星野リゾートが「居酒屋以上 旅未満」をコンセプトに展開する若者向けのカジュアルホテル・BEB(ベブ)。滞在における制限を極力なくし、ゲストが仲間と楽しくルーズに過ごせる空間を提供する。
誕生して7年、ブランドの精神はどう育ち、サービスや空間に反映されているのか。全国3施設の現場で働くスタッフ3人がBEB5軽井沢に集結。対話からブランドの現在地を探った。
サブブランドの輪郭を炙り出す!
連載企画「the LOCAL LEGENDS」
星野リゾートのブランドを語れるのは、代表の星野佳路氏だけではない。各地に展開するサブブランドを背負うスタッフこそが、ブランドの姿をもっとも雄弁に物語るのではないか。本連載では、ブランドの価値観を理解し、その旗印を背負って現場に根を張る人物——ローカルに散らばるブランドの語り部「レジェンズ」たちに取材。各ブランドのエッセンスを抽出したい。。
BEBパートは、50代のベテランと20代女性2名を招いた「世代間鼎談」。
BEB5軽井沢に集まったのは、若手スタッフの多和田阿未(20代・BEB5土浦勤務。写真右)と三橋知夏(20代・BEB5沖縄瀬良垣勤務。写真中央)のふたりと、星野リゾート 軽井沢ホテルブレストンコートで30年、ブライダル関連の仕事に従事していたベテランスタッフの吉澤直樹(50代・BEB5軽井沢勤務。写真左)だ。
まずは、BEBのターゲット層である若手世代が旅に出るきっかけ、旅に求めることは何かについて、それぞれの考えを述べ合うところから対話は始まった。
旅のスタイル、30年前とどう違う?
吉澤:多和田さんや三橋さんは、まさにBEBのターゲット世代。おふたりは何をきっかけに旅に出ていますか?
多和田:私はInstagramなど、何気なく触れるSNSでお店の料理や観光名所を目にして、「ここへ行ってみたい!」となることが多いですね。
三橋:私はその土地ならではのものを体験したい気持ちがありつつ、一緒に旅をする仲間との時間も大切にしたいという願望も強いです。
だから、訪れたい店や場所は事前にピックアップしておきますが、細かいスケジュールまではガチガチに決めません。友人とのおしゃべりを楽しみながら、当日のその場の流れやノリで決めたい。
多和田:私も友人と合流してから訪れるお店や場所を相談したり、現地の方におすすめを聞いたりします。気心の知れた友人とだから、その場のノリで決めることもまた楽しいですよね。
吉澤:いまの若者世代は情報収集に長けているから、もっと緻密に調べてしっかりと予定を立てて旅行するのかと思っていました。あえて細かく決めずに、友人との会話を楽しみながら旅行したいという考えもあるのですね。
多和田:そうですね。ある程度予習をしておくのは、旅先で美味しいお店や土地の魅力を発見できなかったらどうしよう、という心配の気持ちからです。
三橋:私も、せっかく旅行に行くのだから失敗はしたくないです。私たち世代には「旅で失敗するのは嫌。でも決めすぎるのは窮屈」という考え方があるのでしょう。吉澤さんの旅の仕方はどうですか。
吉澤:いまは「この店のこの料理を食べる」といった旅の一番のお目当てだけは決め、ほかは一切決めないから、2人の考えに近いと思いますね。
私が20代だった今から30年ほど前は、スマホはおろかインターネットもなかった時代。とにかく情報が少なくて行き当たりばったりだったから、エリアだけを決めて行くとか、雑誌に小さく載っている写真だけを頼りにホテルを予約するとかでしたね。ホテルが期待外れだったりして(笑)。そんな失敗もまた、旅の良い思い出になるんですけどね。
ゲストが大量に情報を仕入れる時代
多和田:友人と一緒なら、そんなアクシデントも楽しめそうです。でもやっぱり、失敗はしたくないような……。
吉澤:いまは情報が多く簡単に入手できるので、たとえアクシデントがあったとしても、すぐに代替案を出せてリカバリーできそうですよね。
改めて考えると、BEBは「情報をたくさん入手できて、旅を自身でアレンジできる人たち」をゲストにお迎えしていることになる。ゲストからおすすめのお店や場所を聞かれた時などに、期待を上回るような提案をするのはなかなか難しいことだと思うけど、2人はどうですか?
三橋:BEB5沖縄瀬良垣の場合は、フロントにいてもあまり聞かれることがないんです。沖縄は観光情報が充実しているからか、ゲスト自身で十分に情報を入手できるのかもしれません。なので、ゲストと自分自身の情報量の差を感じることはあまり無いですね。
多和田:BEB5土浦は、沖縄や軽井沢と比べると少し特殊な立地。初日は近隣にある大型水族館へ行き、翌日はサイクリングを楽しむというゲストが多いのですが、こちらがサイクリングの行き先を尋ねると、「どこに行けばいいですか?」と聞いてくる方が多いです。そのため、ゲストが新たな発見をできるようなコースのご提案を用意しておくほか、Instagramでもサイクリングコースについて積極的に発信しています。
BEBならでは、ルーズさと「間接性」
吉澤:施設の立地特性によっても、事前に入手できる情報量に違いがある。1泊2日ならある程度過ごし方の流れは決まっていそうなところ、我々はゲストが取捨選択できるような、いろいろなニーズをかなえる過ごし方を補佐できる商品やサービス、空間を用意する必要があるブランドだと言えそうですね。
多和田: BEBの各施設に共通するのが、24時間オープンのパブリックスペース「TAMARIBA(タマリバ)」。24時間利用できるカフェ併設で、デリバリー・買い出し・持ち込みもOK。BEBならではの「ルーズに過ごす」を象徴するような空間です。
三橋:「TAMARIBA」では、本当に皆さんルーズに過ごされていますよね。BEB5沖縄瀬良垣では靴を脱いで上がる仕様なので、自由に使えるボードゲームで遊んだり、持ち込んだお酒を片手に楽しそうに語り合ったりして、思い思いにくつろぐゲストたちの姿をよく見かけます。
吉澤:ホテルには持ち込み料がかかる場合もあって、その時点で制限が堅苦しく感じられる。ルーズに過ごすとは、堅苦しい規則や制限のない空間で過ごすことといえますね。BEBでは朝食やチェックアウトの時間を明確に定めず、“だいたい何時頃”でOK。夕朝食の時間が決まっていて、お布団も片付けられるような規則正しい過ごし方とはまた別、一泊二日の時間をゲスト自身でつくるような過ごし方をされる。
多和田: BEBのゲストの大半は、外で観光や食事を楽しんだ後でホテルに戻ってきますよね。私たちスタッフとのタッチポイントは、夜~翌朝のチェックアウトまでと限定的でもあります。
三橋:ポイントをおさえて要所をサポートするのが私たちの仕事ですよね。ゲストと直接の会話ができなくても、この場面であったら心が動きそうなコンテンツを散りばめておく。
多和田:コンテンツが私たちのメッセージや意図を伝えてくれる、魅力を届けてくれると思いますね。BEBにいらっしゃるゲストのなかには、施設側とのコミュニケーションを積極的にとりたくない方々もいるはずで、対面でない形でのコミュニケーションスタイルがBEBの世代らしさかもしれません。
BEB5土浦で私はSNS発信の仕事をしていますが、投稿内容を見て旅につながってくれていれば、これはコミュニケーションが取れているとも言える。間接的なやり取りが心地よい、のがBEBならではなのかもしれないです。



三橋:私たちの世代だと、同世代の友達と出かけることが多いのかなと思うのですが、旅の途中でとにかくたくさん話していますよね。お互いに話したいことがいっぱいあるし、旅に関係ないことでも盛り上がって、ずっと喋っている。
そうした過程に、コンテンツでメッセージを仕込んでいきたい。たとえば、BEB5沖縄瀬良垣で提供している「DRIVE BUDDY」というドリンク。これは、私が開発に関わらせてもらいました。
チェックアウトした後の車内で、「このホテル最高だったね~また一緒に来よう!」と滞在の思い出を想起するきっかけをつくりたい、と開発したドリンクです。同じ発想で、ホテルに帰ってきた後には「ゆんたくBUDDY」も用意しています。ゆんたくとは沖縄方言で「おしゃべり」の意味。まだまだ話し込むお供にしてくださいねというメッセージですね。


吉澤:社会人になって久しぶりに会うってなると、語りたいこともたくさんあるでしょう。語らいの時間をこちらでちゃんと提供してあげたいよね。そのためのコンテンツを仕込んでおく。ボードゲームを用意していたり、BEB5軽井沢は推し活用の部屋を貸していたりします。気が利いているなと思ってもらえるコンテンツを揃えておきたいですね。
異動した際、最大の価値転換はここだったかもしれません。一生に一回の結婚式、この最高の瞬間のために、いかにミスなくしっかりサポートするか。この使命感が強くありました。一方BEBの接客は、付かず離れず。目の届く範囲で見守るようなイメージです。結果的に、ホテルを後にしたときに「なんか感じのいいスタッフが多かったな」と思ってもらえるのがBEBらしい。おもしろい違いだなと感じます。
三橋:ゲストがコンテンツと出合うと笑顔になる瞬間の蓄積が、BEBの体験価値なのかもしれません。ときめいている時って、人は絶対に笑顔なんですよね。
旅未満を満喫させる。主役はゲスト、BEBは「周到な黒子」
多和田:若者世代、友人たちと楽しむ時間は旅をしなくても取れます。家でNetflixを観るとか、近所のカラオケに行ってもいい。でも、わざわざ軽井沢や沖縄、土浦に来て旅を楽しんでもらうためにはどうすればいいか。そのための仕掛けを考えるのがBEBブランドの醍醐味ですよね。
三橋:BEBブランドができるきっかけにも、若者が旅をしなくなっているという自社調査がありましたね。しかし、ブランドコンセプトにもあるように旅は「人生を支える友人との思い出」にできる。時間を共有してもらって、ときめきが積み重なっていくと、旅っていいなと思ってもらえるはずです。
吉澤:他愛のなさを改めて大事にするような考え方ですね。景勝地を見に行くとか、どこどこの美味しいグルメを食べるとか、いわゆる旅の目的からは“未満”のところにある旅。わざわざ行くわけですから、その時間に意義をもたせてあげたい。
三橋:たとえるなら、私が学生時代にやっていた部活のマネージャーに似ているかも。選手が最高のパフォーマンスを発揮するのを程よい距離感でサポートするような。
多和田:タッチポイントは限られているけれど、そのなかでゲストが楽しめる仕掛けを用意しておく。主役はゲストで、私たちは黒子に徹する。
吉澤:たしかに。ただ、BEBの場合はゲストのニーズを予想して仕掛けている側面がありますよね。「もっとBEBを好きになってもらいたい」という思いがあるから「さりげないけど、用意周到な黒子」といったところですかね。
多和田:BEBっていい意味であざとい、のかもしれませんね(笑)

よしざわ・なおき◎長野県出身。高校生の頃にホテルマンに憧れたことがきっかけで、1995年に星野リゾートへ入社。軽井沢ホテルブレストンコートで約30年間ウェディング業務に携わる。自身の年齢やキャリアの残り時間を考えた際に「自分自身のキャリアのために新しい挑戦をしたい」と決断したことから「BEB5軽井沢」へ自ら希望し異動。
みつはし・ちなつ◎千葉県出身。学生時代に「BEB5沖縄瀬良垣」に宿泊したことが人生を支える友人との思い出となった実体験、アメフト部で「年次に関係なく主体性が求められる実力主義的な環境」を経験したことから、星野リゾートの「フラットな組織文化」に興味関心を持ち、大学ではゼミの研究対象にした。大学卒業後は、別会社を経て、2023年星野リゾートに入社。「BEB5沖縄瀬良垣」に勤務。
たわだ・あみ◎茨城県出身。ホテル業を志し、高校卒業後に専門学校へ進学。学生時代に「リゾナーレ八ヶ岳」で経験したインターンシップでスタッフの働き方や人柄に強く惹かれて、2020年、星野リゾートへ入社。「界 川治」で4年間勤務した後、「地元・茨城に貢献したい」という強い思いから自ら希望し、「BEB5土浦」へ異動。客室清掃、フロント、カフェ調理、SNS運用など多岐にわたるマルチタスクを担う。




