かつて、大口クライアントを失うことは、あらゆるエージェンシーにとって最大の課題と見なされていた。しかし今、最大の脅威は、エージェンシー内に蓄積されてきた従来の専門性を無効化する新たなソフトウェアの登場である。
今日、最大の破壊的変化をもたらしているのは生成AIだ。
AIはエージェンシーのビジネスモデルをどう変えているか
セントルイス連邦準備銀行によると、2022年にChatGPTが登場してから3年で、人々の55%、米国の働く成人の37%がAIを利用したことがあるという。これは、パーソナルコンピューターやインターネットなど他のテクノロジーと比べて、はるかに速い普及ペースである。
私が話をした創業者は皆、AIがあらゆるビジネスを変革するという見方を共有している。問題は、それがパフォーマンスを高める手段になるのか、それとも損なう仕組みになるのかだけだ。
ただし、見落とされがちなのは、AIが作用する正確なメカニズムである。端的に言えば、AIは必ずしもビジネスを破壊するわけではない。しかし、特定の種類のビジネス、つまり価値提案のすべてが「時間の切り売り」の上に築かれているビジネスは破壊し得る。エージェンシーが下準備に費やす時間に依存し続ける限り、脆弱になる。
初稿コピーの作成、広告バリエーションの制作、基本的なレポート作成、調査資料の準備など、かつて高額なリテイナー契約を正当化していた業務は、いまや十分なツールや体制を備えたクライアントであれば、自社で容易に完了できるようになっている。
米国のマーケティングエージェンシーにおける生成AIとエージェント型AIの利用に関するフォレスター(Forrester)の調査によれば、AIは価値を付加する手段というより、主にコスト削減の手段として使われている。多くのビジネスリーダーが、同じ仕事をアルゴリズムによって安く済ませようとしているだけであることを考えれば、それは理にかなっている。このプロセスは、クライアント側から見てもわかりやすい。
成果を生むAI戦略を構築する方法
高成長エージェンシーを際立たせているのは、AIを時間節約のためではなく、さらに優れた成果を上げるために使っている点である。そのための方法は4つある。
1. 自社サービスとクライアントが対価を払っているものを徹底的に分析する
エージェンシーは、成果物ではなく特定の成果の達成に対して報酬を得るのでない限り、いかなるリテイナー契約も受け入れるべきではない。
私の会社では、報酬の一部をクライアントブランドにもたらした売上に基づいている。こうした方針が可能なのは、AIによって、人間のチームだけでは実行・検証できないほど多くのことを行えるからだ。その結果、人間のリソースを、人間による意思決定が必要な領域に集中させることができる。
2. 成果に貢献する領域で量を増やす手段としてAIを使う
ペイドメディア(有料広告)において改善する唯一の方法は、クリエイティブであることだ。そのためには広範なテストが必要になる。私たちはAIを活用し、ファネル上部の量を増やし、人間のチームだけでは生み出せないほど多くのコンセプトやバリエーションをテスト用に生成している。人員を削減するのではなく、選択を行い、どのコンセプトをさらにテストすべきかを判断する際の自由度を高めている。これはリソース配分の観点からも、より効率的である。
3. 人間による監督・管理とAIの活動を明確に線引きする
AIは優れた従業員になり得るとしても、戦略的意思決定者の代替として優れていることは決してない。戦略的思考、状況の理解、クライアントとの関係、説明責任は、アルゴリズムに移譲できない。
規制環境で業務を行う場合、AIは広告を作成する一方で、人間はそれが規制面で適切かどうかについて責任を負う。こうしたケースでのミスは、単一の広告ではなく、クライアントのアカウントに致命的な影響を及ぼしかねない。
4. AI利用をめぐるプロセスを構築する
これは決して華やかな作業ではないが、重要である。プロセスがなければ、パフォーマンスに十分な一貫性を持たせることは不可能だ。新入社員を採用する場合と同じように、AIにも厳格な指示と、良い仕事・悪い仕事の例が必要である。人間のレビューを経ないアウトプットがあってはならない。アウトプットの質は、AI運用を取り巻くプロセスに大きく左右されるからだ。
AIを賢く使う
このプロセスは、追加のソフトウェアを導入することを意味しない。いずれにせよ、すべてのエージェンシーはすでにそれを持っている。違いは、その使い方にある。AIを単にコストを下げるために使うなら、エージェンシーは同様のサービスを提供する多くの競合と争うことになる。しかし、生産性を高め、成果を出す手段として使えば、まったく異なる形でテクノロジーを活用できる。
したがって、AIはエージェンシーが生き残るかどうかを左右するものではない。企業の命運を決めるのは、AIとともに選択される戦略である。



