米メディア「ビジネス・インサイダー(Business Insider)」によると、メタのCTO(最高技術責任者)、アンドリュー・ボスワースは先頃、社内の質疑応答セッションで、社内の士気は「おそらく過去最悪」の状態にあると従業員に語った。社員の士気低下は多くの場合、ネガティブなやり取りの積み重ねや、有害な職場文化から生じる。士気の低下が1つの出来事だけで引き起こされることはめったにないが、特定の言葉が意図せず社員の自信や信頼を損ねてしまうことがある。ここでは、部下の士気をひそかに低下させる恐れのある5つの代表的な言葉と、リーダーが代わりに言うべき表現を紹介する。
「うちは昔からずっとこのやり方だから」
マネージャーがこの言葉を口にすると、部下は新しいアイデアは歓迎されない、イノベーションは求められていないと受け止める。これは、部下が仕事のやり方について「なぜ」と疑問を投げかけたときによく使われる。このセリフは、疑問に対するまともな回答になっていないだけでなく、改善よりも従来のプロセスを重視している姿勢を際立たせる。その結果、「現状を維持し、波風を立てるな」という企業文化が醸成されてしまう。これを何度も聞かされた部下は、前向きな変化は不可能であり、求められてもいないと感じるようになり、何ひとつ改善されない環境が作り出される。
より良いアプローチは、「どこを変えたいと思う?」「もっといい方法はあるかな?」と問いかけることだ。これにより、議論や協調の機会が生まれ、新しいアイデアを受け入れる意思を示すことができる。「昔からこのやり方だから」という言葉は会話を遮断してしまうが、相手に変えたい部分を尋ねることは会話を広げることにつながる。
「今はみんな大変なんだから」
誰もが同じようにキャパシティを超えて大変な状況にあると伝えることは、一見すると共感を示しているように思えるかもしれない。しかし実際には、燃え尽き症候群(バーンアウト)を常態化させているにすぎない。部下が自分の限界を安心して打ち明けられる環境を作ることは重要だが、この言葉は「過度な業務量に悩むのは当たり前であり、何も変わらない」と告げているようなものだ。極度のストレスは仕事の一部だと強調しているに等しい。これでは従業員のエンゲージメントが低下し、士気の低い職場文化が生まれるだけだ。
燃え尽きかけている、あるいはすでに燃え尽きていることを訴える部下に対しては、自己分析ができており、先を見据えている姿勢を称賛すべきだ。自分の限界を察知し、業務過多によってミスが発生するリスクを予見できるのは、ひとつのスキルだ。それは、起こりうるエラーから会社を守る手段でもある。多くの社員は、限界を迎えて倒れるか退職するまで、すべての仕事に「イエス」と答えなければならないというプレッシャーを感じている。部下が懸念を示したときのより良い返答は、「どの業務の優先順位を下げるのが合理的だと思う?」だ。部下と協力して業務量を減らし、均等に分散させることは、本人だけでなく、長期的には会社にとってもプラスになる。社員に過度な負担を強いると、限界点を迎えてしまう。成功している企業は、目先のスピードではなく、持続可能性を最優先している。
「仕事があるだけありがたいと思いなさい」
仕事があることに感謝すべきだと部下に言うことは、士気を著しく低下させる。この言葉は通常、部下が問題を提起した後に使われることが多い。しかし、このような返答は相手の感情や懸念を完全に否定するものだ。雇用は恩恵を施しているわけではなく、会社と社員の双方が互いに価値を提供し合っている関係だ。感謝の念と説明責任は両立しうる。この言葉を使うリーダーは、心理的に不安全な環境を作り出し、あらゆる異論や改善への関心を封じ込めてしまう。社員は毎日、その会社で働き続けることを自ら選択しており、その事実を無視すべきではない。
リーダーが目指すべきは、部下に「恩義」を感じさせるのではなく、「価値を認められている」と感じられる職場環境を作ることだ。より良いアプローチは、チームや部下が提起している問題を認めることだ。状況をどのように改善できるかオープンに話し合い、解決策をブレインストーミングしよう。相手の感情を否定して無理に感謝させるのではなく、「イライラする気持ちはよく分かるよ」と寄り添うことで、より主体的に取り組む社員を育成できる。
「限られたリソースで、さらなる成果を出してほしい」
この言葉は指示のように聞こえるかもしれないが、実際にはネガティブで、社員の士気を損ねる環境を作り出してしまう。リソースは減り続ける一方で、期待される成果は高まり続けると聞かされれば、生産性は低下する。リーダーが部下に対して繰り返し過剰な仕事を求めると、不満と疲弊が蓄積していく。過度な業務負担を受け入れることが、標準的な手順になっては決してならない。
経営陣は、何が最優先事項であるかを議論し、合意形成を図る場を設けることで、より良い結果を得られる。組織には波がある。柔軟な社員を求めるのであれば、状況に応じてリソースと注力分野をシフトさせる能力が会社側にも必要だ。それなしに、相応のリソースを増やすことなく過剰な仕事を抱え込ませ続ければ、社員のエンゲージメント低下、士気の減退、そして離職率の上昇を招くだけだ。
「今のポジションで君は欠かせない存在なんだ」
この言葉は、部下が異動や昇進、あるいはチーム内での異なる役割を希望したときに使われがちだ。リーダーとしては、部下への感謝やその価値を伝える意図があるのかもしれないが、最終的には相手のニーズや実績を退けていることになる。この発言は、「あなたのキャリア成長は都合が悪く、あなたが成果を出すことはむしろ問題を引き起こす」と伝えているに等しい。優秀な人材は、挑戦や新しいタスクを求めるものだ。決められた役割に縛られていると感じると、社員は別の場所で成長できるより良い機会を探し始めるようになる。
より良いアプローチは、今後のキャリアステップについて一緒に話し合うことだ。代わりに「次のチャンスに向けて、どのような準備を進めていこうか?」と問いかけるマネージャーのもとでは、エンゲージメントや仕事への満足度が向上し、部下の士気も高まるだろう。
言葉は職場の文化を形成する。リーダーはよかれと思ってこれらの言葉を口にしがちだが、繰り返されるうちに「社員の懸念は歓迎されない」「成長の機会は限られている」「ストレスは避けられない」というメッセージとして伝わってしまう。これらの言葉を、好奇心や透明性、そしてサポートを示す表現に置き換えることで、信頼関係が強化され、組織における社員の士気を高めることができる。



