「キャリアSBUはグループ内で成長セグメントに位置づけられていて、資本市場からの期待値も高い。それを考えると、前期は最低限の責任は果たしたといったところ。満足しているわけではありません」
パーソルキャリアを率いる瀬野尾裕は、売上収益1,528億円(前年同期比5.7%増)、営業利益286億円(同11.9%増)となったキャリアSBU(戦略的ビジネスユニット)の2026年3月期決算を振り返った。パーソルグループは156社約7.8万人からなる巨大人材ビジネスグループ。瀬野尾は転職市場を担うキャリアSBUを束ねると同時に、中核会社であるパーソルキャリアのトップを務める。
増収増益ながら手放しで喜んでいないのは、転職市場が変化した影響を受けたからだ。25年はトランプ関税やベースアップ、AIの普及などによる生産性向上といった複数の要因が重なり厳選採用が広がった。求人の数は底堅いものの、一件ごとの成約が難しくなり、コロナ禍後の急成長期に比べ伸びは鈍化したのだ。
ただ、瀬野尾に慌てた様子はない。「人材業界はボラティリティが大きく、ジェットコースターのように波が来ます。朝令暮改で対応しなければいけない面がある一方で、ミッションを軸にした経営は貫かないといけない。厳しいときも私がポジティブだから社内で『瀬野尾はノーテンキ』と言われることもありますが、経営に一貫性をもたせることは組織のメンタルを健全に保つために必要なことだと考えています」
もちろん現場に理解されなくてもいいと開き直るつもりはない。
「業績をアジャストするために見送る決断をした投資もあれば、経営戦略上やり遂げなくてはいけない投資もあります。具体的には、重点領域であるハイクラス領域の強化と、A I・データ利活用の高度化は積極的に進めます。何を朝令暮改して、何を貫くのか。今期はそれらを含めた経営方針を丁寧に説明するため、全国行脚して直接対話を重ねるつもりです」
外部環境の激しい変化に晒されて組織が揺らぐケースは珍しくないが、瀬野尾は絶妙なかじ取りで組織の求心力を保ち続ける。そのリーダーシップの原点はどこにあるのか。
瀬野尾は20代前半で極端なトップダウンとボトムアップ、両方を経験している。最初に就職した人材会社は強烈なトップダウン。当時、社員の裁量は極めて限られ、瀬野尾は「私は人間だ」と反発。2年目にインテリジェンス(現パーソルキャリア)に転職した。
「前の会社は『自分はこれをやりたい』と言えない空気でしたが、転職後は逆に『何をすればいいですか』と聞くと怒られた。180度違いましたね」
1年目から新会社の創業メンバーになった。抜てきされたわけではない。インテリジェンスは、働いてナンボのカルチャー。メンタルは健全でいられても、フィジカルでついていけずに退職する同僚が多く、新人にもどんどん仕事が回ってきたのだ。
瀬野尾もフィジカルは限界に近かった。しかし「周りが辞めていくから、生き延びればおのずと出世できる」と自分を鼓舞した。実際、すぐに部下もできた。ただし、上司がマネジメントを教えてくれるわけでもない。胸ぐらをつかんで口論する部下たちをなだめつつ、実地で学ぶ毎日だった。
リーマンショックでは、いくつかの事業で責任者として組織再編を実施。全社的なリストラを断行したときは、「多くの社員が泣いていた」という。



