暮らし

2026.07.21 12:30

人材採用プロセスで重視されつつある、「IQ以外の知能」とは

stock.adobe.com

stock.adobe.com

20世紀のほとんどの期間、知能に関する研究は文字どおりストップウォッチのある部屋で行われていた。類推の正確さや頭の中で図形を回転させる速度、数列を完成させる能力など、明確に測定可能な要素がほぼ当然のように心理学者たちが「知能が高い」という際の基準として扱われるようになった。

それは決して、人為的に作り出された時間的な制約がある中での推論が人間の知性を最もよく表しているという哲学的な考えからきているものではなかった。単に、たまたま試験問題集に収まり、採点しやすく、大勢の人の間で比較しやすい知性の一部分だった。

人が社会で能力を発揮するために必要なその他の要素には、測るのに適するものがなかった。それは例えば、緊張感漂う交渉の空気を正確に読み取る力、粘り強さが報われる場面と逆効果になる場面を見極める力、人前で失敗したあとに事態を悪化させず自然に立て直す力などだ。長い間、これらは知能の真の一部というよりは曖昧で漠然とした知能に近いものとして扱われてきた。

厳しい職場で働いた経験がある人なら、まったく華やかではないごくありふれた日常の中でこの違いを目にしてきたはずだ。資格を取得したばかりの、経歴上は完璧に見える新人は少し予定外の出来事が起きただけで動けなくなってしまう。一方で、華やかな経歴を持たない同僚の方が、顧客が怒っているときや計画が破綻したとき、あるいは必要な情報の半分もないまま判断を下さなければならない状況で周囲から自然と頼られる。その違いを予測する要素は成績証明書ではなく別の何かだった。

現実世界に即応する「実践的知能」

心理学者ロバート・スタンバーグは、その「別の何か」に適切な理論的枠組みを与えることにキャリアの大部分を費やした。スタンバーグが提唱した知能の鼎立(ていりつ)理論では、従来の知能検査で測定される分析的推論能力は、知能を構成する3つの能力のうちの1つにすぎないとされる。残る2つは、創造的思考と、スタンバーグが実践的知能と呼んだ能力だ。実践的知能とは、環境をありのままに受け入れて適応し、適応だけでは不十分な場合にはその環境を再構築し、どちらも機能しない場合にはより適した環境へと移る能力のことだ。

分析的知能は、明確に定義された問題に対して唯一の正解を導けるかどうかで評価される。一方実践的知能は、より複雑でおそらくより重大な要素で判定される。つまり、唯一の正解が存在せず、情報も不完全で、判断を誤れば現実的な結果を伴う状況において、適切に行動できるかどうかによって評価される。

実践的知能が依拠するものの多くは、研究者たちが「暗黙知」と呼ぶものだ。この概念は、専門誌『Journal of Personality and Social Psychology』に1985年に掲載された画期的な研究で提唱された。同研究は約40年前のものだが、暗黙知の概念を心理学に本格的に導入し、今日でもこのテーマに関するほぼすべての研究が今なお参照している。論文では、暗黙知を「事実や概念について言葉で説明できる『宣言的知識』ではなく、実際にどう行動するかに関わる『手続き的知識』」と定義した。そして何よりも重要な点として、「暗黙知を持つ人が口にすることは滅多にない知識」と定義している。

経験豊富な管理職が組織が定める手順に反して実際にどのように申請を承認へ導くのかを考えてみよう。新入社員を座らせてその方法を直接教える人はいない。1年を通じて些細な修正や半ば無意識の反応、そして試行錯誤をしながら徐々に身につくものであり、やがてその従業員は同じように聞こえる2つの依頼のうち、どちらがすんなり承認され、まず言い方を変える必要があるのはどちらなのかが自然と分かるようになる。その知識は確かに存在し、習得できるものだが、決まり事のように教えられることはほぼない。

次ページ > 実践的知能の育て方と活用法

翻訳=溝口慈子

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事