日常的な意思決定を行うために、ChatGPT(チャットGPT)やGemini(ジェミニ)をはじめとする人工知能(AI)プラットフォームを利用することは、今や当たり前になっている。
人々はデータ処理や仕事のサポートのためだけにAIを使っているのではない。多くの人が個人的な指針を得るためにAIを利用している。ChatGPT(チャットGPT)の週間アクティブユーザー数は9億人に上り、一般消費者の利用の約70%が個人生活に関連している。
AIはアイデア出しや情報収集には便利だが、人間の感情を処理する能力には限界がある。感情、直感、個人の好みやこだわりに基づいた、AIの利用には適さないパーソナルな決断というものが存在する。筆者にとって、海外移住の決断はその最たるものだ。
筆者は40年以上にわたり、海外への移住方法や移住先についてアドバイスを提供してきた。毎日、何百人もの読者から海外移住に関する質問が寄せられる。最近では、AIから得た情報の真偽を確認するための問い合わせが増え始めている。
これが問題である理由は2つある。1つはAIが常に正確であるとは限らないこと、そしてもう1つは、海外移住や新しい居住国の選択は、深い自己内省を必要とする極めて個人的な検討事項であることだ。
AIの情報は必ずしも正確ではない
筆者の指摘を裏付ける最近の例を紹介しよう。ある読者から先日、このようなメールが届いた。「AIから、パナマの蚊とデング熱について警告されました。それらは深刻で現在進行形の問題だと書かれていました」
パナマは、移住や投資先として筆者が最も推奨する国の1つだ。米ドルを使用する経済的なセーフヘイブン(安全な避難先)であり、生活費も比較的安く抑えられる。しっかりしたインフラが整備され、優れた医療オプションも整っている。2つの長い海岸線と息を呑むような景観に恵まれ、多様なライフスタイルの選択肢を提供している。
パナマは、移住を検討している人々にとって、生活の質を劇的に向上させる大きなチャンスをもたらす場所だ。それでもこの読者は、AIの情報によって増幅された恐怖のために、その機会を逃すことになる。
AIの情報は必ずしも正確ではない。すべてのAIモデルは「ハルシネーション(幻覚)」を起こす。つまり、誤った情報、誤解を招く情報、あるいは捏造された情報を事実として提示することがある。Claude(クロード)Opus 4.5は、答えがわからない場合に58%の確率でハルシネーションを起こす。GPT-5.1とGemini 3 Proにおけるその割合は、いずれも80%を超えている。
AIモデルは、権威ある情報源から個人の意見ブログに至るまで、インターネット上の膨大なデータを収集することで機能する。そして、そのデータを処理し、ユーザーが最も満足する確率の高い単語の配列を生成する。
ChatGPT(チャットGPT)やGemini、Meta AIはデータベースではない。これらは統計的に尤もらしい文章を生成するように設計された言語モデルである。また、ユーザーに同調するように設計されているため、たとえユーザーの思い込みが間違っていたとしても、それを強化してしまう可能性がある。
仮にこの読者がパナマの蚊について筆者に客観的な意見を求めていれば、一部の国や地域でウエストナイルウイルスが存在するのと同じように、パナマにもデング熱は存在すると答えただろう。
しかし、筆者はパナマに25年以上暮らし、何千人もの人々に移住を勧めてきたが、デング熱に感染した人は1人も知らない。いずれにせよ、筆者が移住先として推奨している地域では感染リスクが低いため、彼女がパナマを候補リストから外す必要はなかったのだ。
この読者はさらにこう尋ねてきた。「イギリスについてはどう思われますか? 1年で市民権を取得できると読んだのですが」
ここでも、AIは誤解を招く情報を提供していた。イギリスでは、永住権(Indefinite Leave To Remain)を12カ月間保持した後に市民権を申請することができる。しかし、永住権を取得するには、一般的にイギリスに5年間合法的に居住する必要がある。そして、市民権の申請資格を得た後も、手続きに最長で1年かかることがある。
日常的なAIの利用において、誤情報や誤った誘導は許容できる場合もあるかもしれないが、海外旅行の計画においては危険を伴う。ChatGPT(チャットGPT)が旅行者を存在しない目的地へ案内した事例はこれまでに数回報告されており、その中にはペルーの実在しない標高の高い町も含まれている。
人生の大きな転機となる海外移住を計画している人にとって、誤情報は致命的な結果をもたらしかねない。居住権、税金、銀行業務、通貨などに関する政策は常に変化している。Presenc AIによると、一般的なAIモデルは、法律に関する問い合わせの58%から88%でハルシネーションを起こす。古かったり誤っていたりする情報に頼ることは、海外への移住という決断の成否を分けることになりかねない。
海外移住は極めて個人的な決断である
AIは、あなたがなぜ海外に移住したいのかを教えてはくれないし、あなたに最適なライフスタイル、文化、気候、料理を決めてくれるわけでもない。あなたはアルゴリズムが対応する何百万人ものユーザーの1人にすぎないのだ。もし海外移住を考えているなら、現在の生活や将来の生活への希望について、自分自身と深く向き合う必要がある。
また、このプロセスの初期段階において、いくつかの苦渋の決断を下す必要もある。海外移住には精神的な負担が伴う。例えば、持ち物を整理し、代々伝わる品や大切な所持品を手放さなければならないかもしれない。家を売り、友人や家族に別れを告げる必要もあるだろう。どれだけ膨大なAIのデータであっても、これに対する心の準備をさせることはできない。
移住先の国を選ぶことは、海外移住を決断すること自体よりもさらに個人的な作業かもしれない。長年にわたり人々にアドバイスを提供し、自身も何度も海外移住を経験してきた筆者の経験から言えば、このプロセスを進めるうえでの最良のリソースは、すでに海外移住を果たした「本物の人々」だ。
オンラインでの情報収集は十分にすべきだが、収集したあらゆるデータは、検討している場所に実際に暮らしている人々からの知見を交えて検証されるべきだ。
それに続いて、現地に実際に足を運んでみることだ。つまり、飛行機に乗り、移住を検討している国を自分の目で見て体験するのだ。新しい場所が自分に合っているかどうかを見極めるのは、往々にして直感や本能、あるいは言葉では言い表せない感覚によるものである。
ある移住者の知人は、飛行機を降りて初めて現地の空気を吸った瞬間に、その場所が自分に合うかどうかがわかると話す。筆者は、海外移住を検討している人に対し、決断の出発点として、寝室の窓から最も眺めたい景色は何かと問いかけることにしている。
ビザや税制といった現実的な検討事項も、国選びの基準にするべきだ。AIは、インターネット上の他の情報源から得た「退職者に最適な国」「世界で最も幸せな国」「独身者に最適な場所」といったおすすめの国に関する情報を焼き直して提示することはできるかもしれない。
しかし、これらのリストの多くは誤解を招く恐れがある。居住権に関する政策のせいで、現実的な選択肢とは言えない国が含まれているからだ。例えばシンガポールは、移住者にとって世界で最も優れた場所として頻繁に登場するが、同国で永住権を取得することはほぼ不可能に近い。シンガポールの居住資格を得るには、高度な技術を持つ専門職であるか、数百万ドル規模の富裕層である必要がある。
移住した後は、カルチャーショックや言葉の壁を経験することになるだろう。これらは、AIが代わりに乗り越えてくれることのない、泥臭く、しばしば気まずさを伴う人間味のある体験だ。新しい国でのコミュニケーションにおいて適切なエチケットを身につけるまでに、大半の人はこうした経験を何度も経なければならない。



