構造的なミスマッチ
オフラインは復活を遂げつつあるが、そこには実店舗ビジネスならではの運営上の複雑さが伴う。施設型ビジネスは、賃貸契約、人員配置、収容能力の上限といった課題を抱えている。ビジネスの成長は直線的であるため、ベンチャー投資の評価基準からははじかれやすい。前回の投資サイクルでは、投資家は「フィットネスはデジタル化(オンライン化)する」という仮説のもと、真逆の方向、つまり家庭用ハードウェアに数十億ドルを注ぎ込んだ。
企業情報データベース「Crunchbase」によると、スマートホームジムのTonalは5億8000万ドル(約940億円)を調達したものの、ここ3年近く新たな資金調達を行っておらず、在宅型ローイング(ボート漕ぎ)マシンを手がけるHydrowの3億6000万ドル(約584億円)超の資金調達も2022年で止まっている。デジタル化の仮説は、年間70億回に及ぶ対面訪問という現実の前に敗れ去ったのだ。
逆張りの視点から見れば、サードプレイスへの移行は、店舗の賃貸契約というレイヤーの「一階層上」に、ベンチャー規模のビジネスチャンスを生み出しているということだ。
例えば、器具の充実度ではなく「帰属感」で競い合う何万もの事業者に向けた、予約・リテンション・コミュニティ管理のためのソフトウェア。土曜日の無料ランニングイベントを有料会員へと転換させるための、ランニングクラブ向け決済・CRM(顧客関係管理)ツール。あるいは、評価額110億ドル(約1兆7800億円)規模の計測レイヤーと過去最高である70億回のリアルな訪問との間の欠けた結合組織を埋める、ウェアラブル端末のデータと実店舗を結ぶデータインフラなどが挙げられる。
創業者にとって、HFAのデータは競争優位性(経済的な堀、モート)の再定義を迫るものだ。2025年の業界の解約率は過去10年間で最低を記録し、平均会員継続期間は伸びている。これは、以前なら顧客獲得の段階で漏れていた価値が、現在はエンゲージメントの場で複利的に蓄積されていることを意味する。
ジムは新たな社交クラブであり、消費支出の動向もそれを裏付けている。投資家にとって、2021年にピークを迎え、2025年に50億ドル(約8110億円)付近で底を打ったこのセクターは、いまや歴史上最も強力な需要のファンダメンタルズ(基礎的条件)を示している。それを牽引しているのは、ジムへの加入率35.5%を誇り、なおも上昇し続けている世代だ。
資本サイクルは、良くも悪くも行き過ぎる傾向がある。前回のサイクルは「マシン」に資金を投じた。次のサイクルは、ジムで隣り合って立つ人々の間の「関係性」を握る者に資金を投じることになるだろう。


