経営者は常に「二律背反」の中にあります。
短期的な利益を追うべきか、それとも中長期的な顧客との関係構築を優先すべきか。
厳しく成果を求めるべきか、それとも人を信じて待つべきか。
どちらも大切だとわかっているからこそ、簡単に答えは出ません。
今回のエグゼクティブ・コーチングのクライアントは、ある製造業の経営者。海外現地法人の事業責任者を経て、50代後半で社長に就任されました。
その方とのセッションでも、まさにこのテーマが持ち込まれました。
本当に筋の通った判断ができているか?
クライアント:社長になってから、二律背反に向き合う場面が本当に増えました。
変革は急がなければならない。しかし、急激に組織を変えれば不安定になる。
投資家からは短期的な成果を求められる一方で、社員には長期的な顧客との信頼関係を築いてほしいと伝えてきました。こうしたテーマに向き合っていると、「前回と今回の判断に、矛盾は無いだろうか」「これで正しいのだろうか」と、ふと不安になることがあります。
鈴木:例えばどんな時に、そう感じるのでしょうか。
クライアント:目の前の課題への対応や判断に、追われているときですね。一方を選ぶたびに、もう一方を捨てているような感覚になることがあります
話を聞きながら、私は以前出会った、ある事業会社の経営者を思い出していました。
その方は、親会社から厳しい業績目標の達成を求められる一方で、中長期的な成長のためには、新しい事業や技術への投資を続けなければならない立場にありました。
目の前の利益か、未来への投資か。
どちらも会社にとって欠かせないものだからこそ、単純に片方を選ぶことはできません。
実際、その会社の経営陣の中でも意見が別れていました。社内では「成長投資が重要だ」と発信しながらも、期末が近づけばコスト削減を求めざるを得ず、現場から見れば、経営のメッセージが揺れているようにも映っていました。
そのような中、その方はこう語っていました。
「利益確保はもちろん必要だ。しかし、10年後、20年後も価値を届けるためには、今リスクを取らなければならない」
そして実際に、成長領域への投資を決断しました。
もちろん、その決断で二律背反の葛藤が消えたわけではありません。
短期業績へのプレッシャーも引き受けながら、未来への投資も続ける。両方の重みを引き受けたのです。
私は、この話に経営者という役割の本質が現れているように感じました。



