過性のガラスにした点に革新性がある。
ガラスの下から照射するUVライトが樹脂を底から固め、3Dデータを正確に成形する。それをロボットアームがゆっくりと取り出す流れだ。空気が樹脂の下にクッションを作るため、液体がガラスに付着することもない
Carbon3Dによると、造形時間は従来のSLAプリンターより25~100倍速い。
フェルプスは同社のゴールとして「3Dプリンターで作った部品を、自動車などに利用することを考えている」という。
同社は実際、自動車業界からの期待も集めている。フォード・モーターのアラン・ムラーリー前CEOがCarbon3Dの取締役に加わり、既に製品テストを実施。実際に車のパーツを3Dプリンターで作る日はかなり先かもしれないが、「クルマの製造プロセスを変えるポテンシャルがある」と担当者は述べている。
Carbon3Dの製品は一般的な3Dプリンターよりも高価格だが、その性能の高さで競合を圧倒している。同社のデシモンCEOは「10年ほど前には3Dプリンターを使った製造イノベーションのプランがたくさん登場した。しかし、技術不足で棚上げになってしまった。我々はそういったプランを再起動させたいんだ」と意気込みを語っている。