イーライリリー(Eli Lilly。ティッカー:LLY)の株価は現在1182ドル(米国版掲載時点)だが、控えめに見積もっても、今後3年間で約76%の上昇余地がある。これほど大きな数字であれば、その根拠を確かめておく価値はあるだろう。株価を押し上げる要因としては売上高の伸びが重要だが、それと同じくらい、バリュエーション倍率(株価が利益の何倍で評価されるかを示す尺度)がどう動くかも結果を大きく左右する。まずは、この試算の土台となる事業の実態から見ていこう。
世界の注目は2つの大型ブロックバスター薬、2型糖尿病治療薬マンジャロと肥満症治療薬ゼップバウンドに集まっている。しかし、それ以外の事業部門も目覚ましい成長を見せている。実際、2026年第1四半期には、同社の免疫、がん、神経科学領域に属する主要製品群の売上高が合計で前年同期比160%増を達成した。あまり注目されていないこの分野の好調ぶりは、同社の強みが主力のインクレチン関連薬(肥満症・糖尿病治療薬)の話だけにとどまらないことを物語っている。
(編注:「ブロックバスター薬」とは、年間売上高10億ドル[1620億円]以上を達成する医薬品を指す。製薬業界の通称)
こうした事業の多角化は、業績の下値を支えてくれる。とはいえ、株価がどこまで上がるかを主に左右するのは、やはり心血管代謝部門だ。何しろ、マンジャロとゼップバウンドの2剤だけで、今四半期に67億ドル(約1.09兆円。1ドル=162円換算)もの増収を新たに生み出しているのである。そのため、売上高こそが株価を動かす最大の要因となる。
試算の中身を理解する
上昇余地をはじき出すうえで、鍵となる前提は3つある。まず売上高は、今後3年間、年率30%で伸びると想定する。現在の成長率は47%だが、これほどの急成長が3年間も続くとは考えにくいため、あえて低めに設定した。
次に純利益率は、35%から32%へ低下すると見込む。直近12カ月(LTM。Last Twelve Months)の水準がいずれ過去平均に戻るとみているためだ。さらに、バリュエーション倍率も、同社に不利な方向へ調整する必要がある。現在のLLYのPER(株価収益率)は42.1倍で、過去3年間の平均である71.1倍を下回っている。しかし、このシナリオではさらに37.4倍まで引き下げる。成長が減速すれば、現在の倍率でさえ正当化できなくなるからだ。
これら3つの前提を組み合わせると、利益は253億ドル(約4.1兆円)から約499億ドル(約8.09兆円)へと98%増える計算になる。この利益に引き下げ後の倍率を掛け合わせると、株価は約2091ドルとなり、現在の株価からの上昇率は76%にとどまる。つまり、利益の増加が株価を押し上げる前に、倍率の低下がその効果を目減りさせてしまうのだ。
LLYはこれを達成できるのか
既存の医薬品パイプラインとは別に、新しい販売チャネルが、この試算に織り込まれていない成長をもたらすかもしれない。企業が従業員に肥満症治療薬を直接提供できるようにするプラットフォーム「Lilly Employer Connect(リリー・エンプロイヤー・コネクト)」だ。その効果は2026年後半から少しずつ表れ始め、2027年には参加企業が増えると見込まれている。
成長を妨げる要因は何か
一方、2026年4月の2026年第1四半期決算説明会で示された最大の懸念は、需要ではなく価格だった。経営陣は、通年で10%台前半から半ばの値下げ圧力を見込んでいる。だとすれば、サイクルの中で最も有利な局面は、すでに終わりに近づいているのかもしれない。



