現在、米国や英国のほぼすべての食料品店に足を踏み入れると、一律に並ぶ画一的なチョコレートバーの中に、カラフルで不規則に分割されたパッケージが置かれているのが嫌でも目に留まる。そのパッケージデザインだけで、このカテゴリーのあらゆる常識を破っている。それこそが狙いだ。買い物客が児童労働や生活賃金に関する言葉を1文字も読まないうちに、そのチョコレートバーは、商品の並ぶ混雑した通路ですでに稀有なことを成し遂げている。すなわち、人々の好奇心を刺激しているのだ。
その好奇心は偶然の産物ではない。戦略なのだ。そしてこの戦略が、倫理的な主張の上に築かれたチョコレートブランドを、保守的であることで知られる業界のなかで最も急成長するプレーヤーの1つへと押し上げた。
「ウィッシュリスト」ではなく「痛み」から生まれたブランド
トニーズ・チョコロンリー(Tony's Chocolonely)のCEOを務めるダグラス・ラモントは、他の多くのチョコレート企業の幹部とは異なる姿勢で自身の仕事について語る。彼は、西アフリカのカカオ農場における児童労働について、今なお燃え続けている火事について語るかのように話す。彼の会社は、通常のチョコレートビジネスに「責任」という要素を後付けしたものとして設立されたのではない。その搾取構造が、もはや経済的に成り立たないようにするために立ち上げられたのだ。
その背景にあるストーリーは、会議室でのプレゼンテーションから生まれたものではない。20年前、オランダのジャーナリスト、トゥーン・ファン・デ・クーケンは、カカオ産業における奴隷労働を調査していた際、大手メーカーが問題の解決を約束しながら実行していないことに気づいた。そこで彼は、奴隷労働のないサプライチェーンが可能であることを証明するためだけに、派手な赤い包装紙で包まれた自前のチョコレートバーを5000個製造した。それはほぼ即座に完売した。20年後、その実験は数億ドル規模の売上を上げるグローバルブランドとなり、パッケージはいまも意図的に不均等に割れたように見える。会社全体が正そうとしている不平等を思い起こさせる小さな印である。
「私たちは意図的に、自分たちを『パーパス(目的)主導の企業』ではなく、『インパクト企業』と呼んでいる。なぜなら、パーパスとは壁に書いて掲げるものだと思うからだ」とラモントは語る。「インパクトとは、実際に成し遂げたことだ。単なる意図ではなく、実際にインパクトをもたらしたことを証明することなのだ」
まずは「味」で勝負する
チョコレートそのものが美味しくなければ、そうした主張はすべて無意味になる。ラモントはこの点について、率直に語る。「ブランディングがいかに優れていても、倫理観やサステナビリティ、ミッションがいかに素晴らしくても、優れた製品がなければ人々はリピートしてくれない」。製品を正しく作り上げ、棚にある他のどの商品とも異なるデザインで包み、友人に話したりネットに投稿したりしたくなるようなストーリーを提供すれば、成長はおのずとついてくる。
データもそれを裏付けている。米国の売上高は、数年前の約2000万ドル(約32億5000万円)から、現在は1億ドル(約162億円)以上にまで急増している。ラモントによれば、そのマーケティング予算は売上高の3%未満に抑えられているという。会社全体の売上高は、グローバルで約3億ドル(約487億円)に達している。ここに至るまでの道のりは緩やかだった。オーガニックスーパーのホールフーズ・マーケット(Whole Foods Market)から声がかかるまでに何年もかけて棚のスペースを確保し、さらに量販店大手ターゲット(Target)との取引に至るまでにはさらに何年もかかった。ラモントは、ターゲットとの契約が他のすべての関係者を注目させるきっかけになったと考えている。
競合を仲間に引き入れる
トニーズは、業界全体を名指しで批判するところから始まった。いま同社は、その同じ業界に対し、「トニーズ・オープンチェーン(Tony's Open Chain)」と呼ばれる自社のパイプラインを通じてカカオを購入するよう呼びかけている。同社が10年を費やして自社のために構築した、追跡可能で、より高い対価を支払う調達モデルを、競合他社に提供しているのだ。
「私たちは、部屋を飛び回って人々を不快にさせる蚊のままでいたくはない」とラモントは言う。「私たちは同じテーブルにつき、ここから業界をどう変えていくかについて議論を交わしたいのだ」
これは単なるなれ合いではない。レバレッジ(テコ)を利かせることだ。プライベートブランド(PB)のバイヤーは、カカオが自社のリスク報告書で「赤信号(危険)」として指摘されていることを知っているが、それを一から是正するには莫大な費用と時間がかかる。トニーズは、すでに構築され、テストされ、業界の評価でトップにランクされている近道を提供する。「私たちは、この取り組みへのコミットを望むブランドや小売業者に対して、ワンストップのソリューションを提供している」と彼は語る。
啓発活動が果たせなかった役割を担う「2つの推進力」
長年、道徳的な主張だけでは大手企業を十分に早く動かすことはできなかった。しかし、2つの要因がそれを変えた。1つ目は「規制」だ。1月に全面施行されるEU(欧州連合)森林破壊防止規則(EUDR)により、大手バイヤーはすべてのカカオ豆を特定の農場まで遡って追跡することを義務付けられる。これにより、「複雑すぎて対応できない」という従来の言い訳は通用しなくなる。2つ目は「資金」だ。ここ数年のカカオ価格の高騰危機により、コストが跳ね上がったことで、財務責任者たちはこれまで避けてきた問いに向き合わざるを得なくなった。ラモントは言う。「もし私たちがもう少し農家に投資していれば、気候が最悪の年であっても収穫量は落ちたかもしれないが、30%も落ち込むことはなかったかもしれない、と彼らは考え始めたのだ」
その証明は、トニーズ自身の数値に現れている。トニーズの提携協同組合における児童労働率は4%未満であり、ラモントが約40%と見積もる業界平均を大きく下回っている。同時に、適切な生活賃金を得ている農家の割合もはるかに高い。「私たちは道徳的な議論を十分に証明したと思う」と彼は語る。「この危機が、経済的な議論において私たちが勝利を収める助けになることを期待している」
この主張は、企業を次々と引き寄せている。米国ではベン&ジェリーズ(Ben & Jerry's)がいち早く参加した。欧州のヘマ(Hema)やアルディ(Aldi)といったブランドも米国市場でこれに続いた。そして現在、新たにサプリメントブランドのAG1と、グレイストン・ベーカリー(Greyston Bakery)の2社が加わる。
「人々の健康を増進することをミッションに掲げる企業として、私たちは原材料の調達方法を含め、自らが行うすべてのことに高い基準を課している。『トニーズ・オープンチェーン』への参加は、そのコミットメントの自然な延長であり、AG1のすべての原材料が、私たちが他のすべてに適用しているのと同じ厳格さと誠実さの基準を確実に満たすための新たな一歩だ」と、AG1の最高調達責任者(CPO)であるティス・ソータースは述べた。
グレイストン・ベーカリーの社長、ケビン・マクガレンは、この提携を単なる物流以上の「血の通った絆」に近いものと捉えている。「両組織は、誰もが持続可能な生計を立てる公平な機会を与えられるべきであり、経済的自立こそが人間の尊厳の鍵であるという信念に基づいている」と彼は言う。「『トニーズ・オープンチェーン』への参加はエキサイティングな一歩であり、私たちの価値観を共有するパートナーたちと肩を並べ、ビジネスがいかにシステム改革を推進し、公益に貢献できるかを示すものだ」
この物語が本当に教えていること
ラモントの本当の洞察は、善行と収益が共存できるということではない。両者は同じ方程式であり、共に解くか、まったく解けないかのどちらかだということだ。彼は、トニーズが望めば今すぐより厚い利益率を絞り出せることを認め、そうしないことを選んでいるとも率直に認める。「その時点で、私はこう言えるのです。『これは正しいことであるだけでなく、賢いことでもあると証明した』と」
これは、多くの取締役会で語られるミッションに関する議論が直面するよりも、はるかに厳しい試練だ。その価値観がプレゼン資料で耳に心地よく響くかどうかではない。スプレッドシートとの接触に耐えられるかどうかだ。
今後の展望
ラモントは、今後数カ月のうちにさらに多くの米国ブランドが「トニーズ・オープンチェーン」に加わると予想している。これは、同社が何年も前から賭けてきた「企業は店頭の棚スペースを争いながらも、農場においては協力し合える」という信念に、さらなる重みを与えるものだ。もしこれが機能し続ければ、真の勝利はトニーズの売上数字には現れないだろう。それは、どれほど多くの競合他社が、彼らの描いた地図を静かに模倣し始めるかによって示されるはずだ。



