経営・戦略

2026.07.26 10:30

絶対額追求からの脱却。味の素が時価総額6兆円企業へと急成長できた会計改革の全貌

水谷英一|味の素 執行役常務 財務担当

「絶対額」へのアンチテーゼ

味の素は23年、ROICの導入に続く変革として、中計の廃止と2030年までのロードマップ策定を発表した。財務部長、そして現在の執行役常務として策定をサポートした水谷は、ROICでの反省を糧に、社内の合意形成を最優先事項に据えた。「Ajinomoto Group Executive Seminar(AGES)」と題して役員を集め、アジェンダごとに5つのチームに分かれて議論した。高輪の研修センター近くに泊まりがけで、寝食をともにしながら行われた研修は延べ100時間を超えた。「結果、京橋のオフィスビルで仕事をしていても顔を合わせない人たちが、一堂に会して苦労をともにしたことで一丸となれた。対話によって、ROIC導入以上の大変革にもかかわらず合意形成ができたのです」

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この役員研修のなかで議論されたのは、「額」を追うのではなく効率性を重視するという考え方だった。これは、絶対額を求めた過去から脱却するアンチテーゼともいえる。そこで、どんな指標を出せば投資家に納得してもらえるかを検討し、AGESに集まった役員全員で、ROIC約17%、オーガニック成長率5%以上、EBITDAマージン19%を「2030ロードマップ」の数値目標にすることが決まった。

ロードマップは、策定段階から社内の受け止めも好意的で批判は上がらなかった。これは、社員にも「変わらなければ先がない」という危機感があったからにほかならない。水谷にとって最も印象に残る仕事となったが、これで満足したわけではない。「数字は結果でしかないのです。『ステークホルダー・社会にとって魅力的な企業であり続ける』という目指すべき姿がまずあって、そのためにはこのくらいの数字が必要だろう、というだけです。だから市場や社会の変化に伴って数値目標も当然変わってきます。今の数値・指数は妥当なのか、常に問い続けなければいけないのです」。

水谷自身にも、次なる目標がある。「企業価値の向上は、社員一人ひとりのケイパビリティ(強み)をどう高めていくかにかかっていると考えています。我々はグローバルな会社なので、いろいろな人がいて、それぞれすごい能力をもっているはずです。この能力の源泉をシェアすることで、企業価値を飛躍的に高めたい。その取り組みを今、グローバルで進めています」。水谷は月1回1時間、グループ会社のなかで、事業利益トップ15社の財務担当責任者を招き、オンラインでベストプラクティスをシェアしてもらう対話を始めた。

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「結局は対話、コミュニケーションこそ、CFOに求められる素養なんだろうと思います」。対話が価値を創造する、味の素のファイナンスのあり方は、現在の急成長を支える原動力のひとつと言えそうだ。


みずたに・えいいち◎1988年、味の素入社。資金・財務および法人管理業務を経て、1995年よりアメリカ味の素に出向。2008年、コーポレート経営企画部専任部長。10年よりブラジル味の素に出向。19年、財務・経理部長。21年、執行理事グローバル財務部長。23年に執行役常務 財務・IR担当、26年から現職。ROICの導入などを主導した。

文=中居広起 写真=阿部高之

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