数年前、私たちは自社の財務モデルを構築するためにコンサルティング会社を雇った。その費用は高額で、優に6桁ドルに達した。最近になって、自分たちで更新できるようにベースとなるモデルの提供を求めたところ、別途購入しなければ提供できないと断られた。どうやら私たちは、作業そのものではなく、成果物に対して対価を支払っていたようだ。
そこで、当社の経理チームがそれをゼロから再構築した。彼らは大規模言語モデル(LLM)を活用して数日、夜遅くまで作業し、実質的に同一のものを完成させた。トークン費用の総額は、コンサルティング会社に支払った金額のおよそ1%にすぎなかった。
これは一度きりの出来事ではない。実際、AI活用のおかげで、あらゆる分野で大幅な生産性向上を目の当たりにしている。こうした状況に対して、雇用主が取り得る対応は2通りある。
1. 従業員を解雇する。より少ない従業員でAIを活用すれば業績を維持できる、という論理に基づく。
2. イノベーションを推進する従業員に報いる。意欲的で十分に報酬を得ている従業員は、将来さらに優れた仕事をするだろうという論理に基づく。
私は2つ目の選択肢を強く支持する。人員削減に焦点を当てることは、AIがもたらす本当の機会、すなわち同じ人数でより優れた成果を上げるという可能性を見落としている。自社が作る製品を販売できるのであれば、なぜ現在の従業員でより多くの製品を生み出したいと思わないのか。それこそが価値を高め、競合を引き離し、顧客からの信頼を築く方法である。
LLMによって従業員の生産性が高まるのであれば、企業は彼らに報いるべきだ。それは、その実現を促すインセンティブを設けることを意味する。この考えを持つのは私たちが初めてでは決してないが、適切に導入しなければ立ち消えになる例も見てきた。
生産性向上は、測定できて初めて価値を持つ
企業がAIに関して犯す最初の誤りは、生産性を事実ではなく感覚として扱うことだ。AIを導入しても成果が向上しなければ、それは進歩とは言えない。
私は試行錯誤することを称賛する。しかし、従業員に報いるのは、AI活用によって作業が速くなる、より少ない反復で高品質の結果を出す、あるいは同じ時間でより多くの責任を果たせるようになった場合に限られる。これまで当社で見られた例をいくつか挙げよう。
・あるエンジニアはAIを使い、数日でオペレーションコンソール全体を再構築した。数年前であれば、エンジニア2名で1年かかっていた作業だ。
・当社のプロダクトチームはAIを活用し、全画面のフローを備えた動作するプロトタイプを1週間未満で作成できるようになった。数年前なら、同じことに4人で1カ月を要していた。
・そして前述の通り、数名のエンジニアが当初費用の1%で財務モデルを再構築した。
これらの事例は明らかに目立つが、生産性向上を長期にわたって業務に落とし込むにはどうすればよいのか。私が注目を勧める指標は、従業員1人あたりの売上高およびEBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)である。AIが本当にチームの生産性を高めているのであれば、それは時間とともに一貫してこれらの数値に表れるはずだ。誰かがAIを使ってこれらの数字を押し上げたなら、そこで報いるべきである。
AIによって従業員を疎外してはならない
AI主導の生産性向上に対する唯一の対応が、その価値をそのまま最終利益に回すことだけであるならば、従業員のなかに不満を醸成することになる。そしてそれは、長期的に見て最終利益に計り知れないダメージを与えかねない。
従業員の立場から考えてみてほしい。企業は人々に働き方を根本的に変えるよう求めており、それは新しいツールを学び、概してより多くの仕事を引き受けることを意味する。従業員が自発的にこれを行ったにもかかわらず、会社が付加価値をただ独り占めしてしまうなら、なぜその従業員が努力を続けるだろうか。これは、怨嗟を極めて効率的に生み出す方法にほかならない。
企業が主に人員削減のためにAIを導入するなら、それは短期的な賭けをしているにすぎない。私が実感しているのは、生産性が4倍になり、4倍の成果を出せるエンジニアを擁する方がはるかに優れているということであり、そのためにはその業務を担う人材への投資が必要である。例えば、当社の従業員には年間の教育手当が支給されている。近年、当社の高業績者の多くはこれをAIに特化したトレーニングに充ててきた。そして、そのうちの一部は生産性を4倍に高めている。
誰を採用し、いくら支払うべきかを再評価する
大手のLLM企業は、初日から圧倒的な成果を出し、それを維持できるAIの専門家を求めている。彼らは、AIエンジニアに対して平均20万ドル(約3240万円)超の給与を支払うことで、求める人材を獲得している。
ほとんどの企業にはそれができない。当社にも当然できない。しかし、それが我々が採用活動を行っている市場であり、そうでないふりをするのは現実から目を背けることだ。
当社が有効だと感じたステップをいくつか紹介する。まず、競争力のある給与を提示しつつも、標準から大幅に逸脱した水準にはしないこと。その代わり、AIを学ぶ従業員に報い、彼らが会社に新たな価値をもたらしたなら昇給を行う。この分野での専門性の確立には時間がかかる。そのためには、より厳選して採用を行い、実際の生産性の基準を高く設定し、従業員がそれをクリアしたときには大幅に高い報酬を支払う姿勢を持つ必要がある。
これは画期的な話ではない。多くの企業は歴史的に、イノベーションや生産性向上に報いてきた。しかし現在、企業は非常に多くのイノベーションを目の当たりにするあまり、従業員そのものが見過ごされつつある。それは残念なことだ。AIのリスキリングは、採用と定着(リテンション)におけるベストプラクティスの最新の形にすぎないからである。
今後数年で、2種類の企業の間に明確な違いが生まれると私は考えている。AIをコスト削減のために使った企業と、より優れた何かを築くために使った企業だ。前者は書類上はしばらく効率的に見えるかもしれないが、トレンドを作る側ではなく、常に最新のトレンドを追いかける側にとどまるだろう。後者は、AIを最大限に活用する方法を真に理解している人材を擁しているため、はるかに大きな成功を収めるはずだ。



