多くの事業オーナーは、引退を決めたら自分の事業を市場に出せば簡単に買い手が見つかると考えている。しかし現実には、事業売却がそれほど単純に進むことはめったにない。
M&Aアドバイザー兼ビジネスブローカーのラマー・ラザフォード氏によれば、最大の課題は買い手不足ではない。真に売却可能な状態に仕上がった事業が不足していることだという。
「事業オーナーは、必ずしも買い手の視点から自分のビジネスを見ているわけではありません」とラザフォード氏は筆者に語った。「買い手は、今後も存続することが分かっており、自分たちで運営し改善していけるものを買おうとしているのです」
数百万人の事業オーナーが引退期を迎えるなか、買い手が何を求めているかを理解することは、成功するイグジットと、いつまでも売れない事業を分ける分岐点になり得る。
押し寄せる事業承継の波
高齢化する事業オーナーが会社からの退出に備えるなか、米国は多くの専門家が「シルバーツナミ(高齢化の津波)」と呼ぶ現象を迎えつつある。
ハーバード・ビジネス・スクールの調査によれば、米国の非公開企業の半数以上が55歳以上の個人によって所有されており、今後数年間で所有権移転の大きな波が生じる見通しだ。
一方で、多くのオーナーは準備不足のままだ。ギャラップの調査によると、小規模企業の経営者の約半数は事業承継計画を持っていないか、所有権を譲渡するのではなく単に廃業することを想定している。
このギャップは、買い手にとっては大きなチャンスとなる一方で、譲渡性を考慮して構築されていない事業の弱点を浮き彫りにしている。
オーナーへの依存が企業価値を損なう
ラザフォード氏が目にする、案件が決裂する最も一般的な原因の一つが、オーナーへの依存度だ。「オーナーが身を引き、それに伴って事業も立ち行かなくなるのであれば、それが会社の価値のすべてになってしまいます」とラザフォード氏は言う。
多くの創業者は、何十年もかけて人間関係を築き、課題を解決し、重要な決定を下してきた。時が経つにつれ、彼ら自身がビジネスのオペレーティングシステム(OS)そのものになる。問題は、買い手はオーナーなしでは機能しない会社を買い取りたくないということだ。
業務プロセスが明文化されておらず、経営陣の層が薄く、意思決定の権限委譲がなされていない事業は、買い手にとってリスクとなる。そのリスクは、評価額の引き下げや、最悪の場合は取引の不成立に直結することが多い。
ラザフォード氏は、売却のずっと前に、自社の自立性をテストすることを勧めている。「オーナーには長期休暇を取るよう勧めています」とラザフォード氏は言う。「オーナーが長期間不在でも事業が回るのであれば、その事業がオーナーに完全に依存していないことの証明になります」
継続課金型モデルが買い手の関心を引く
買い手にとって、すべての売上が同じ価値を持つわけではない。ラザフォード氏によると、今日のM&A市場において継続課金(リカーリング)モデルによる売上は、予測可能性をもたらしリスクを軽減するため、最も魅力的な特徴の一つであり続けているという。
会員制ビジネスやサブスクリプションモデルは、継続的なキャッシュフローを生み出すため、買い手の強い関心を集めることが多い。従来は都度取引が主流だった業界の企業であっても、サービス契約や会員制度、メンテナンスプランなどを通じて、継続的な売上を生み出す方法を見出している。
将来の業績を評価する買い手にとって、予測可能な収益の流れは、単発の売上よりも価値が高いことが多い。
明瞭な財務状況が信頼を生む
好調な財務実績だけで買い手を惹きつけるには不十分だ。ラザフォード氏は、売上高が800万ドル(約12億9000万円)から1600万ドル(約25億9000万円)へと倍増した、急成長中の企業を審査したときのことを振り返る。その成長ぶりは目覚ましいものだったが、財務記録にはすぐに懸念が生じた。40万ドル(約6470万円)近くにのぼるある不審な記載には、単に「詐欺」とラベルが貼られていた。また、別の多額の支出には「会計士に聞いて」と記載されていたという。
「そうしたものはたいてい問題ではないのですが、整理しておくべきです」とラザフォード氏は述べる。
買い手、金融機関、そして投資家は、正確で整理されており、容易に説明できる財務諸表を求める。不透明な取引は疑念を生み、疑念はリスクを生む。
顧客の集中とその他の隠れたリスク
特定の顧客への依存度(顧客集中度)も、買い手が躊躇する原因として頻繁に挙げられる。単一の顧客が売上の20%以上を占めている場合、買収後にその関係が解消されたらどうなるのか、買い手は懸念を抱く。
その他のリスクとしては、主要な従業員への依存、新しいオーナーに容易に引き継げない契約、金融機関が検証できない財務情報などが挙げられる。何年もその状況に慣れ親しんできたオーナーにとっては対処可能に見える問題であっても、買い手にとっては、取引から手を引く十分な理由になり得る。
結論
高値で取引される事業が、必ずしも最も規模の大きい事業とは限らない。それらは創業者に依存することなく、運営や成長が可能で、キャッシュフローを生み出すことができる事業なのだ。
数百万人の事業オーナーが引退の準備を進めるなか、買い手は今も買収の機会を積極的に探している。問題は、買い手が存在するかどうかではない。その事業が、オーナーなしでも存続し、繁栄できるように構築されているかどうかなのだ。



