私が注目したのは、彼らがハイエンド市場を見据えて「移動」という時間をどのように再定義し、人の感性に訴える価値を生み出しているかという点だ。
車は単なる移動手段ではなく、これからますます「暮らしを包み込むラグジュアリー空間」になっていくだろう。その視点から、中国EVが提示する新しい体験価値を見ていきたい。
移動を再定義するスマート・リビング

目にした瞬間、思わず心が躍ったのは、スマートフォンメーカー、Xiaomi(シャオミ)のEV「SU7」だった。ポルシェを彷彿とさせる流麗なフォルムに、未来感のあるディテール。そして乗り込んだ瞬間、そこに広がるのは「車」というより、五感を満たすスマート・リビング空間だった。
オフホワイトを基調にゴールドをあしらった上質な空間に、マッサージ機が装備。センターコンソールにスマホを置けば、ワイヤレス充電が始まる。後部座席では、大型スクリーンでシームレスに動画を楽しめる。特筆すべきは、音響の演出だ。ドアを開けるとボリュームが絞られ、閉めると再び極上のサラウンドが立ち上がる。まるで映画館がそのまま移動しているかのようだ。

CEOがデザイナーの提案を何度も却下したり、試乗を100回以上重ねるなど、EV事業に並々ならぬ情熱を注いできたという。BMWをはじめ欧州プレミアムブランド出身のデザイナーやエンジニアをスカウトし、EV参入からわずか数年とは思えない完成度のデザインと走行性能を結実させた。それを400万円台後半という低価格で実現している。1500馬力級のサーキット仕様「SU7 Ultra」ですら、約1750万円(1元=21.5円換算、26年7月時点)だ。
昭和の「アッシーくん」が、女子たちを虜にしたかもしれない「勝負車」。しかし令和の今、選ばれるのは助手席ではなく、快適すぎる後部座席だろう。
走るラグジュアリー・コックピット
もう一つ存在感を放っていたのが、Huawei(ファーウェイ)だ。製造は提携先の自動車メーカーに委ね、「車の頭脳」を供給する戦略をとる。

Huaweiが追求するのは、単なる高級車ではなく、移動時間そのものを価値ある体験へ変えるラグジュアリー性だ。 業界トップクラスの運転支援システム「HUAWEI ADS」と高精度の操作性を誇る「HarmonyOS」が、驚くほど自然な音声対話と運転支援を実現している。
上位モデルには、無重力状態を再現するゼログラビティシートや、無数のツボを刺激するマッサージ機能を完備。運転中に眠りに落ちないかと心配になるほどだ。
内装には上質なナッパレザーが贅沢にあしらわれ、その佇まいはベントレーを彷彿とさせる。テクノロジー志向の富裕層やビジネスリーダーから絶大な支持を集め、2000〜3000万円する超高級ブランド「尊界(Maextro)」に、すでに4万台の注文が入っていると深圳ベイのショールームで聞いた。

一方、BYDは独自のバッテリー、モーター、半導体までを自社生産する「垂直統合」を武器に、世界を席巻している。すでに日本市場に乗り込み、このほど高級輸入車の老舗であるヤナセが販売をはじめたことが、注目を集めている。
驚くべきは、200万円台のコンパクトEVから2000万円超の超高級モデルまでを短期間で揃え、市場を全方位から網羅している点だ。
近年は元アウディのデザイン責任者を招聘し、「安価な中国車」という過去のイメージを払拭。配車アプリ「DiDi」を利用した際、目を奪われた車の多くがBYDだった。


