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AI

2026.07.16 10:52

AI時代の勝者を分ける「音」の質 メディア業界に迫る新たな競争軸

stock.adobe.com

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いまこの瞬間にも、クラウドのどこかに、大規模言語モデル(LLM)が読み取れない動画ファイルが存在している。

そのファイルが暗号化されているからでも、破損しているからでもない。生のMOV、MP3、WAVファイルは、技術的な意味においてAIシステムには判読不能だからだ。モデルが解析できるテキストはなく、意味を割り当てられる構造もない。「AIはそれを読めない」と、オーディオのハードウェアおよびソフトウェア企業Nomono(ノモノ)の米国市場ゼネラルマネージャー、オーウェン・グローバーは語る。「MP3をLLMに投入することはできない」。AIシステムが音声や動画を検索、分類、ライセンス付与、あるいは再パッケージ化できるようになる前に、そのファイルをモデルが実際に理解できるデータ(文字起こし、話者ID、タイムスタンプなど)で包む必要がある。

最初は、ニッチな技術的詳細のように聞こえるかもしれない。だがそうではない。メディア企業が、自社ライブラリーに眠る何十万時間ものコンテンツを分類、宣伝、収益化するためにAIへの依存を強めるなか、不都合な現実が浮かび上がりつつある。それらのコンテンツの大半は、人間の耳以外のものに取り込まれることを想定して作られていなかったのだ。Nomonoは、音声と動画における次の競争優位は、より優れたコンテンツではなく、AIシステムが実際に「認識できる(見える)」コンテンツだと見ている。

誰も予想していなかったポッドキャストと「融合」の課題

ポッドキャストはアイデンティティの危機の真っ只中にある。ビデオポッドキャストの急速な普及に伴い、かつては純粋な音声メディアだったものが、ハイブリッドなメディアへと変貌を遂げつつある。デロイトによると、ポッドキャストとビデオポッドキャストの全世界における広告収入は、2026年までに約50億ドル(約8110億円)に達すると予測されている。これは前年比で約20%の増加だ。この成長の多くは、ソーシャルメディア上の短い動画クリップを通じてコンテンツが発見されやすくなるという、動画の持つ力によるものである。現在、世界で5億5000万人以上の人々が毎月ポッドキャストを聴いており、この数字は実際のオーディエンスを過小評価しつつある。というのも、聴くだけでなく、YouTube(ユーチューブ)などのプラットフォームで「視聴」する割合が増えているからだ。

2024年、グーグル(Google)はGoogleポッドキャストのサービスを終了し、ポッドキャストをYouTubeのエコシステムに統合した。この移行は、多くのクリエイターがいまだに解決できていない摩擦を生み出している。ビデオ優先のプラットフォームは、鮮明な映像を捉えることには非常に長けているが、音声を二の次にしがちだ。4Kの高画質映像であっても、3メートルほど離れた場所から録音したかのような(実際そうであることが多いが)音声と組み合わされていることが少なくない。グローバーは、AppleポッドキャストにおけるApple(アップル)のビデオポッドキャスト機能の展開を、この状況がいかに一貫性を欠いているかを示すケーススタディとして挙げる。ビデオのエピソードと、音声のみのRSSフィード版は、同じ番組であるにもかかわらず、技術的には別々の素材(アセット)として扱われ、別々にミキシングやマスタリングが行われている。Spotify(スポティファイ)でも同様の状況が見られるが、こちらは視聴者が好みの体験(ビデオか音声のみか)を選択できるように、意図的に両者を分けているようだ。

Nomonoはどのような役割を果たすのか

Nomonoの解決策は、「Sound Capsule(サウンドカプセル)」と呼ばれる小型のハードウェアだ。これは8つのマイクを搭載したレコーダーであり、録音セッションのコントロールセンターとしても機能する。最大4台のワイヤレスピンマイク(ラベリアマイク/ラペルマイク)とペアリングでき、接続が切れた場合に備えて、本体に約45分間のバックアップ音声を保存できる。録音されたすべてのデータは自動的に「Nomono Studio Cloud」にアップロードされる。これはブラウザおよびモバイルアプリで、内蔵されたAI補正(エンハンスメント)ツールが録音データをクリアに仕上げる。この補正機能は、クロストーク(音声の混線)を除去し、ノイズを低減し、各話者の音量レベルのバランスを数秒で調整する。人間のオーディオエンジニアがミキシングコンソールのフェーダーを手動で操作して何時間もかける作業を、一瞬で終わらせるのだ。

Nomonoはまた、システムを1つのピンマイクとモバイルアプリのみに絞り込んだ、より軽量なバージョン「Stellar Kit(ステラーキット)」も提供している。Stellar Kitは、ミキシングコンソールを現場に持ち込むことなく、放送品質の音声を必要とするジャーナリスト、ドキュメンタリー制作クルー、ソーシャルビデオのクリエイター向けに設計されている。グローバーは、タイのバンコクの賑やかな通りで撮影された動画クリップを用いて、この機能を実演した。Nomonoのスタッフのパートナーが、数メートル離れた場所からiPhoneで彼を撮影したもので、音声のほとんどは車の騒音や市場の雑踏の音だった。しかし、スマートフォンの元の音声を、ピンマイクで録音された補正音声とともにNomonoのシステムに通すと、彼の声は明瞭に聞き取れるようになり、周囲の街の音は存在感を保ちつつもはや圧倒的ではなくなった。これは通常、ソフトウェアのボタン一つではなく、音声編集者の作業を必要とする種類の結果だ。注目すべきは、ビデオ自体はNomonoのサーバーにアップロードされることなく、デバイス上でローカルに処理され続ける点だ。グローバーによると、これは処理速度の向上と、ほとんどのクリエイターがすでにカメラロールに撮影素材を保存しているという事実を考慮した意図的な選択だという。

映像以上に過酷な評価を下される「音」の品質

これが商業的に重要である理由には、確かな科学的根拠がある。学術誌『Science Communication』に掲載され広く引用されている研究の中で、研究者のエリン・ニューマンとノーベルト・シュワルツは、まったく同じ学術講演であっても、音声の品質が低下すると、講演の内容がつまらなく感じられ、スピーカー(登壇者)の知性や好感度も低く評価されることを発見した。なお、この実験において、ビデオの映像品質は一切変わっていない。他のコミュニケーション研究でも、音の再現性(オーディオ・フィデリティ)は映像の再現性よりも注意や記憶に大きな影響を与え、優れた音声は、視聴者に平凡な映像を実際よりも高品質であると認識させることさえあることが判明している。

映画業界は、この非対称性を何十年も前から静かに理解してきた。海賊版対策の技術者たちは、劇場内での違法なカムコーダー録画を抑止する仕組みを設計する際、映像だけでなく音声を明確な標的にしてきた。有料の観客には検知できない程度に映画の音声トラックを変化させる一方、盗撮コピーでは検知され、劣化するようにする特許技術が存在する。言い換えれば、業界は長らく、海賊版対策において戦略的に妨害するほど重要なものとして音声を扱ってきた。だが多くのクリエイターは、いまだに音声をポストプロダクションで修正すべき後回しの要素として扱っている。

「プラグイン」に対抗するセールスピッチ

グローバーは、「Adobe Podcast(アドビ・ポッドキャスト)」や「Descript(ディスクリプト)」から「ElevenLabs(イレブンラボ)」に至るまで、競合のひしめくAIオーディオツールの分野において、それらを頭から否定することなく、Nomonoの立ち位置を慎重に定義している。彼の主張は構造的なものだ。それらのツールは、すでに録音された音声をクリーンアップする個別解決型のソリューションにすぎない。これに対しNomonoは、マイクからエピソードの公開に至るまでの「全工程(チェーン)」を掌握しようとしている。そうすれば、クリエイターはそもそも「大量のクロストーク」をインポートする必要すらなくなる。グローバーによれば、ユーザーは録音データのダウンロードから完成したエピソードの配信までに通常かかる時間を60〜70%削減できるという(これは同社の主張であり、独立した第三者機関によって検証された数値ではない)。この主張は、「1つのシステムがワークフローをより多く管理するほど、削減できる時間も増える」という、より広範なテーマと一致している。

未来への賭け

グローバーは、Nomonoがセールスピッチにおいて「AIによる解読可能性(AI-legibility)」を最優先に掲げているわけではないことを率直に認めている。顧客が最も重視しているのは、クリアな音声と、より迅速な制作ターンアラウンド(納期短縮)だからだ。しかし、彼はそのメタデータ層を「ある意味でこの製品の『トロイの木馬』のようなものだ」と呼ぶ。なぜなら、パブリッシャーが最終的に生のファイルを手作業でくまなく調べることなく、AIを使って膨大な音声カタログを検索、ライセンス付与、そして再利用できるようにするのは、まさにこのメタデータのおかげだからだ。

それこそが、この話のより興味深い部分であり、おそらくはより永続的な価値を持つ部分だろう。優れたマイクはコモディティ市場であり、今後も競争は激化し続ける。しかし、自社に代わって発見やライセンス付与を行うAIシステムに対して、自社のコンテンツを「解読可能」にしようと躍起になっている業界は、音声を無視することの本当の代償が、単にリスナーの体験を損なうことだけではなかったと気づくかもしれない。それは、人間にとっても機械にとっても、「見つけ出すことのできない資産」になってしまうことなのだ。

forbes.com 原文

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