英国を拠点とする多くの中小企業(SME)にとって、現在は嵐の最も暗い局面のように感じられるかもしれない。チームづくりのコストを押し上げる増税に加え、雇用規制の強化、そして戦争に起因する物価上昇の影が重なり、先行きはやや厳しく見えている。
さらに追い打ちをかけるように、企業はAI(人工知能)の凄まじい破壊力にも直面している。一部の人々によれば、AIの台頭によって産業全体が消滅することになるとも言われている。
しかし、この混沌とした状況の中に、本当にチャンスは存在しないのだろうか。
ただの誇大広告か、それとも破壊的変化か
過去のビジネスとテクノロジーの破壊的変化の波を覚えているほどの年齢に達した私たちにとって、AIをめぐる一部の誇張表現には奇妙な既視感がある。1970年代初頭、石油危機のさなかに、私の父は弁護士事務所を経営していた。法律事務の秘書たちは、マイクロプロセッサと「ワードプロセッシング(文書作成)」を実行する初期のコンピューターという奇妙な新技術に取って代わられようとしている、という予測を今でも覚えている。
もちろん、彼女たちは置き換えられなかった。だが、雇用に対するテクノロジーの影響への恐れは、常に繰り返されるテーマである。現実には、テクノロジーは仕事を変え、企業を変える。アレクサンダー・グラハム・ベルによる電話の発明は、かつての電報配達員の仕事を失わせたが、そうした役割はほどなくして大勢の電話交換手に置き換えられた。
あらゆる中小企業にとってのAIの脅威は誇張されている可能性があるものの、それでもなお、こうした企業は国内問題や地政学的問題から生じる現実の課題に直面している。
イランでの紛争に起因するエネルギー価格の高騰は、企業のコストに影響を与えるだけではない。生活費にも影響を及ぼし、消費者心理を冷え込ませ、支出を抑制し、さらなる賃上げ要求を煽る可能性が高い。現米政権の初期に見られた関税をめぐる混乱は、ひとまず過ぎ去ったように見えるが、グローバルサプライチェーンへの影響はなお現実のものとして残っており、中小企業はそれに調整し、適応する必要がある。
大企業とは異なり、中小企業には地政学的混乱や急速なインフレを余裕をもって吸収できるだけの財務的な蓄えが常にあるわけではない。最近の法改正はすでに利益率を圧迫しており、4月に成立した雇用権利法案は、雇用コストの上昇に加えて給与計算に複雑さをもたらしている。
実証済みの対応策は、イノベーションと投資を行うことだ。しかし、そのためのリソースを確保するのは言うは易く行うは難しである。英国の中小企業は、約650億ポンド規模と推定される事業融資ギャップの影響を不均衡に大きく受けている。英国には生産性の問題があり、中小企業はその最前線に立っている。
こうした企業に必要な支援を提供することは、中小企業と、それに依存する地域社会にとって重要であるだけではない。英国経済にとっても極めて重要である。問題は、その支援がどこから来るのかということだ。
「モート(競争優位性の堀)」を越える
ここで再び、AIの話に戻る。
AIが定型的でプロセス主導の職務を不要にする可能性に多くの注目が集まっている一方で、AIが膨大な生産能力を解き放つ力にはあまり焦点が当たっていない。
テクノロジー分野やその周辺でキャリアを積んできた人なら誰でも、「ムーアの法則」を知っているだろう。1960年代にゴードン・ムーアが観察した、コンピューティング能力が高まるにつれて、そのコストは下がるという現象である。AIの急速な進化により、かつては莫大な費用がかかっていたコンテンツ、コード、インサイト、情報の生成が、今や誰もがボタンをクリックするだけで可能になった。
幅広い活動において、参入障壁は劇的に低下している。ビジネスではしばしば「モート(競合に対する優位性、参入障壁)」について語る。すなわち、容易に模倣できない独自の中核部分である。AIを受け入れる用意のある賢明な中小企業にとって、底なしのIT予算を持つ優良大企業(ブルーチップ企業)と対等に戦うことは、今や現実的な可能性となっている。
ツールではなくサービスをマッピングせよ
容易に成果を上げられる中核的な業務機能はいくつかある。最初の一歩は、それらをマッピングすることだ。テンプレート化しなければ、自動化を真に効果的に構築することはできない。すべてのプロセスがどのように行われ、他のプロセスとどのように相互作用しているかを理解したうえで、選択したAIツールにその自動化プロセスを構築させるのである。
まずは「給与計算と決済」だ。従業員は国内外にますます分散し、柔軟性への要求も一段と高まっている。中小企業は、労働力が今や求める適応力のある給与計算を提供する必要があり、さまざまなテクノロジーソリューションによって、それはますます容易になっている。
複数の国や地域にまたがるサプライヤーへの支払いであれ、世界中の顧客基盤からの入金であれ、外国為替(FX)市場の変動への対応であれ、今や中小企業にとっても、IT部隊を抱える上場企業と同じくらい容易にこれらの課題を乗り越えられるソリューションが存在している。
中小企業というエンジン
英国と世界の中小企業経済を支えるためにテクノロジーを活用することは不可欠である。
英国では、中小企業が全企業の99%以上を占め、民間セクターの雇用の約60%、民間セクターの売上高の約半分を担っている。言い換えれば、中小企業経済がなければ、経済そのものが成り立たないのだ。
数値データにとどまらず、中小企業は地域経済と地域社会を形づくり、何百万人もの人々に不可欠な雇用、訓練、機会を提供する存在だ。地元の商店街を支え、英国経済に多様性をもたらしている。これは極めて重要だ。結局のところ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)からウクライナ、イランに至るまで、世界経済が経験してきた近年のショックから学ぶべき教訓があるとすれば、それは、狭い領域に集中した国家経済やグローバルサプライチェーンへの過度な依存は、ビジネスに悪いだけでなく、戦略的リスクでもあるということだ。
ますます強力になり、ますます豊富になっている新興テクノロジーは、中小企業の生産性ギャップを埋める助けになり得る。ひいては、英国の生産性ギャップを埋める助けにもなり得る。
したがって、英国の勤勉な中小企業の前には多くの課題が存在するが、テクノロジーはその一つではない。



