二番目の子ぶた:木の家は「令和の模範解答」
次男が建てた木の家。これは、現代の建築トレンドのど真ん中にあります。
木材もまた、成長過程で吸収した炭素を、建築物として使われている間、貯蔵する素材です。木造建築は「都市の中の第二の森林」とも呼ばれ、近年はCLT(直交集成板)という技術の登場で、木造の常識が塗り替えられました。CLTは、板材を繊維方向が直交するように重ねて貼り合わせることで、コンクリートに匹敵する強度を実現するというもの。世界では同技術を生かして木造の高層ビルが次々と建ち始め、大阪・関西万博では大屋根リングや日本館の建築でも使用されました。
日本は国土の3分の2が森林。戦後に植えられたスギやヒノキが伐採適齢期を迎えています。木は成長期ほど盛んにCO2を吸収し、高齢になるほどその力は鈍っていきます。そのため木を「伐り、使い、植え、育てる」循環を回すことが、森林の炭素吸収力を保つことにもつながります。次男の選択は、令和の日本ではむしろ模範解答に近いと言えるでしょう。
三番目の子ぶた:レンガの家の「不都合な真実」
次は童話のヒーロー、三男のレンガの家について。
レンガは粘土を1000℃前後の高温で焼き固めてつくります。この焼成に大量のエネルギーが必要で、多くの場合は化石燃料が使われてきました。
さらに、レンガを積み上げる際には、つなぎ材としてセメントを含むモルタルが使われることが一般的です。セメントは製造時に高温焼成を伴うだけでなく、原料である石灰石の化学反応によってもCO2が発生します。実際、セメント産業だけで世界のCO2排出の約7〜8%を占めるとも言われており、建築材料の中でも排出が大きい素材のひとつです。
つまりレンガの家は、レンガそのものに加え、それをつなぐ材料にもCO2排出量の多い素材が使われやすく、前述のエンボディドカーボンの観点では、三軒の中で特に「重い」家だと言えます。
童話で称賛されたレンガの家の堅牢さは、脱炭素の帳簿では負債として計上される。オオカミには勝ちましたが、脱炭素の視点では負けている。そう言えるでしょう。
とはいえ、話はそこまで単純ではありません。レンガの家には、脱炭素視点でも無視できない美点があります。それは、寿命の長さです。建物の環境負荷は、ライフサイクル全体で評価しなければ意味がありません。
20年もつ低炭素の家と、200年もつ高炭素の家。建築時に発生するエンボディドカーボンを比べれば前者の勝ちですが、後者の寿命である200年の間に、前者は10回建て替えることになり、簡単には勝敗がつきません。
ヨーロッパの街並みを見ればわかる通り、レンガの建物は100年、200年と使い続けられ、解体後もレンガ自体が再利用されます。「長く使うこと」は、それ自体が最強の脱炭素戦略と言えるでしょう。
オオカミ撃退のラストに隠された「ある予言」
最後に、この童話をもう一段深く読み解くための鍵となる存在がいます。オオカミです。
家を吹き飛ばす強大な息。これは、激甚化する台風や暴風、あるいは地震——気候変動や災害のメタファーとも言えるでしょう。
皮肉なことに、私たちがCO2排出の大きい建材で頑丈な家を建て続けるほど、環境への負荷は高くなり、オオカミ=自然災害の威力は増していきます。童話の中でそれは外部の脅威でしたが、現実には、私たちがもたらす環境負荷によって育っているのです。
そう考えると、目指すべき家の姿が見えてきます。
オオカミに吹き飛ばされない強さ、壊れても修復できるしなやかさ、オオカミを育てない低炭素性。三兄弟の家は、どれか一軒を選ぶものではなく、それぞれの強みを掛け合わせたり、地域や原料供給の特性に合わせて選択すべきもの。藁の断熱、木のレジリエンス、レンガの耐久性と長く住み継ぐ工夫。
三匹の子ぶたが力を合わせてオオカミを撃退するラストシーンは、脱炭素時代の建築トレンドを予言していたのかもしれません。
この連載では、広く読み継がれてきたポピュラーな物語を、独自の観点で解釈しています。
科学的な裏付けをベースにしていますが、厳密な調査や研究に基づく論文とは異なり、あくまで架空の読み物としてお楽しみください。


