もし頭髪が無限に伸び続けるとしたら、どうなるか想像してみてほしい。まったく髪の毛を切らないで伸ばし続ける人がいたとしたら、理屈の上では、その人の髪は、一生のうちに何mもの長さに達するはずだ。
だが実際は、人によってはウエストあたり、また別の人では肩につくくらいの長さで伸びが鈍化し、腰よりさらに先まで伸びることはめったにない。さらに伸ばし続けても、成長は一定の長さで止まる。
また、腕に生える毛は、何をしても短いままだし、眉毛は控え目な長さを保っている。さらにまつ毛の場合は、ほとんどの人間でほぼ同じ長さだ。
こうしたパターンは、偶然と考えるにはあまりに一貫性がある。実はこれは、非常に長いあいだ進化の圧力にさらされてきた生体システムを反映したものなのだ。
人の毛がめぐるライフサイクル
髪の毛や体毛の成長は、同じ毛がずっと一定のペースで伸び続ける継続的なプロセスというわけではない。2023年に『Journal of Clinical Medicine』に発表された包括的レビュー論文によると、それぞれの毛包(頭皮の内側で毛根を包み込み、毛髪を生成・成長させる器官)は、明確に分かれた複数の段階から構成されるサイクルを繰り返している。この枠組みは、100年以上にわたって生物学者の研究対象となってきたが、このサイクルを制御する分子レベルのメカニズムは、いまだに研究が進められている段階だ。
髪が伸びる時期は、「成長期(anagen)」と呼ばれる。この時期には、毛包の基底部分にある毛母細胞が急速に分裂し、毛幹を毛穴の外へと押しやる。この速度は、健康な頭皮の場合で、だいたい1カ月に1.3cm弱とされる。
毛包が成長期にとどまる時期が長ければ長いほど、そこから生える髪も長くなる。しかし、ここには決定的な制約要素がある。すべての毛包は、遺伝子によって、成長期の持続期間が定められている。この遺伝的プログラムが展開されると、それに従って、毛の成長はストップする。
成長期の後には、退行期(catagen)と呼ばれる短い移行段階が続く。この期間には、毛包の成長が止まり、栄養をもたらす血液の供給が断ち切られる。次に、休止期(telogen)が訪れる。この段階では、成長しきった髪の毛が、毛包の中で休眠状態となる。このまま数カ月が経つと、古い毛は抜け落ち、毛包が再び活性化して、新たな成長期のサイクルが始まる。
ここからわかるのは、人間の毛の長さの限界は、髪の伸びる速度と、成長期の持続期間という2つの変数によって変わってくるということだ。頭髪では通常の場合、2~7年間にわたって成長期が続く。人によって髪を伸ばせる長さの限界がまちまちなのは、この成長期の長さの違いによって説明がつく。
対照的に、腕の毛の場合は、成長期は数週間というレベルだ。また、まつ毛は数カ月でサイクルをひとめぐりする。ウエストのあたりまである髪の毛と、短いまつ毛の違いは、髪の成長速度ではなく、毛包の「タイマー」に、どれだけ長い時間が設定されているか、という違いなのだ。



