部門や役割、リーダーの間で説明責任が共有される「マトリックス組織」は、現代の多くの組織における現実となっている。これは特に、高等教育機関や非営利団体の環境に当てはまる。
机上では、マトリックス組織は協働、イノベーション、そしてより良い成果をもたらすとされている。しかし、実際には、適切なリーダーシップがなければ、摩擦が生じ、意思決定が遅れ、責任の所在が曖昧になりかねない。
マトリックス構造は、それ自体で機能するわけではない。これらを機能させるには、パワーバランスや意思決定、人間関係に対する意図的なリーダーシップが必要となる。その役割は、統制することよりも、公式な権限がない中で統合を導くことにある場合が多い。マトリックス組織が最適に機能すれば、リーダーシップが分散される。
権限なき影響力
マトリックス組織において、リーダーは自分が管理していない人々やチームに依存する成果に対して責任を負うことが多い。このことを私が実感したのは、新型コロナウイルスのパンデミックの時だった。私たちは皆、緊張状態に置かれていた。教職員や学生、そして資金援助からコンプライアンスに至る実務チーム全員が、それぞれの幸福と安定を維持することに注力していた。どの立場も正当なものであり、どれ一つとして単独で存在しているものはなかった。私はこれらすべての部門を統制する権限を持っていたわけではないが、彼らが前進できるようサポートする責任があった。
権限によって無理やり方向性を一致させようとするのではなく、私は理解に努めた。それぞれのグループがどのような立場にあり、何に対処しようとし、何を懸念しているのか。共感と感情的知性(EQ)を用いることで、私たちは前進するための共通理解に達することができた。
私たちが下した決定も重要だったが、それ以上に重要だったのは、その決定にいたるプロセスだった。決定を押し付けるのではなく、人々が自ら決定にたどり着けるよう手助けすることだ。
この認識を欠くリーダーは、どれほど優れた技術的専門性を持っていたとしても、意図せず摩擦を生み出し、進捗を遅らせてしまう可能性がある。
マトリックス組織を機能させる運用の規律
共感と統合は不可欠だが、それだけでは十分ではない。マッキンゼーによれば、マトリックス組織には明確な構造が必要だ。そうでなければ、業務の重複が生じ、意思決定が滞り、説明責任が曖昧になってしまう。
つまり、リーダーは意思決定権を明確にし、役割を明確に定義し、業務構造を入念に構築し、チームがコミュニケーションをとって課題を解決するための一貫した方法を確立しなければならない。これは、人々が不必要な摩擦なしに業務を遂行できるよう支援することを意味する。
このことを実感したのは、臨床実習プログラムを拡大した時だった。当初は学術的な取り組みのように思われたが、すぐにそれよりはるかに広範なものであることが明らかになり、複数のキャンパスにおける教職員、外部の臨床パートナー、さらにはコンプライアンスや事務管理のチームにまで影響が及んだ。
初期段階では、典型的な課題に直面した。そのため、私たちは一度リセットした。責任の所在を明確にし、すべての関係者間で定期的なコミュニケーションを確立し、業務がどのように進められ、意思決定や報告・連絡がどのように行われるかについての共通理解を形成した。
その構造によって、すべてが変わった。プログラムの質は向上し、管理や規模の拡大が容易になった。さらに同じくらい重要なこととして、私たちが支援する地域社会とのパートナーシップも強化された。
リーダーシップスキルとしての謙虚さ
マトリックス組織の機能を停止させる最も手っ取り早い方法の一つは、答えが一つの場所、または一人の人物に存在すると決めつけることだ。
マトリックス組織の強みは、洞察が分散している点にある。リーダーシップの責任は、それにアクセスし、管理することだ。このことは、謙虚さを極めて実践的なものとして私に認識させた。
リーダーとして、私自身がすべての答えを持っている必要はない。答えを持っている人々のチームを構築し、彼らを信頼すればよいのだ。私たちの大学には、あらゆる分野において深い専門知識が存在しており、その専門知識に耳を傾け、それを意思決定に反映させることが私の責任の一部だ。
それはまた、人々が私の考えに異議を唱え、視野が狭くなっている可能性があるときに指摘できる環境を整えることも意味する。マトリックス組織において、このようなオープンさは選択肢の一つではなく、より良い意思決定を導き出し、リーダーシップを実際の業務に結びつけ続けるために不可欠なものである。こうしたリーダーシップのあり方は、階層(ヒエラルキー)よりも専門知識が重視されるというシグナルを送ることになる。
これは、多様な視点が存在し、影響力が大きい高等教育機関において特に重要だ。そうした文脈において、謙虚さはパフォーマンスに直結する。
マトリックス組織を構築しておきながら、意思決定を一人の人物に集中させることはできない。一つの場所に権限が集中しすぎると、構造は崩壊する。人々は意欲を失い、ボトルネックが生じ、組織のスピードが低下する。マトリックス組織は、リーダーシップが意図的に共有されたときに初めて機能するのだ。
自分の担当領域を超えて考える
マトリックス組織では、あらゆる決定が波及効果をもたらす。効率化を目的とした善意の変更が、対話に十分参加していなかったチームに深刻な負担を強いるのを私は見てきた。下された決定自体は間違っていなかったが、システム全体への配慮が欠けていたのだ。
これこそが、リーダーが転換すべき意識である。問いかけるべきは、「これはうまくいくか?」だけでなく、「これは誰に影響を与え、その人たちに何を求めることになるのか?」という点だ。
この問いかけを常に意識することで、意思決定の質が向上し、信頼関係も強化される。
コミュニケーションはインフラである
マトリックス組織において、コミュニケーションはインフラ(基盤)である。それがなければ、人々は思い込みで情報を補うようになり、認識のズレが生じる。
複数の時間帯にまたがる複数のキャンパスを率いる中で、不完全な情報でチームが動いていると、いかに簡単に連携が途切れてしまうかを私は目の当たりにしてきた。だからこそ、コミュニケーションは計画的かつ一貫したものでなければならない。
私は定期的にタウンホールを開き、意思決定がなされる理由や、それが私たちの優先事項とどう結びつくのかについて、最新情報と背景を共有している。また、進捗を追跡し、課題を直接浮かび上がらせるメールでフォローアップも行っている。
自分の仕事が全体のどこに位置づけられているかを理解できれば、人々はより迅速に行動し、より良い決定を下すことができる。正しく行われるコミュニケーションは、私が「見えない摩擦」と呼ぶものを取り除く。それはまた、敬意を示すシグナルでもある。人々には、自分がどのような状況にあり、どこに向かっているのかを知る権利がある。
要約すると
マトリックス組織を率いるには、以下のような特有の直感が必要となる。
• 明確さを生み出す。
• 統合を築く。
• リーダーシップを共有する。
• コミュニケーションを活用して摩擦を軽減する。
感情的知性の役割
これらすべてに共通する要素は、感情的知性(EQ)だ。これがあるからこそ、リーダーはチームが限界に達しているとき、統合が崩れかけているとき、あるいは言葉にされていない懸念があるときに、それを察知することができる。マトリックス組織において、こうしたシグナルは非常に重要である。
さらに重要なことに、それらのシグナルを察知することは、人々が率直に発言し、誠実に協力し、高いモチベーションを維持して仕事に取り組むための環境を整えることにつながる。
ミッションを反映する構造
ザ・シカゴ・スクールにおいて、マトリックス組織が提供する相互依存関係は、私たちの運営の中核をなしている。
リーダーシップが意図的であり、権限よりも影響力が重視され、規律が共感を支え、当事者意識が適切に共有されているとき、マトリックス組織は強みとなる。ミッション主導の組織において、その強みは、自分たちが支援する人々や地域社会にとってのより確かな成果へと直結する。



