常軌を逸した価格設定は、開催都市に深刻な連鎖反応も引き起こした。価格高騰によってファンが観戦計画を立てられず、ホテル予約は低迷。客室のブロック予約を行っていたFIFA自体も大量のキャンセルを行い、開催都市のホテルは宿泊費を最大3分の2までダンピングせざるを得ない状況に追い込まれた。さらに、ニューヨークとニュージャージーのスタジアムを結ぶ公共交通機関では、通常12.90ドル(約2090円)の往復運賃が一時150ドル(約2万4300円)にまで引き上げられ、批判を受けて105ドル(約1万7000円)に引き下げられるという顛末をたどった。それでも通常運賃の実に8倍以上であり、ファンの怒りは収まらなかった。
「史上最も儲かるワールドカップ」になるというFIFAの目論見は、皮肉にもスタジアムの空席やファンの不在という形で、スポーツビジネスの限界点を世界に露呈する危険性を孕んでいた。
FIFAと政治権力の蜜月、そして国境という壁
経済的なハードル以上にファンを絶望させたのが、開催国アメリカの厳格な移民政策だ。かつてワールドカップの開催地選びにおいて「アクセスの良さ」や「ビザの取得しやすさ」は絶対条件だった。しかし、トランプ政権下で強化された国境管理は、今大会の参加国にも容赦なく牙を剥いた。
アメリカ入国時に約1万5000ドル(約243万円)の保証金(ボンド)支払いが義務付けられている50カ国のうち、アルジェリア、カーボベルデ、コートジボワール、セネガル、チュニジアの5カ国がワールドカップ出場国と重なった。FIFAは選手やスタッフについては免除を取り付けたが、一般ファンにとっては大きな負担となった。ワシントンのダレス国際空港などの入国審査でSNSのアカウントまで厳しくチェックされるという噂も広まり、海外のファンにとって、アメリカへの渡航そのものが巨大なリスクとなった。
さらに深刻だったのが、イランやハイチをはじめとする39カ国に対する渡航禁止措置。イランはアジア予選を正当に勝ち抜き出場権を得たが、選手、コーチ、その近親者を除くイラン人ファンはスタジアムに入ることすら許されなかった。4月には、トランプ氏周辺から「イランを大会から追放し、代わりにイタリアを出場させよう」という、スポーツの根幹を揺るがす政治的工作さえ報じられた。FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長は「イラン代表は必ず出場する」と明言し、この案は実現しなかった。
しかし、インファンティーノ会長がトランプ大統領に急接近する姿は、大会を通じてますます鮮明になった。2025年12月の組み合わせ抽選会では、インファンティーノ会長が自ら創設した「FIFA平和賞」の第一号をトランプ氏に授与。その後もトランプ氏の資産公開により、同会長が高額なチケットを大統領に贈っていたことが明らかになった。さらにインファンティーノ会長は、7月19日の決勝でトランプ大統領がトロフィーを共同授与する予定であることも明かしており、巨大化するスポーツ組織がいかに政治権力への依存を深めているかを物語っている。この蜜月ぶりには、欧州議会議員らからも「政治的中立性」を疑問視する声が上がっている。


