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2026.07.24 16:00

“泊まる”を超えて──エスパシオが描く、新しい日本のラグジュアリー(前編)

ホテルは、文化を未来へ継承する装置になれるのか。興和が展開するラグジュアリーブランド「エスパシオ」を通じて、日本ならではのラグジュアリービジネスの可能性を探る。


2025年10月、名古屋城の正面にひとつの“城”が誕生した。あの有名な金のシャチホコこそ冠してはいないが、石組みの壁の上に、御殿風の建築が積み重ねられたさまはまさに現代の城。長年、名古屋城を“金城”と呼び親しんできた名古屋の人々も少なからず驚いたに違いない。

その“城”とは、「エスパシオ ナゴヤキャッスル」。大手総合商社であり、医薬品・光学機器メーカーとしても知られる興和が手がけたラグジュアリーホテルだ。

しかし、興和がホテルを手がけるとは少々意外な気もするが……同社で取締役専務執行役員としてホスピタリティ事業を統括する田渕浩之が語る。

「興和というと多くの方が『キューピーコーワ』や『バンテリンコーワ』など医薬品のイメージをおもちかと思いますが、その歴史は古く、1894年に名古屋で綿布問屋として創業したことに遡ります。その後、海外へ駐在所を展開したことから商社機能をもつようになり、光学・医薬品の製造で名を馳せるようになりました。実は、その事業領域はきわめて広く、現在も国際的なネットワークを活用しながら、多角的に展開しています」

興和がホテル事業へ参入した背景には、この多種多様な事業ポートフォリオがある。

「私たちは商社として世界中からさまざまな商材を調達してきました。ホテルは、それらをひとつの空間のなかで体験していただく場所。いわば興和のショールームのような存在です」

ホテルの客室、調度品、建材、アメニティ。ゲストは知らず知らずのうちに、興和という企業が長年培ってきた価値観に触れることになるだろう。

「興和で取り扱う商品は、安く大量に販売することを前提にしたものではありません。常により良いものを追求し、お客様に届けてきたことから、ホテルも自然とラグジュアリーという方向になったのです」

綿布問屋として創業した興和のオリジナル、高級オーガニックコットンブランド「TENERITA」を「エスパシオ」でも採用。オーガニックコットンのやわらかな肌触りがゲストから好評。
綿布問屋として創業した興和のオリジナル、高級オーガニックコットンブランド「TENERITA」を「エスパシオ」でも採用。オーガニックコットンのやわらかな肌触りがゲストから好評。

唯一無二のBEYOND THE LUXURY

かくして、興和によるラグジュアリーホテルブランドとして誕生した「エスパシオ」。スペイン語で「空間」「宇宙」などを意味する言葉であり、「理想の空間で最高のおもてなし」を追求する場として命名された。コンセプトとして掲げられる「BEYOND THE LUXURY」というタグラインは、直訳すれば“ラグジュアリーのその先へ”となるが、その意味するところは必ずしも価格や豪華さの追求ではないようだ。

「常に“いまだかつてないもの”を意識しています。どこかの二番煎じではなく、ほかでは体験できないものをご提案したい。それが我々の思想であり、哲学です」

その思いを具現化した「エスパシオ」ブランドにおいて、最初のプロジェクトが2019年ハワイ・ワイキキで開業した「ESPACIO The Jewel of Waikiki」だ。ワイキキビーチを望む全室オーシャンフロントのホテルは1フロアに1室のみで、合計わずか9室。世界屈指のホテル激戦区で「エスパシオ」は量ではなく質を選び、ラグジュアリーの新しいかたちを提示した。

興和の商社としてのネットワークを活用し、イタリアの大理石やモロッコのランプなど世界の美しい品々を収集した「ESPACIO The Jewel of Waikiki」(ハワイ・ワイキキ)。
興和の商社としてのネットワークを活用し、イタリアの大理石やモロッコのランプなど世界の美しい品々を収集した「ESPACIO The Jewel of Waikiki」(ハワイ・ワイキキ)。

さらに24年には日本を代表する温泉地である箱根へ。専用のモノレールで渓谷へ降りた先に広がる「エスパシオ 箱根迎賓館 麟鳳亀龍」である。

「ここはかつて豊臣秀吉が小田原の北条氏を征伐した際に、奥州から参じた伊達政宗が湯治したという逸話もあるとか。温泉だけではなく、日本の文化や歴史をより強く意識することで、ここでしか味わえない唯一無二の体験をつくりだしています」

かつて伊達政宗が小田原攻めの際に滞在し、戦の疲れを癒したと伝わる温泉地。早川沿いの渓谷に9棟のヴィラが点在する「エスパシオ 箱根迎賓館 麟鳳亀龍」(神奈川・箱根)。
かつて伊達政宗が小田原攻めの際に滞在し、戦の疲れを癒したと伝わる温泉地。早川沿いの渓谷に9棟のヴィラが点在する「エスパシオ 箱根迎賓館 麟鳳亀龍」(神奈川・箱根)。

ワイキキで誕生し、箱根で日本文化という文脈を得て、さらなる深化を遂げた「エスパシオ」。いよいよ、原点である名古屋を舞台に、冒頭のシーンへと還るとしよう。

“名古屋飛ばし”へのチャレンジ

総工費数百億円という大規模なプロジェクトは構想から実現まで約10年を要した。

「名古屋は東京から新幹線で約1時間半という距離の近さが、“いつでも行ける場所”という印象を強めてしまい、通過点になってしまっていました。コンサートやイベントも東京や大阪で主に開催されるため、“名古屋飛ばし”という不名誉な言葉があった時代も。しかし、名古屋には名古屋城をはじめ、世界に誇るべき歴史や文化があります。今、その価値をあらためて発信したいという思いがありました」

折しも今年は「アジア競技大会」、および「アジアパラ競技大会」が名古屋で開催されるとあり、“飛ばされない”名古屋をアピールするにはまたとない好機でもあったろう。目指したのは、日本の歴史や工芸、アートの粋を融合させた、ここにしかない体験価値の創出だ。

「私はここを“アートミュージアムホテル”だと思っています。作品を鑑賞するだけではなく、建築や工芸、アートに囲まれながら滞在を楽しんでいただきたいのです」

館内に配された約50人の作家による400点超もの作品は、建築やインテリアと一体となり、このホテルならではの世界観を形づくる重要な要素だ。名古屋城を望む特別なロケ―ション、日本の工芸が息づく空間、歴史と現代が交差する体験のすべてが重なりあうことで、ここは宿泊施設を超えて文化体験の場となる。

さらに、その先に田渕が見据えるのが、観光地を巡る旅の途中で立ち寄るホテルではなく、ホテルそのものが旅の目的地となる“デスティネーションホテル”というあり方だ。

「ここに泊まるために名古屋へ来ていただく。そんなホテルを目指しています」

エスパシオが掲げる「BEYOND THE LUXURY」とは、豪華さや希少性を競うことではなく、その土地にしかない歴史や文化、人の営みに触れる体験価値を創出することなのだ。名古屋城の正面に誕生した“もうひとつの城”は、日本ならではのラグジュアリーを世界へ発信する新たな拠点になろうとしている。

名古屋城の正面に堂々とそびえる「エスパシオ ナゴヤキャッスル」(愛知県・名古屋)は地上11階、地下2階。計100室のゲストルームと8つのレストラン&バー、日本最大級のバンケットルームを備えている。
名古屋城の正面に堂々とそびえる「エスパシオ ナゴヤキャッスル」(愛知県・名古屋)は地上11階、地下2階。計100室のゲストルームと8つのレストラン&バー、日本最大級のバンケットルームを備えている。

ESPACIO
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たぶち・ひろゆき◎1965年生まれ。京都芸術大学卒。外資系ホテルで実務経験の後、2014年興和株式会社入社。興和グループのホテル事業や施設開発の中核を担う。25年より興和株式会社取締役専務執行役員兼エスパシオエンタープライズ株式会社代表取締役社長など。

Promoted by ESPACIO /photographs by Kenta Yoshizawa / text and edited by Miyako Akiyama