脱炭素と聞くと、皆さんはどんなイメージを頭に思い浮かべますか。
脱炭素は、言うまでもなく重要な社会課題。
これまで実施されたさまざまな規制から、「我慢すること」や「制限すること」、あるいは「正しいこと」などと答える人もいるかも知れません。
しかし、そのなかに「私の問題」だと言う人はどれくらいいるでしょうか。
脱炭素が自身の暮らしやビジネスにどう結びついているのか、具体的な接点を見つけ、自分ごと化できている人は、きっとそう多くないことでしょう。
そこで、「脱炭素(Decarbonization)」を「デカボ」と呼び、楽しく推進する企業「Earth hacks」の代表取締役社長CEO・関根澄人が、私たちの身近な出来事やトレンド、誰もが知る物語などを通し、世の中をデカボ視点で読み替えていく連載をスタート。
初回は、子どもの頃に誰もが読んだことのある童話「三匹の子ぶた」。
「デカボ」というレンズを通すことで、あなたの目の前にはきっとこれまでとは少し違った世界が広がっていくはずです。
令和でくつがえる「三匹の子ぶた」の常識
まずは、『三匹の子ぶた』のあらすじをおさらいしましょう。
昔々、三匹の子ぶたの兄弟が、それぞれ家をつくりました。一番上の子ぶたは藁、二番目の子ぶたは木、三番目の子ぶたはレンガで家を建てました。ある日、お腹を空かせたオオカミがやってきて、藁の家と木の家を次々と吹き飛ばし、レンガの家だけが残りました。三匹の子ぶたは力を合わせ、レンガの家の中からオオカミを撃退しました。めでたしめでたし——。
誰もが知る、この結末。そこから私たちが受け取っていたのは、「手間を惜しまず、堅牢なものをつくること」「最新こそ最高」「常に技術を磨いていけ」といった教訓だったのではないでしょうか。
ところが2026年の現在、建築の世界では不思議なことが起きています。最先端のサステナブル建築において、藁と木が復権。童話の敗者たちが、脱炭素の文脈では勝者になりつつあるのです。
最強の家が最弱に? 実は住む前の選択が鍵を握る脱炭素の勝負
まずお伝えしたいのは、建築・建設セクターが世界のCO2排出量の4割近くを占めるという驚くべき事実です。そして、これまで建築分野の脱炭素は、冷暖房や照明など、建物を使う際のエネルギー削減が中心でした。しかし、それらの省エネ化や再生可能エネルギーの導入が進むなかで、建物ができあがるまでの過程、例えば建材の製造や輸送、施工、改修、解体などに伴う「エンボディドカーボン(内包炭素)」の存在感が急速に高まっています。
つまり脱炭素という観点では、家を建てる時の選択が非常に重要になってきている、ということになります。
一番上の子ぶた:藁の家は「炭素の貯金箱」
童話の中で最も愚かとされる長男。彼が懸命に建てた藁の家は、素材からして頼りなさそうです。しかし脱炭素視点で見ると、これがなかなか侮れません。
藁は農業の副産物。米や麦を収穫すれば、必ず出ます。植物は成長の過程で大気中のCO2を吸収して体内に蓄えているので、藁を建材として使うことは、大気中の炭素を建物の中に閉じ込めることを意味します。燃やしたり腐らせたりすればCO2に戻るはずだった炭素を、家の壁の中に貯金しておくようなイメージ。
「ストローベイル建築」と呼ばれる藁を用いた工法は、低炭素建築の選択肢のひとつとして欧米を中心に実践例が広がりつつあります。圧縮した藁のブロックを積み、土や漆喰で固めて仕上げる。断熱性能が高く、冷暖房のエネルギーを大幅に削減できます。つまり藁の家は、建てるときも住んでからも低炭素と言えるでしょう。
長男は怠け者だったのではありません。生まれる時代がたった数百年ばかり早かっただけの、隠れた賢者だったのです(※)。
※『三匹の子ぶた』は、1843年にイギリスで初めて文献に収録されたとされる。



