長期雇用に依存しない信頼関係の構築が必要
「旧来モデルの崩壊」が最も顕著に見られるのは、「企業に対する忠誠心」の定義の変化だ。どの業界でもリテンションが成功の指標とされてきたのは、測定する価値のある唯一の関係性だという認識が、数十年にわたって存続してきたためだ。人材を社内に保つことが、能力を維持することを意味していたために、社内にとどまる人材は企業にコミットしており、離職は損失であるとみなされてきた。
しかし、このような忠誠心の定義は、適切な人材に適切な業務を割り振り、適切なタイミングで適切なスキルを発揮させようとする企業にとって、もはや有益とは言えない。企業にとって最も貢献度の高い人材のなかには、一度として社員にならない人もいる。1つのプロジェクトのあいだだけ、あるいは、1つの製品のリリースまでだけ働くのだ。あるいは、数年だけ勤めて、そのあとは別の道に進む人もいる。離職後に、クライアントやパートナー、請負業者として戻ってくる人もいるし、再雇用される人もいる。
専門的なサービス企業の中には、数十年前から、こうした状況に対応してきたところもある。元社員のネットワークを構築して、離職者を切り捨てることなく、拡張された資産として扱ってきたのだ。こうした企業は、元社員の動向を把握している(クライアント企業を率いたり、新たなビジネスチャンスをもたらしたり、数年後に幹部社員として復帰したり、といった動向のことだ)。彼らの貢献は、会社を離れた時点で終わるわけではなく、ただ形を変えるだけだと、正しく認識してきたのだ。
それこそが、長期雇用に依存しない忠誠心だ。
この概念は、サイクルの短い現代社会において、社員を長く勤めさせることを主眼としない企業文化を認識している。重要なのは、才能ある人々に「貢献したい」と思わせることであり、それが2年間なのか、2カ月間なのか、週に2日なのかは問わない。目的意識、信頼、仕事の意義は、勤続期間よりもずっと人を引きつけるのだ。
人材プールを占有することなく構築することも、新たな潮流といえる。元社員や、フリーランスのプロフェッショナル、戦略パートナーたちについては、社員名簿に名前がないからといって、蚊帳の外に置いてはならない。彼らは、拡張された人材エコシステムの一部となり、企業はこうしたエコシステムから学び続け、協働し、時には再雇用も行う。
社員のライフサイクルそのものにも、変化が必要だ。企業は、「1つの企業の内部で、数十年がかりでキャリアを発展させる」という構図に代わり、「より短期間で実現できる、充実した経験」を設計することで、社員の勤続期間を問わず、人材を育て、リアルな成果を創造し、関係を強化すべきだ。
最後に、リテンションという指標そのものについても再定義が必要となる。
リテンションが意味するところは、離職を極力抑えることではなく、関係を最大限に活用することであるべきだ。リテンションが成功しているかどうかは、誰が社内にとどまっているかではなく、誰が戻ってきたか、誰が会社を周囲に推薦したか、誰が顧客やパートナーになったか、誰が退社後も継続的に貢献しているか、といった要素を考慮して測定する必要がある。
仕事の未来をめぐる議論は、テクノロジーを中心としたものになりがちだ。AIが企業を再編するのは間違いないが、より本質的な転換は、働き手自体において起こっているのかもしれない。
従来型企業の構造は、社員の管理を前提としていた。AIを統合した企業は、さまざまな能力の協調を前提としている。こうした違いを正しく認識することが重要となる。


