企業の潜在能力を企業合併を通じて引き出してきた「M&Aの旗手」安藤智之が、M&Aを活用して成長する上場企業、「ストロングバイヤー」をピックアップ、株価のついている企業とそうでない企業の差を分析、さらにすべての経営者・投資家たちのために、M&A専門家ならではの目線で「この会社はM&A戦略がうまい!! 今市場から評価されるポイントはこれだ」を丁寧に解説する。
1社を買うのは社長。10社を買えるのは組織
多くのグロース上場企業の経営者が「M&Aなしには持続的な成長は難しい」と考え、実際に買収へと踏み切っています。しかし、不思議なことに「M&Aを発表しても株価がピクリとも動かない」、あるいは「M&Aを繰り返しているのに時価総額が停滞したまま」という企業が少なくありません。
なぜ、M&Aという劇薬を投じているにもかかわらず、市場は評価してくれないのでしょうか。
かつて私が伴走した、時価総額70億円規模のある上場企業のケースが非常に示唆に富んでいます。その企業が行ったM&Aは1件。しかし、その買収に至った背景や目的を、投資家が納得する形で論理的に説明できていませんでした。「とりあえずM&Aをしないと成長が鈍化するから」という、いわば消極的な動機による買収だったのです。
さらに深刻だったのは、その後の戦略です。彼らが考えていたのは、「これからも同じような小規模な案件を寄せ集めていく」という手法でした。これでは、時価総額を大きく伸ばすことは不可能です。
当然の話ではありますが、時価総額とは「将来の成長率」をすでに織り込んだ数値だからです。
そして市場は、その企業がどのような曲線を描いて成長していくのかを冷徹に見ています。「この市場環境ならこれくらい伸びる」「この企業のM&Aには再現性があるから、これくらいの利益上積みは期待できる」という期待値が、現在の株価を形成しています。
単なる「小規模案件の寄せ集め」を続けている企業に対して、市場は早い段階で「この会社はここまでの規模で頭打ちだ」と見切りをつけます。その瞬間に、成長の期待値は剥落し、株価は停滞あるいは下落の一途を辿ることになるのです。



